8.常夜灯の光も届かない物置の奥の、丁度人が寝転がるので精一杯のスペースに押し込められて口を塞がれた。 下唇に当たる鋭い牙の痛みにあの男だと知る。 強張っていた身体から力が抜けて隙間から忍び込んできた舌を躊躇うことなく受け入れると、抱き締める腕の拘束が強まった。 これも夢なのだろうか。 それとも夢にしてしまいたいだけなのか。 噛み付くようなキスを繰り返す男の黒いジャケットにしがみ付く。 張りのある生地を指先で感じて、これはやはり夢ではないと確信した。 だとしたら、何故昨晩の跡が肌から消えていたのか説明がつかない。 唇から離れ首筋に顔を埋める男に訊ねようとして悲鳴のような声が上がる。 「なんっ!ひぅ…ん!」 キスだけで期待に雫を滴らせていた先を擦られ、明らかな嬌声が漏れた。 気が付けばズボンは膝まで落とされて、着ていたTシャツは捲り上げられていた。 男の手で先の敏感な部分をくにゅくにゅと弄られる。 「やっ…待って、」 「この状態で放置されたいのか?」 鼓動を楽しむように肌の上から舌で脈を押さえ、休めることなく起立を扱き上げる。 膨らむ自身を止められない。 それでも今日は聞きたかった。 「りぼ、なんだろ…」 「どうだかな。」 おもしろくもなさそうにそう返すと、うずめた首筋に牙を立てた。 ぞわりと粟立つ肌に本能が恐怖を覚えているのだと知る。 それでも逃げ出さず、目を瞑ったままでいると男はチッと舌打ちをして牙を収めると強く吸い付いてきた。 「オレがそいつだと都合が悪いのか?」 苛立ったように起立を強く握られて痛さに息を詰めた。 誤解されたくなくて首を横に振っても、男は力を緩めずに張り詰めた起立を握り締める。 「ちが、そうじゃな…いっ!」 握った手はそのままで男の顔が下へと向かい、少し起ち上がっていた胸の先に舌を這わせてきた。 はっきりと形をなぞられて思わず喘ぎ声が漏れる。 「どう違うんだ。そんなモンどうでもいいことだろ。…しょせんは夢だ……」 唾液で濡れた先で息を吹きかけられながらそう呟かれビクビクと身体が震えた。 それを感じた男はクツクツと笑う。 「違う、夢じゃないし…リボーンなんだ、ろ。」 男の思うように踊らされる羞恥に耐えながらも言い切ると、男は握った起立の先に爪を立てた。 突然の刺激に射精感を煽られて、しかし根元で押さえられているせいで吐き出すこともできず悲鳴を上げた。 「ひぃ…っ!」 わざと感じるように胸の先と起立を扱かれて声が出せなくなる。 ハァハァという忙しない息だけを吐き出す生き物に成り下がると、それを上から眺めていた男がフンと鼻で笑った。 「夢にしとけばいいんだ…仮にオレがそいつだとしたらどうだって言うんだ。」 反論も許さないと男が一層硬く勃起したそれを苛め抜くと、胸の先が痛いほどしこっていく。 吐き出したいという欲求に支配されそうになりながらもこれだけは言わねばと口を開く。 「オレはお前がリボーンだと知ってるから、何をされてもいいと思った。……リボーン以外なら嫌だ、」 一番最初の出会いはこちらの男の方が先だった。人狼とかいうバケモノに襲われそうになったところを助けてくれて、そして小さいリボーンと出会った。 似ているのにあまりに大きさが違うことに別人だと思ったこともあったが、小さいリボーンがオレを見詰める目とこの男が上から落とす視線は同じだと気が付いた。 言葉に出さなくても目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。 縋る視線はどちらも同じ色をしている。 胸から顔を上げた男は切れ長の眦をわずかに見開いてオレの顔を覗き込んだ。 やっぱり同じだ。 誰にも心を許していないのに、誰かを探しているような目をしている。 それは誰なのか知らないけれど、きっとオレによく似た人なのだろう。 違うところを探そうとしては打ちのめされて縋り付いてくる、独りぼっちの子供みたいだ。 「オレはオレにしかなれないように、お前はお前だよ。ヴァンパイアだろうと、子供だろうと、大人だろうと。偽らなくてもいいんだ。」 どちらが仮の姿なのか知らないが、ひょっとするとこちらが本来のリボーンなのかもしれない。 だから見られたくなかったのか、それともヴァンパイアとういうのはそういうものなのかこの姿を見られたくないがために今までの行為は夢の中の出来事のようにあやふやで記憶が怪しいようにされていた。 それでもすべてを忘れてしまった訳ではない。 代用品でも構わないとは思わないけど、それでも震えている小さな子供を放り出すことなど出来ないのだといい訳をした。 手を伸ばし男の…リボーンの頬を両手で引き寄せると放心したような表情でゆるゆると顔を近付けてくる。 丁度上にきたところで視線を合わせると笑い掛けた。 「オレはお前が、いやリボーンが好きだよ。」 そう呟いた途端に目の前から顔が消えて、視界が黒で埋め尽くされた。 気付いた時には息もできないほど強く唇を吸われ、空を掻く手が上に覆い被さるリボーンの肩に手をついた頃には酸素不足でただ肩に縋るだけになっていた。 心にストンと落ちてきた好きがどんな種類のものなのかまだ分からないが、それでも今放り出すことも出来ない。 怖がりなオレはバケモノなんてとんでもないと普段なら思ったことだろう。 けれど自分を守ってくれている存在をはっきり認識してしまったら手放すこともムリだった。 口付けを繰り返しながらも手は忙しなく肌をまさぐり、先走りの滲む起立を辿ってもっと奥へと指が下る。 少し尖った爪が窄まりをなぞると昨晩の記憶が刻まれた身体は反応を返した。 期待するようにヒクつくソコに羞恥を覚えても逃げるという選択肢は持ち合わせていない。 徐々に綻びはじめた柔襞に指を埋め込まれ、塞がれた喉の奥でうめき声を上げた。 それも無視され指を増やされる。 やっと解かれた口付けに大きく息を吸い込んだところを思い切り指で擦られた。 あまりの衝撃に張り上げた声は気持ち悪いほど艶を含んでいる。 ビクビクと勝手に身体が跳ね、イク寸前まで高められた射精感は指を抜かれることでのた打ち回るほどのもどかしさを生んだ。 訳の分からない液体が目から口から、そして放置されたままの起立からも垂れていく。 イキたくてそれしか考えられなくなったところで何かが押し付けられた。 死人のような冷たい手が嘘のように熱いそれを宛がわれたと思った瞬間、奥まで貫かれた。 「っ、ん!」 不思議と痛みを感じないまま腹の先まで満たした熱塊は、遠慮なく抜き差しを始める。 膝裏を抱えられたみっともない格好で受け入れることに、怖さも嫌悪感も感じなかった。 ぐぐっと深く突き立てられて声を漏らすと、首筋にリボーンの唇が落ちてきた。 脈に牙が当てられるも、肌に歯を立てるだけだ。 「…吸わないの?」 返事はなく、ただ衝動に耐えるようにそのままでじっとしていたリボーンは牙をおさめて鼓動を繰り返す脈の上に口付ける。 リボーンの肩に縋り付いていた手を首筋にある頭に這わせ根元から梳いた。 ゆっくりと撫でるオレの手に動きを止めたリボーンは、首筋から顔を上げるとまた唇を重ねた。 下からの突き上げに身悶え、どうにもならないほどの快楽に食い千切られる思いで息を吐き出す。 重ねた唇から零れるのはわずかな声と飲み込み切れなかった互いの唾液だ。 口端を伝い喘ぎとともに床に落ちていく。 ゆっくりと離れていく顔の代わりに激しくなる抜き差しに塞ぐもののない口からあられもない声が上がり物置の天井に吸い込まれていった。 . |