リボツナ | ナノ



嘘吐きと正直な身体




春休みのお陰でここしばらく夜昼逆転の生活をしていたオレは、やっとゲームを一区切りして風呂から出てきたところだった。
どうやら先生が帰ってきていたようで、夕食が片付けられている。どこにいるんだろうとキッチンからリビングへと顔を覗かせても姿は見えなかった。

「先生…?」

時計を見ればまだ21時を過ぎたばかりで、今日は珍しく早く帰ってきたんだと気付く。と、いうことはワインを飲むためにワインセラーにいるのだろうとあたりをつけた。

「毎日飲んで肝臓大丈夫なのかな、っと!」

先生の姿を探して辺りを見回していれば、ちょこんとテレビの前のテーブルの隅にチョコレートが2粒置かれていた。オレには見覚えのないものだから先生が買ってきたに違いない。
それにしても珍しい。先生は甘い物が苦手というより嫌いというレベルで、そういったものを口にしたところを見たことさえないというのに。
キョロキョロともう一度辺りを見回して先生が居ないことを確認すると、一つ摘んで口に頬張った。
幸いなことに今日という日はまだ終わっていない。悪戯をしてやろうと思ったのだ。
本当のことを言えば少し先生と話しを…というかしたかった。
最近、先生はまた忙しくて夜は勿論朝もすれ違ってばかりいる。だから今日ぐらい構って欲しくて、そのきっかけになるかなと何も考えずにそれを口にした。

「…不味ッ!」

最初はトロリと蕩けたチョコの中から苦味と薬のような匂いが口の中に広がる。
お世辞にも美味いとは言えないそれに顔を顰めていると、リビングの向こうから先生がワイン片手に近付いてきた。

「何だ?変な顔して」

慌ててゴクンと飲み込んだものの、舌の上に残る痺れるような感覚が取れなくて顔が戻らない。それでも口だけは噤んで素知らぬ顔でソファに腰掛けると、やっと先生がそれに視線を落とした。

「お前これを喰ったのか?」

「し、知らない」

聞かれて思わず暴露しかけたオレは、慌てて顔を背けると飛びつくようにソファの上にあるクッションにしがみ付いた。
先生はといえば、呆れたように一つ息を吐くとオレの隣に腰掛ける。

「不味くなかったか?こいつは嗜好品ってより『クスリ』に近いんだぞ」

「…くすり」

何やら怪しげな単語が出てきたことに眉を顰めた。だけど今日は4月1日、エイプリルフールだ。分かっていてオレを担ごうとしているかもしれない。
下手に口を出しては尻尾が出てしまうとクッションに顔を埋めて口を塞ぐ。だけどやっぱり先生の言葉が気になってチラリと横目で伺えば、先生もワインに口を付けながらオレを見詰めていた。

「どうしてそんな物をここに置いといたか知りたくねぇか?」

勿論知りたいに決まってる。嫌な予感がしなくもないが、やっぱり興味は抑えられなくて教えて欲しいと目で訴える。すると先生はニヤリと口許を歪めて笑い掛ける。

「こいつはな、いわゆる性欲増強剤みたいなもんだぞ。一昔前に流行った医者で処方される『クスリ』と違って効力は緩やかみてぇだがな」

「ッッ!」

そう言われればそんな感じもしなくもない。股の間で熱を持ったように疼きはじめた股間をクッションで押さえ付けながら身体を硬くした。

「オレには必要のないモンだがツナはすぐにバテちまうからな…一粒ずつ試していこうと思ってたんだが」

なんつう物を用意してくれたんだと言えれば言いたい。ここまで聞いて実はもう食べましただなんて、バレているのは分かるけど言い出せやしない。
ダラダラと汗を掻きながら必死で視線を合わせまいとソファに手を付いて身体を少し横にずらす。
すれ違いにかまけて自分でしていなかったことが悔やまれた。ご無沙汰だったことをひしひしと自分の身体で感じながら、一度トイレに行こうと足を床に着いたところで先生の手が肩に伸びてきた。

「ひっ!」

「どうした?明日も休みだろう?」

「うう…っ」

確かにまだ春休みだ。しかも構って貰いたかったんだから嬉しいと思いこそすれ嫌な訳じゃない。けれどこの状態だけはやっぱり恥ずかしいと思う。
キスところが触られてもいないのに、しっかり勃ち上がっていることが分かる自身を見られたら何と言われるか想像に難くないだろう。
オモチャのように弄られまくることは何度でもあった。だけど今日は触れ合いたいのであって、好き勝手にされたくはない。
肩に掛かった腕は外される気配もないし、先生の視線は舐めるようにオレの全身を這っていて少しでも動いたら見つかってしまうだろう。
ぐっと噛んだ唇を解くと、そのままため息を吐き出したついでに白状した。

「分かってると思うけど、オレ食べたんだ。だから今こんなんなってる」

クッションを膝の上から退けてパジャマの下を晒す。ズボンを押し上げているソコを見られる恥ずかしさに顔も上げられずに俯いていれば、先生の手がオレの膝に伸びてきた。

「ちょ、待って!」

手にしていたクッションでまた隠す。すると先生はオレの手ごとクッションを外そうと手首を掴まれて慌てた。

「待ってってば!今、してもらったら気持ちイイと思う…だけどオレだけ気持ちイイより一緒が、いい」

顔から火が出るほど恥ずかしい台詞だったが、クスリのせいでこうなったと思えば口からスラスラと零れた。

「ならここでシテみせろ」

「んな!?」

ヤケクソで言った勢いのまま立ち上がろうとしたオレの手を離さない先生は、クッションを無理矢理取り上げてポイっと床に投げ捨てた。

「嫌なのか?どうせ一人でするんだろう?だったらオレの前でしてもいいんじゃないか。そうしたらオレもソノ気になるかもしれねぇぞ」

どんな理屈だと言いかけて、でもそれも一理あるのかとつい丸め込まれそうになる。イヤイヤ、そんな…と首を振ってもやっぱり今日は一緒がいいと自分の理性が白旗を揚げた。

「…オレの、見ればしたくなる?」

「ああ」

どうせクスリのせいだからといい訳をして、でもやっぱり恥ずかしいから視線は合わせられない。モジモジしている方が照れると分かっていても潔くパジャマのズボンを下ろせずにいた。

「脱がしてやろうか?」

「う、うん」

このままじゃずっと脱げないと自分でも分かるから小さく頷いて腰を上げる。ウエストに先生の手が触れることさえゾクゾクするほど気持ちいい。喉の奥から声が漏れそうになる。それに慌てて口を手で塞いでいると、その隙に下肢から下着ごと取り払われた。

「見るなよっ!」

パジャマの上着の隙間から覗く自身のいやらしさに堪え切れずに手でソコを覆う。だけど注がれ続ける視線は逸らされることはなく、無言の催促にそそのかされるまま手を動かし始めた。
元々が淡白だったというか、下手だったせいで自分で慰めることも数えるぐらいしかしたことがない。正直にいえば自分より先生にしてもらう方が何倍も気持ちいいから余計にその気が起こらなくなっていた。
だけどこの状態のまま先生に触られたら甘えてしまいそうで、それは久しぶりの行為が台無しになってしまう。
自分だけじゃなく、先生にも気持ちよくなって貰いたい。だから恥ずかしくても堪えなきゃと自分に言い聞かせて自らの手で扱き上げた。

「んっ、は…っ」

見られているという状況とクスリのせいだといういい訳があるせいで、自分でも驚くぐらい大胆になっていた。
パジャマの上着に食いついて先生の視線に応えるように手で扱くと先から透明な体液が溢れ出る。もっとだと手の隙間を狭めていつもされているように弄れば、目の前の顔がクククッと喉の奥でくぐもった笑い声をあげた。
快楽で霞む瞼を上げて先生の視線の行方を確かめると、自分の手の中で染まる起立とその上のパジャマの奥を見詰めている。

「ッ!」

自慰の様子がよく見えるようにとパジャマを噛んで晒していたその奥。触られてもいないというのに既にぷくりと膨らんだ胸の先が見えて慌てて手で隠した。

「そんなことしてりゃ、いつまで経ってもイけねぇぞ」

「分かってるけど、」

自分はどこまで淫乱になってしまったのだろう。クスリのせいだとしても、こんなになってしまうものなのか。片腕で胸を隠して、もう片手は硬く勃ち上がった起立を握りながら肩で息を吐き出した。
一度イけば少しは治まるだろうと思っていた衝動が、治まるどころか昂っていくだけだと気が付いた。
イけない自身とどうにかなってしまいそうな身体を持て余して、手の平で握った起立から先走りだけが溢れ出る。

「イくところを見せてくれるんじゃなかったのか?」

「う、」

意地の悪い台詞に項垂れると、シャツの裾を両手で握って全部見えるように捲くり上げた。

「や、やっぱりシテ?」

自分じゃイけない理由なんて決まってる。拙い自分の自慰なんかより、先生の視線だけでここまで昂ったことが何よりの証拠だと縋るように見詰めた。情けないけど完敗だ。
そんなオレを見ていた先生は、噛み締めていたオレの唇にゆっくり舌を這わせて背中に手を回す。
すぐに綻んだ口許からするりと忍び込んできた舌に自分のそれを絡めていると、ぐっと引き寄せられて先生の上に伸し掛かった。
布地越しの先生自身も硬くなっていることに気付いて上から擦る。グリグリと自分のソコを押し付けていれば、背中に回されていた手が肌を辿って尻の奥を撫でつけてきた。

「んんっ!」

咄嗟に逃げようとした腰を腕と舌で絡め取られる。指先で後ろを弄られ、執拗な口付けに息もままならない。
押し付けていたせいで互いの昂りが布地越しに擦れ合って、気を抜けばイってしまいそうに気持ちいい。
手を先生の肩に伸ばしてしがみ付けば、窄まりに指を差し入れられて喉の奥から唸り声が漏れた。
痛いけど、それだけじゃないことも知られているせいで指は止まることなく中へと侵入を果たす。

「やっ、ん、ん!」

妙に指の滑りがいいと思えばテーブルの上にはいつもの潤滑剤が置かれていて、こういうことになるとお見通しだったことが知れて恥ずかしい。だけど今更逃げられる筈もないから目を瞑って先生の昂りが欲しいと自分のそれを押し付けた。

「今日は随分と積極的じゃねぇか」

「だって、クスリのせいだろ?」

だから仕方ないんだと先生の肩に息を吐き出しながら答えればクツリと低く笑われた。

「なぁ、ツナ。今日は何の日だ?」

「何のって」

そう聞かれて動きが止まる。まさかと思いながら顔を上げて先生の顔を覗き込むといつもはすまし顔の先生の嬉しそうな顔がそこにあった。

「たまには嘘もいいもんだな」

「嘘?!どれが嘘?ねぇ、どこが嘘だったんだよ!」

知らぬが仏という言葉を身を持って知った、4月1日。

終わり







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