リボツナ | ナノ



15.




毎度のことながら異様な光景です。小さな動物と少年が種族を超えて会話する姿というのは。
しかし、見るものもいない今はそれに気付くこともありません。

ここまで条件が揃っていれば疑いようもないと腹を括った綱吉はそっと子ザルに手を差し伸べます。それに誘われるように子ザルが綱吉の手の平の上に乗るとじっと綱吉を見詰めています。
顔の前まで掲げて、それからそっと顔を近づけていきました。子ザルも大人しく目を瞑って綱吉のされるがままでいます。
ちょんと子ザルの小さな小さな口に綱吉の唇が触れました。ぼわん!と音を立てて白い煙が視界を塞ぐとその奥からリボーンたちと同じくらいの男の子が現れたのです。
その男の子はアニメでよくデフォルメされている中国人のような格好をしています。しかも三つ編みまで。リボーンたちのようなパッと目を引く華やかさはありませんが、とても整った顔をしている男の子です。
その男の子が綱吉に焦点を合わせると緩めていた視線をわずかに瞠って呟きました。

「おやおや…これは僥倖。」

「ぎょう…?」

名前だろうかとその三つ編みが揺れる肩先から優しげな笑みを浮かべる男の子をぼんやりと見上げていると、その顔が見る間に近付いてきて視界を肌色に染められると唇をむにゅっと生暖かい何かに塞がれました。
され慣れている綱吉は即座に手を振り回すとその男の子から逃げ出すことに成功しました。

「ななななにするんだよ…!」

「何ってキスですよ。たくさんしなければ人間に戻ることは出来ないと聞いたので。」

それはそうですが同意も得ずにされては堪ったものではありません。しかも名前も知らない相手に…とそこまで考えてふと綱吉は気付きました。

「なんでキスすると戻るって知ってるの?」

「それはこちらもお聞きしたいところです。見れば君もよく事情をご存知のようですね…」

裏表のなさそうな笑顔のままそう言うとまたも綱吉に近付いてきます。バスタブの中に逃げ込んだ綱吉にはそれ以上逃げ場がありません。
どうしようと焦る綱吉をよそに差し伸べられた手が頬にかかろうとしたその瞬間、バスルームの扉がガラリと開きました。

「どうした、やっぱり寂しくて泣いてるんじゃねぇか?」

どうにかコロネロとスカルを押さえつけて綱吉の元までやってきたリボーンです。あまりに物音がしない風呂場が気になって覗きにきたリボーンは、綱吉に迫る中国系の少年を見てサッと顔色を変えました。

「てめぇ、何者だ?」

「さて…どうやら君たちと同じ境遇だということだけ。またお会いしましょう、麗しのお姫さま。」

それだけ言うと綱吉の頬に唇を寄せ、リボーンが掴みかかる前に身体をくるりと回転させてバスタブの隅に立ちました。次の瞬間、ぼん!と辺りが煙に包まれてそれが晴れた頃には先ほどの少年は姿を消していました。

「なんだったんだろう…ってか、姫って誰のこと?」

残されたままの疑問と綱吉の頬に残る暖かい感触だけが先ほどまでいた存在が確かであったことを示していました。
憮然とした表情のまま綱吉の顔に湯船の湯をかけてくるリボーンに息が出来ないと手をバタつかせてもがいていると、今度はタオルが頭の上から降ってきて痛いほど頬を擦られます。

「痛たっ!ひどいよ、リボーン!」

力を込めて擦られたせいで真っ赤になった頬を押さえながらリボーンを睨みつけると、綱吉よりもっと不機嫌な顔が迫ってきました。
押さえていた手を掴み取られ、擦られたせいでヒリヒリする頬をペロペロと執拗に舐めていきます。
湯船に浸かったままの綱吉は、痛いし熱いし恥ずかしいしと段々ぼんやりと視界が霞みはじめました。
なんか真っ暗になっていくなぁと思ったのを最後に綱吉は意識を手放しました。








薄暗い部屋にはスウスウと小さな寝息が3つ響いていました。
額の上の氷嚢はすでに水に変わってしまっていて、わずかな冷たさを残すだけです。
重いそれを頭から外そうと手を伸ばすと傍らには黒い兎と金色の猫とブルーグレーのハムスターが綱吉を取り囲むように小さく丸まっています。
どうやら風呂場で倒れた綱吉を看病してくれたらしいことは、頭の上のそれとあたりにちらばる冷えピ○でよく分かりました。

湯中りをおこした場合には首や脇の下、それから太腿の付け根を冷やすといいと聞いたことがあります。
だからきっと一生懸命看病してくれたんだろうなと思いながら頭の上から下ろすと重たい身体をゆっくり起こして驚きました。

「……なんで裸のまま?」

風呂場で倒れたのですから仕方ないといえば仕方ないのかもしれません。それでもリボーンあたりなら違う意図があったのではと思うほど綱吉は彼の考えを読めるようになっていました。
まだ幼い綱吉には裸が恥ずかしいという気持ちは薄いようで、まぁいいかとあっさり気持ちを切り替えてそれでも少し寒いからと寝かされていたベッドの上から足をそっと降ろしました。

『気が付いたのか…?』

「っ、わわわ…!」

寝ていたとばかり思っていた黒兎が綱吉の背中に突進してきて、びっくりした綱吉は思わず悲鳴を上げそうになりました。
それでもどうにか飲み込むと、擦り寄ってきた黒い毛玉…じゃない黒い兎にしぃ!と指を立てると鼻をヒクヒクさせてフンと笑われました。

『今更だぞ、他のヤツらも起きた。』

そうリボーンが言うと金色猫が伸びをして、埋もれそうなほど小さなハムスターはその毛色のせいで見失ってしまったと焦る綱吉の膝の上によじ登ろうとしていました。

「起こしちゃってごめんね。」

『気にするな。なんでも風呂場に痴漢が出たんだってな、コラ!』

『どんなヤツだったんだ?』

どうやらそういうことになっているようです。
詳しく説明する前に綱吉が昏倒してしまったせいだと思い違うのだと説明しようとしましたが、あまり賢くない綱吉には上手い言葉が見付かりません。
どうしようと考えてもやっぱりそれが一番近いのだろうかと思わず納得してしまった綱吉は、スカルを蹴落とした黒兎の背中を撫でながら言いました。

「リボーンと同じような人だったよ。」

『『そいつは間違いなく変態だな!』』

リボーンのことを2人はどう思っているのかよく分かる発言に、怒り心頭のリボーンが兎姿のまま猫とハムスターを夜中じゅう追い駆け回したのでした。

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