リボツナ | ナノ



16.




ランドセルを背にした綱吉がいつもの時間より少し遅れて帰ってきました。
玄関を開ける乱暴な音と落ち着きのない足音を聞いて小さな鼻先がコタツ布団の隙間から生えてきました。勿論リボーンに他なりません。
黒兎のリボーンは日差しに春を感じつつもぬくぬくとコタツから顔を出してそれを迎えます。

「ただいま!」

『おかえりだぞ。今日は遅かったな。』

「うん!あのね、友だちが出来たんだ!」

『…友だち?』

興奮した様子でランドセルも背負ったままそうリボーンに語りかける綱吉に黒兎は胡乱げな視線を投掛けました。
綱吉は同じ学年の子と比べるとかなり鈍臭い子供です。いまだに自転車に乗れない上に運動も勉強もこれといって出来る訳でもなく、さりとてリボーンたちのような華やかさにも欠けているので小学校ではいつも目立たない存在のようなのです。
それでいいと思っているリボーンは、友だちという言葉に過剰に反応しました。

「クラスどころか学校中の子が知ってるぐらい有名なんだ!」

『フン、バカでだろう?』

「違うよ!勉強はオレと同じくらいかな…でも運動はすごく出来るんだよ!」

『バカでも一つくらい特技はあるもんだ。』

「もう!さっきから一々突っかかるのはなんでだよ?」

リボーンにしてみればどうして分からないのか不思議でなりません。顔を赤くして手洗いもせずにランドセルを背負ったまま興奮気味に語る綱吉を見ていい気分の訳がないのです。コロネロやスカルたちですらツナに触れることが許せないというのに、自分の見ていな場所で『友だち』なんて作ってきた綱吉に怒りすら湧いてきました。
表情のない兎の身ではそれを伝える術もなく、腹が立ったリボーンはコタツの中へと潜り込んでしまいました。

「リボーン?」

綱吉が呼びかけても返事すらしません。心配した綱吉がコタツ布団を捲ってリボーンを確かめようとすると、今度はそこから抜け出したリボーンはピョンピョンと居間から飛び出していきました。

「なんで…」

悲しくて、だけどどうしてリボーンが怒ってしまったのかすら分からない綱吉は追い駆けることも出来ずにペタンと座り込んでリボーンが消えていったドアの隙間をただ眺めるだけです。
急に重くなったランドセルが肩にずしりと食い込みます。
綱吉にしてみれば、リボーンにコロネロ、スカルという仲間が出来たことで学校でも動物を飼っている子と話が出来るようになったのです。
だからリボーンたちのお陰だよというつもりで話し掛けたのにどうしてこんなことになってしまったのか皆目見当もつきません。
友だちが出来たことを一番の『仲良し』であるリボーンに報告したかったのにと、大きな瞳からポロリと伝い落ちたそれがコタツ布団にしみを作りました。

『…まぁ、あれだ。今のは先輩が大人げないとオレも思う。』

いつの間に綱吉の隣に寄り添っていたのか、スカルがちょこんと小さい身体を綱吉の膝に乗せようとよじ登っているところでした。
驚いた綱吉は、それでも泣き顔を見られたくなくてぐしぐしと手で顔を擦ります。
擦れて余計に赤くなった鼻先を眺めながら、ハムスター姿のスカルはチチッと声を出しました。

『ただでさえオレたちは魔法が掛かっている状態だからな……分からないでもない。』

「それってリボーンがヤキモチを妬いたってこと?」

『ブブッ!!間違っても本人に言うなよ。』

「?どうして?」

『男の沽券に関わるだろう?』

「なに、それ?」

言葉も分からなければ、気持ちもまだ分からないのだろうとスカルは思いました。多分、間違ってはいません。
そもそもヤキモチという言葉もどこまで意味が分かっているのやら…
小さいハムスターが小さくため息を吐くと、それを見ていた綱吉はスカルを膝の上から降ろしてスクッと立ち上がりました。

「謝ってくる!」

『…ほどほどにな。』

何をほどほどにするのか分かりませんでしたが、綱吉はうん!と力強く頷いて扉の向こうへと消えていきました。
ドタドタという足音が2階に駆け上がる音を聞きながら、スカルはもう少し綱吉の膝の上でまどろみたかったなと優しい温もりに思いを馳せました。













小さい兎のリボーンが本気で隠れようと思えば綱吉に見つけられる訳もありません。
しかし居場所が分からないことで、不意に踏んづけられるという危険性もあるので普段は隠れることもしないのです。
勢いよく自室のドアを開けた綱吉でしたがいつもの場所にリボーンはいませんでした。
いくら綱吉が小柄とはいえ人間の体重で踏んでしまっては兎など死んでしまうかもしれません。足元をよく確かめてからベッドに辿り着くとそっと上掛けを捲くり上げて中を覗きました。

「いない…」

家に帰ってきて一番最初に向かうのはリボーンのいる場所です。視界のどこかにリボーンがいるという生活に慣れた綱吉はいないことに不安を覚えました。
今まではリボーンの魔法を解くという理由で一方的にリボーンが綱吉を追い駆けるというスタンスでした。
だからこんな風にリボーンが綱吉から離るなんて思ってもみなかったのです。
謝れば許して貰えると気軽に考えていただけに、その姿すら見つけられないことに綱吉は焦りました。

「リボーン?ねぇ、リボーン!」

ランドセルを背負ったまま辺りを見回して、だけどやっぱり見つかりません。
綱吉から逃げようと隅に入り込んでしまったのではと部屋の中の隅という隅を覗き、それから手を伸ばしたり声を掛けたりします。

「…もう、嫌われちゃたのかな……」

いつも、いつも。昔から鈍臭くて人の心の機微に疎かった綱吉は、同じような思いをいっぱい繰り返していました。
誰からも相手にされない辛さを思い出して声も上げずに泣いていると、窓の外からニャアと聞き覚えのある鳴き声が掛かりました。

「コロネロ…あ、リボーン!」

『おう!こっちに来る途中で脱走兎を見つけたんでな。掴まえてきたぜ!』

窓を開けて中に招き入れると、金色猫に銜えられた黒兎がジタバタともがいています。
きちんと窓を閉めて、それから部屋の扉も閉ざしてからコロネロに銜えられている黒兎を受け取りました。

「ありがとう、コロネロ。ねぇ、リボーン…もうオレに飼われるのはイヤ?」

リボーンにイヤだと言われたら、今度はもっといい飼い主を探してあげようと思いました。学校で友だちになってくれた子以外にも、動物好きな子がいっぱいいることを綱吉は知ったからです。
手の平で黙ったままの黒兎は鼻をヒクヒクと動かすだけで一言も語ってはくれません。
それを見ていた金色猫は大口をあけて欠伸をすると、でっかい身体を伸ばしてからゴロンと寝転がって綱吉にバラしてしまいました。

『ツナの言ってる意味は分からねーが、こいつは兎姿のままウチに来ようとしたらしいぜ?』

「へ…?京子ちゃん、ち?」

『ツナの友だちがどんなヤローか京子から根堀葉堀聞きだしてやるって、』

『てめ、それは言うなっ!』

『知らねーな。大体、お前ツナの顔見てんのか、コラ!』

言われて自分の顔のみっともなさに気付いた綱吉は黒兎を床に置くと袖口で顔を慌てて擦りました。
勿論、擦れば赤くなるのは道理で兎のリボーンより赤い目は隠しようもありません。
それでも拭き取った涙の跡が残る顔で笑顔を作る綱吉に黒兎は小さい耳を立たせて近付いてきました。

『泣いてたのか?』

「違うよ、違う!リボーンに愛想つかされたのかなんて思った訳じゃない!」

言葉を飾るということも、取り繕うという概念すらない綱吉に黒兎は耳を跳ねさせて髭をもぞもぞ動かします。
表情のない兎に何故か笑われているようで、恥ずかしさに居た堪れなくなった綱吉はベッドに顔を埋めて2匹の視線から逃れようとしました。

『バカだな…本当にバカだ。』

「しみじみ言わなくてもいいだろ!」

埋もれているベッドの上に飛び乗ってきたリボーンは、綱吉の腕を掻い潜って真っ赤に染まった顔に鼻面を押し付けました。
ぴたりと張り付いた冷たい感触にビクッと肩を揺らした綱吉を可愛いなと思いながら、何度も何度も押し付けてやるとやっと綱吉は顔をこちらへ向けてきました。

「…どっか、行っちゃわない?」

『行かねぇ。』

「魔法が解けても?」

不安そうにリボーンを覗き込む表情にはまだ色恋などどこにも見当たらなくて、それなのに自分と魔法が解けるまで…いやそれ以降も一緒に居たいと思ってくれているのだと知って心が温かくなったことをリボーンは自覚しました。

『ずっとだぞ、覚悟しとけ。』

「うん!」

嬉しそうに返事をする綱吉に金色猫はやってられるかとそっぽを向いてまた欠伸をしていました。

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