リボツナ | ナノ



1.だから待ち合わせが好きなんです




ご近所さんだからして寝起きの悪い幼馴染みを叩き起こしてやるのもやぶさかではない。事実、つい1年ほど前までは朝飯をご馳走になりつつも、それを実行していたのだ。
それを止めた理由というのが、今の楽しみを知ったせいだと言えばあいつはどう言うだろうか。
手にしていたケータイの時刻を確認して、また鞄を持ち直す。あと3分がリミットだと確かめたが動く気はない。
遅刻すれば小煩い風紀委員長にやれ勝負だ、噛み殺すだのと付き纏われることも分かっているが、そんな煩わしさよりも毎朝の楽しみが自分の中では勝っている。

そろそろ来る頃かと顔を上げると、電信柱の端から見覚えのある茶色い髪の毛が飛び出てきた。
毎朝寝癖を直す時間がないのか、今日も見事な爆発スタイルだ。
口許には食べ掛けのパンを咥え、制服のネクタイは結ぶというより引っ掛けてきているだけ。
寝起き5分で飛び出てきましたと言わんばかりのツナは、オレの顔を見付けるとヤバイという顔をしてクルリと背中を向けてから身支度を済ませ、もう一度パンを咥えてオレの前にまで走り寄ってきた。

「ご、ごめん!!今日は風紀の服装検査だろ?先に行っててよかったのに!」

「ハッ!オレが先に行ってりゃ、てめぇはもっと遅くなるだろうが。ここでオレが待ってるからこの時間に間に合うんだぞ」

「そうだけど、」

他にも何かを言いかけて、慌てたようにツナは口を噤んだ。
何を言いたいのかは分かっているから聞き返さずに、パンを食い切ったツナの頬についていた食べかすを指で擦り取って舐めた。

「お、お前さ…そういうの恥ずかしくないの?」

「何のことだ。んなことはどうでもいいから行くぞ」

「どうでもよくないけど…ちょ、待てって!お前がギリギリ間に合って、オレだけ間に合わなかったら雲雀さんに八つ当たりされるぅぅう!」

聞く耳を持たずに学校へと走り出したオレの後を、いつもの悲鳴を上げながらツナが着いてくるのもいつも通りだ。






この寝起きの悪い幼馴染みと出逢ったのは、幼稚園にあがるというの3月も末の頃の話だ。
イタリアから両親の都合で日本へとやってきたオレは、日本語が出来る両親のお陰でその歳ですでに挨拶ぐらいは日本語が出来るようになっていたオレは、少し近所を散歩しようと一人で家を出るとウロついていた。
きちんと整備されている道路と、お世辞にも広いとは言えない家々が建ち並ぶ住宅街を抜け、それから少し拓けた遊具のある場所へと辿り着いた。

「なんだ、ここは?遊具しかねぇのか…」

公園と言うには木々や土地の少ないそこに驚いていると、後ろから子供の声が聞こえてきた。

「いやだぁ!遊ぶー!ブランコしたいよーっ!」

「もう、ツッ君たら…お買い物した後だからお母さんおウチに先に帰りたかったけど、ブランコだけだからね?」

「うん!!」

そんな会話をしていた優しそうな母親と少しオツムの足りなそうな子供がこちらへと向かってくる。
日本人の子供をこんなに間近で見たことなどなかったオレは、自分よりも随分と明るい茶色の髪の毛をした子供に目を奪われた。
ヨーロッパではさほど珍しくもない茶髪だが、日本人の肌色にその髪の色は見たこともない。零れそうな瞳の色まで同じで思わず横を通るその顔を見詰めていれば、オレの視線に気付いた子供がニコリとこちらに笑顔を向けた。

「こんにちはー!もうかえるの?」

どこか愛嬌のある低い鼻と、少し舌足らずな声に首を振る。

「いいや、今来たところだぞ」

「ふうん。じゃあいっしょにあそぼう!」

握っていた母親の手を放すと、オレに向かって差し出してきた手に自分のそれを重ねた。
小さい頃から物事がよく見えていたオレは、同じ年頃の子供と遊んだことなどないに等しかったにも関わらず、何故かその時は素直に従うことができた。

「ぼく、さわだつなよし!」

「綱吉?随分ご立派な名前だな。ツナで充分だろ」

「うん?うん!」

勿論嫌味も当て擦りも通じる筈もなくあっさりと頷いたツナに、自分の名前を教えたことがはじまりだった。







「ギリ…ッッギリセーフ!って、ことでまたな!」

どうにか時間に間に合ったオレとツナは、風紀委員たちの横を抜けると下駄箱までの短い距離を並んで歩く。
それを目敏く見付けた女の子たちが、オレからツナが離れる瞬間をいまや遅しと待ち侘びていることも毎日の日課だ。
自分で言うのもなんだが、顔よし頭よし運動神経もすべて特上なオレ故に人(主に女)が群がることには慣れている。
しかしツナはといえば、勉強ダメ運動神経なし見た目もどこか頼りない風情のせいか、いつしかオレのおまけ扱いになっていて、それがプライドを刺激するのか今では学校で話せる時間といえばこのわずかな時間だけとなっていた。
居心地悪そうに辺りの気配を気にするツナが手を上げて逃げ出そうとするも、その手を掴んで引き寄せる。すると小柄なツナはいとも容易くオレの胸に転がりこんでくるという寸法だ。

「ひぃぃいいい!!やめ、やめろよ…っ」

殺気立つ周囲の気配に身を縮めながらも、チラリとこちらを覗き込む顔だけを見詰め続ければ顔を赤くしてすぐに視線を逸らす。
俯き加減の口許がほんのわずかに緩んでいることを確かめる、この瞬間のためだけに毎朝の待ち合わせをやめることが出来ないのだった。


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