リボツナ | ナノ



3.正直こういう展開を待っていました




ほんの3日ほど前の話だ。
普段は放任主義というより子供がいることすら忘れて働いている節がある両親が、何故か朝から食卓に揃って現れた時点で嫌な予感はしていた。
母親似だと評判のオレとよく似た顔の母親が父親の淹れたエスプレッソに口をつける。いつもは結い上げている艶やかな黒髪を揺らしながら顔を近付けてきた。

「リボーン、お話があるの」

「…何だ」

碌な話じゃないだろうと思いつつも顔を上げて母親を見詰めると、その母親の後ろに父親まで現れて驚く。余程の話なのかと顔色は変えずに先を促せば、両親は目配せをしてから話し始めた。

「少し前に話したと思うが、父さんと母さんは同じプロジェクトを進めていると言っただろう?」

「ああ、聞いた」

両親と顔を合わせるのはかれこれ2週間ぶりだったなと気付きながら適当に頷くと、今度は母親が身を乗り出して顔を近付けてきた。

「それでね、母さんと父さんは一度イタリアに戻ることになったの」

そう聞いた瞬間、これで邪魔されることく気軽に赤ずきんを招き入れられるとほくそ笑んだ。
そもそも今でも居るのか居ないのか分からない両親だが、いいところで邪魔されないのはありがたい。
そう内心でほくそ笑んでいると、それでね…と話の続きを持ち掛けてきた。










そんなことがあった3日後の今日、両親はイタリアへと渡り、要らぬおまけがやって来ることになっていた。
家に届いた荷物の山を前に、どれから捨ててやろうかと腕を組んで考えていれば見覚えのある茶色い髪が視界に入る。開け放たれた玄関先の外からいつもの間抜け声が聞こえてきた。

「えーと、手伝えって言われて来たんだけど」

門の影からひょっこり現れたツナは、興味津々といった様子で辺りを見回している。イタリアからの留学生という肩書のヤツらをそれほど楽しみにしているのかと思えば腹も立って、顔を背けると肩をそびやかせた。

「フン、丁度いいところに来たな。そこの荷物を中に運んでおけよ」

「ちょ…オレだけ?お前は、」

玄関の入り口に山積みになっているそれをツナに押し付けてリビングへと歩き出そうとすれば、今度はタクシーが玄関に横付けされる音が聞こえてくる。
邪魔者2人の騒がしい声がタクシーのドアの向こうから聞こえそれに眉を顰めて振り返ると、突然ドアから紫色の塊が蹴り出されてきた。

「釣りはいらねーぜ!ったく、ぐちぐちうるせーな、コラ!リボーンだってちっとはマシになったんじゃねーのか?」

タクシーから現れた金髪に見覚えがありすぎるほどある。とするとそいつに蹴り出された足元に転がっている紫の髪がスカルかと、呆れるほど変わらない様子に鼻を鳴らして顔を覗き込んだ。

「オイ、ご挨拶じゃねぇか」

「げぇ!」

声を掛けるオレにカエルが潰れたような声を上げて逃げ出そうとする紫の塊。その背中に足を乗せると横から腕を引っ張られた。

「おま、酷過ぎだろ!大丈夫?!」

オレの腕を引っ張り足を身体から退かす。そうしてスカルへと声を掛けているツナを見ていた図体のでかい金髪は、驚いた顔で声を掛けてきた。

「お前、誰だ?コラ!」

オレしかいないと思っていたところに、自分たち以外の人影を見付けて気になったのだろう。
無駄な大声を張り上げるコロネロを見上げたツナは突然カチンと凍ると、想像通りの台詞を叫んだ。

「マ、マイネームイズツナヨシ・サワダっ!です!」

日本語で話し掛けられているということさえ分からないらしいツナに、コロネロは気まずげに顔を歪ませてため息を吐いた。

「おう、サワダだな?オレはコロネロだ。そっちの転がってるヤツがスカル。で、お前はそいつの何だ?」

「え、あっ!日本語…」

やっとそこに辿り着いたツナにコロネロは顔を近付けると、ジロジロと不躾な視線をツナに投げ掛けてくる。

「男だよな?」

「んな!?」

「悪かったな、コラ。男だとは思ったが、そいつが休日に男といるってのが信じられなくてな」

「…あ、ああ。うん」

憤りかけたツナは、その後の言葉に素直に頷くと物言いた気な視線をチラリとこちらに寄越してからすぐに顔を前に戻した。
その目が何を言いたかったのかが分かるだけに少々バツが悪い。

「幼馴染み…って意味分かる?」

「ああ、ガキの頃からのツレってヤツか。ならオレたちと一緒だな、コラ!」

「へぇ…」

コロネロの言葉にオレたち3人を見回したツナは、いまだ転がっていたスカルに手を貸してやると2人で立ち上がる。
すると見事にツナだけが埋もれるように小さくて、自然と視線がツナへと集まった。

「オレより小さいんだな」

立ち上がってみればオレより小さいがツナより身長があったスカルの何気ない一言に、ツナが珍しく顔色を変えて食って掛かる。

「オレはまだ成長期だよ!」

「オレも成長期だ。残念ながらそこの2人もな」

「ぐっ…!」

オレやコロネロに視線を送ったツナが唇を噛んでスカルを睨み付けると、気色悪いことにツナの顔を見ながら頬を染めたので思い切り後ろから蹴り上げてやった。

「ブベッ!!」

再び地面と仲良くなったスカルに、またツナが慌てて手を差し伸べたことがその後のオレたちの関係性をよく表していた。






そんなことがあった翌週の月曜日。
いつも通りにツナと2人で登校しようと待ち合わせ場所で立っていると、その近くにお邪魔虫が2匹引っ付いてきていた。
中学への行き方も地図さえ用意してやったというのにと、苛々と舌打ちを鳴らして横を睨むが素知らぬ顔でお邪魔虫はどこかを向いている。
ツナが来る前に追い出したいオレの思いを裏切って、遠くからツナの声が聞こえてきた。

「ごめんっ!初日から遅刻ギリギリにさせて!」

「おう!気にすんな、コラ!」

「…ちょっと待て」

いつの間にか約束を取り付けていたらしいコロネロとツナの会話に待ったをかける。それに息も絶え絶えの様子でツナが近付いてきた。

「…なんだよ?」

今日は珍しくパンを咥えていない。ネクタイも不恰好ながらも結われているのを見て、自分だけの時との違いに憮然としているとこっそり顔を寄せてきた。

「食べ零しついてないかな。リボーンの幼馴染みに恥ずかしいところ見せられないよ」

顔を擦って確かめるツナの言葉の裏に気付いて眉間の皺が緩んだ。

「そんなこと気にするヤツらじゃねぇぞ。大体お前と違ってオレはあいつらなんかどうでもいいんだ、気を使ってやる必要もねぇ」

思っている通りのことを口にすれば、ツナは驚いたように目を瞠りオレの顔を覗き込む見る見る顔を赤らめていった。

「変なこと言うなよ…!」

赤くなった顔を見せまいと顔を背けたツナの肩に手を伸ばすと、ニヤケそうになる顔をどうにか戻して声を掛けた。

「どうした?赤いぞ」

「う、うるさい!」

こういう展開になるならヤツらにも使い道がある。
そう気付いたオレはお邪魔虫をどう調理すべきかを考え始めた。


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