18.真っ白いふわふわの毛にくりっとした紺色の瞳が可愛らしいリスは、名前をユニと言いました。 綱吉の初めて出来た人間の友だちの一人である獄寺のペットです。 なのにユニはリボーンたちのように綱吉の頭の中に直接話しかけてきたのです。 さて、彼女は一体何者なのでしょうか。 そっと手を差し出せばユニは大人しく綱吉の手の平の上に飛び乗ってきました。 リボーンはといえば、獄寺と山本を相手にしているせいでこちらに気が付いていないようです。 どうしたものかと考えていると、綱吉の膝の上にハムスター姿のスカルがよじ登ってきました。 『久しぶりだな、ユニ』 『あら……?えーと、リボーンの下僕の方でしたよね?』 『んなっ!!』 パシリとは言われ慣れていたとはいえ、まさか下僕扱いされるとは思っていなかったのでしょう。スカルはユニの台詞に声を失ってしまいました。 肩と膝の上からの会話を聞いていた綱吉は、そのやり取りで2人が知り合いだったことを知りました。ということは必然的にリボーンとも知り合いなのだということが伺えます。 綱吉の膝の上で小さく丸まってしまったスカルから、肩の上にいる存在へと視線を移していくと、自然と2つの視線は重なっていきます。 淡い茶色の瞳と深い紺色の瞳。色は違えどどこか似通ったものをお互い感じて目が逸らせません。 リボーンの知り合いだからという訳ではなく、ましてやリボーンと同じ境遇だからという同情からでもなく、何故か分かりあえるような気がしてなりませんでした。 白いリスのユニがちょこんと首を傾げると、つられたように綱吉もコテンと首を傾げて笑みを零します。 そんな1人と1匹に気付いたリボーンは小うるさくがなる獄寺から顔を背けると、ツナの手をぐいっと引き寄せました。 「こいつはオレのだぞ。やらねぇからな」 強く引かれたせいで膝の上のスカルはコロリと落ち、肩の上のユニもバランスが崩れて転がりそうになった綱吉からスルッと降りていきます。 ちょこんと床の上に立つユニにリボーンは毛を逆立てんばかりに威嚇しているのです。 どうしてこんな小さいリスに……と不思議に思いながら、綱吉はリボーンの腕に囲われたまま背中を預けました。 いつも自分より先を進んでいると思っていたリボーンが、今は年相応に見えて可愛いなあと抱き込まれながら身をよじるように顔を上げてリボーンを見詰めます。 その綱吉の視線に気付いたリボーンが腕の力を強めてきたことに頬を緩めていれば、それら一幕を見ていた獄寺と山本が床を殴りつけたり、壁に拳を叩き込んだりしはじめました。 驚いた綱吉はすぐにリボーンから離れるとオロオロと2人の前まで近付いていきます。 「どうしたの?何かあったの?」 男なのに男心が分からない綱吉になにを言ってもムダです。そもそも本人たちでさえもまだ分かっていない感情を伝えることは難しいでしょう。 リボーンに綱吉を取られたようで悔しいとは言い出せない2人は首を傾げる綱吉を視界に入れたまま項垂れています。 リボーンはといえば、そんなやり取りなど気にする訳もなく床の上でため息を吐いているユニに小声で何事かを囁きました。 それに頷いたユニがするりと獄寺の手によじ登っていくと、どうにか2人は体裁を取り繕ってぎこちない笑顔を浮かべました。 「ツナ」 「ん?」 リボーンに呼ばれた綱吉がまたリボーンの横へと戻っていってしまいます。それに臍を噛んでいた獄寺に何故かリボーンが声を掛けてきました。 「オイそこの銀髪。明日暇なら並盛商店街にあるスタジオに来い」 並盛商店街にスタジオは1か所しかありません。綱吉たちの通う小学校の近くにある商店街は、子どもたちにとって庭のようなものです。 「んだと…!」 「それと、必ずユニも連れて来るんだぞ」 いかにもぞんざいで横柄な態度のリボーンの言葉に、獄寺はただでさえ低い沸点が余計下がっていくことを自覚しました。 けれどそんなリボーンの横で綱吉が心配そうにこちらを見詰めていることに気付いて、どうにか気持ちを治めるとしぶしぶながらも頷きました。 それを最後まで聞いていた綱吉はなにを思い付いたのかパッと瞳を輝かせると隣の山本へと声を掛けました。 「ねぇ、山本は?明日暇ある?」 「あー…悪ぃ!少年野球の試合が入ってんだ」 ごめんな!と謝る山本に綱吉はがっくりと肩を落としてしまいます。それを見ていた獄寺は山本を押し退けると慌てて綱吉に言い募りました。 「オ、オレは行きますんで!」 「本当?よかった……!毎回可愛い服着ないかって迫られててさ。もう、何でオレみたいなのを使おうとするのかなあ?」 意味が分かんないよと不満を零す綱吉の言葉に獄寺は呼吸さえ止めて顔を引き攣らせながら訊ねてきます。 「……その、沢田さんが迫られているのはどこの洋服屋っスか?!」 鬼気迫る獄寺の問い掛けに、お頭の弱い綱吉は何度聞いても覚えられないブランド名を必死で探しました。 けれど英語なのか何語なのかさえ分からないブランド名はいくら思い出そうとしても思い出せません。 「ごめん、忘れちゃった」 チラリと横にある顔を振り返っても、リボーンは何に気付いたのかわざと知らん顔をして教えてくれる気配もなく困った綱吉は眉をハの字に寄せました。 意地悪だなと心の中で愚痴を零せば、リボーンは綱吉の横に手をついて顔を近付けてきたのです。 時計を見れば時間が迫っていることが分かります。 とりあえず席を外して2人に見えない場所へ移動しようかと目配せをするも、リボーンの手は綱吉の腕を掴まえて動く気配すらないのです。 まさかと思い当った綱吉がリボーンの目を見て不穏を悟り慌てて首を横に振るも、伸ばされた手に掴まってしまえば逃げられません。 時間がないから仕方ないかと瞼を閉じると、すぐに顔の前にリボーンの気配が近付いてきて、どうしてか一旦手前で止まったあとに重なってきました。 いくら毎日しているとはいえ、見られることには慣れたとはいえない綱吉にとって恥ずかしい行為に違いありません。 早く終らないかなとチラを頭に雑念が過りましたが、それではキスした意味がなくなるかもしれないと気付いてすぐにいつもの通り心を込めて唇を自ら強く押しつけます。 そんな綱吉の言動をつぶさに見ていたリボーンは、同じく綱吉を凝視していた2人に視線を投げ掛けると目を細めて余裕の笑みを浮かべました。 茫然と眺めるだけだった2人はそこでようやく目の前の事態を認識すると、頭に血が昇って……そのまま後ろへ倒れ込んだのでした。 床の上に2つの音が響いて、綱吉は閉じていた目を開くとようやく音のした横へと視線だけを向けました。 そこには獄寺と山本の2人が顔を赤くしたまま鼻を押さえて倒れ込んでいます。 リボーンに押し付けていた唇をはがして慌てて2人の傍まで這っていくと、2人の手の平の間からは赤い血が溢れだしていたのです。 「ちょ、ひぇ……!」 後ろ手にティッシュを探り当てた綱吉は、どうにか2人に手渡すと甲斐甲斐しく手当てをはじめました。 しかしそこは綱吉です。お母さんの見よう見まねをしているつもりだというのに、手際が悪くて2人は余計に鼻血を噴き出してしまいます。 焦る綱吉と慌てる獄寺と山本を尻目に、リボーンは最近持ちはじめた携帯電話に手を伸ばしました。 白いふわふわのリスの尻尾が期待に揺れているようにもみえます。 2012.11.19 |