リボツナ | ナノ



12.




夜が明けました。
ゆっくりと流れた一晩は、ひどく長かったような気がします。
あれからスカルと一緒にまた布団の中で丸まって目を閉じたというのに結局あまり眠ることが出来ずにやっと朝日が差し込んできたことを確認して綱吉は起き上がりました。

「ありがとう…」

ハムスターにとっては人間と一緒に眠ることは怖かった筈なのに、昨晩は嫌がらずに一緒に寝てくれたスカルは小さな寝息を立てています。
身体の大きさが違うのですから踏み潰されたら大変なので怖くて寝れなかったのでしょう。
そんなスカルに感謝を込めて小声で呟くと、ベッドからそっと足を下ろして自室のドアに向かいます。スカルを起こさないようにと気をつけながら鍵に手をかけました。

一晩経っているということはリボーンは兎姿に戻っています。話をしようと言われたのにそれを聞き入れなかった自分をどう思っているのかと身体が竦みましたが、育ち盛りの綱吉のお腹は一晩の絶食に耐え兼ねてぐうぅ…と情けない音を響かせていました。
後で謝ろうと腹を決めてドアを引くと足元には布巾を被せてある何かと黒い毛玉がちょこんとあります。布巾の下にはお母さんのおにぎりとしば漬け、それから水筒。しかし綱吉が目を瞠ったのはその横の黒い毛玉にでした。

「リボーン…」

暖房も効いていない廊下は底冷えがして空気がヒヤリとしていました。いくらリボーンがふわふわの毛がある兎とはいえこんな寒い廊下に一晩いれば風邪をひいてしまうかもしれません。
慌てて黒い兎を抱えるとフリースを開いて胸の中に押し込めました。

『…ん、どうした?』

「どうしたじゃないよ…!こんなところで寝たら風邪ひくだろ!」

寝ていたらしいリボーンは綱吉の匂いを嗅ぐように鼻をヒクヒクさせると、暖を求めるようにフリースとTシャツの間に潜り込んでいきます。
くすぐったさにひゃあ!と声が出て慌てて口を閉じました。まだお母さんも起きていない早朝なのです。

おにぎりが乗ったおぼんを片手にスカルとお母さんを起こさないようにそーっとそーっと足音を忍ばせて1階の居間へと降りてきた綱吉は、コタツの上におぼんを置くと急いでコタツに電源を入れてから胸の中で鼻を擦り付けて温まっている黒兎を覗き込みました。

「いつからあそこにいたんだよ。」

『ずっとだぞ。』

「ずっとって…」

『だからずっとって言やずっとだ。』

だとするとあの拒絶からということでしょうか。小さい兎の上に真っ黒な顔では表情が読めません。人間に戻ってもらってから話をしようと自分の懐に手を入れてリボーンを掴もうとするとするっと綱吉の手から抜けて奥へと入り込んでいってしまいます。

「リボーン!」

『…本当にいいのか?』

「え…?」

『オレが人間に戻るにはツナがキスするしかねぇんだぞ。してくれるのか?』

「あっ、」

言われて気付くなんてさすがは綱吉です。そして人間に戻るということは嫌でも昨日の続きをリボーンから聞くことになるのだと分かって手が止まります。
けれどリボーンが風邪をひいていないか、どんな顔をしているのかを知りたい欲求が綱吉を突き動かしました。

奥へと入り込んだせいで腹まで降りてしまっていた黒兎をシャツの裾をたくし上げ膝の上に転がり出すことに成功した綱吉は、そっと手の平に黒兎を乗せて目の前まで掲げ上げゆっくりと顔を近づけていきます。
最近では日常とかしたその行為に、今日は最初の頃のような緊張感が漲ります。
ちゅっと兎の鼻に唇を寄せた綱吉の視界が白い煙に包まれてそれが徐々に晴れてくると全身真っ黒に覆われた少年が無表情で綱吉を見詰めていました。

いつもならばリボーンのわずかな表情で何を考えているのか予測がつくのに、今日はちっとも分かりません。
話も聞かずに篭ってしまったことを怒っているのか、それとも冷えた廊下にいたせいで体調を崩してしまったのか。見下ろすリボーンの人形のように整った顔を視線を逸らすことなく眺めていると、その顔が深いため息を吐き出しました。

「風邪はひいてねぇから安心しろ。」

「う、うん…」

正座して見上げていた綱吉の前にあるコタツの上に腰掛けるとらしくない表情を作る眉間を指で揉みはじめました。

「勢いがねぇと恥ずかしいもんだな。」

などと言い出したリボーンの言葉を聞いて綱吉は我が耳を疑いました。だってあのリボーンが恥ずかしいだなんて何事でしょう。人前で同性である綱吉とキスをしてもへっちゃらだというのに。あまりに堂々としすぎて今ではリボーンと道を歩けば可愛らしいカップル扱いをされることが日常なほどです。

リボーンの顔をマジマジと見詰めていると苦虫を噛み潰したような表情でボソリと呟きました。

「最近家を空けていたのは仕事をしていたんだ。」

「仕事?!」

リボーンは10歳のツナより2つ年下だと言っていたので8歳でしょう。8歳といえばまだ綱吉と同じ子供です。勿論綱吉だって仕事なんかしていません。小学生が出来る訳もないのですから。
どういうことなんだろうと続きを促すと、リボーンはバツが悪そうに視線を彷徨わせながら顔を隠すように横を向いてしまいました。

「昨日の女は日本に来る前からの馴染みでな。散歩に出掛けるようになったオレをたまたま見かけたんだと。オレもツナのママンに世話になりっぱなしなのは悪いんで仕事を再開したって訳だ。」

「ふ、ふーん?」

そう返事はしたものの、なにか釈然としない綱吉は何に引っ掛かっているのだろうかと自問自答を重ねました。
そんな綱吉を横目で見ながらこれ以上は喋る気はないとコタツの上に置いておいたおにぎりを頬張りはじめました。

「あっ!それオレの…!」

「煩ぇ、てめぇの癇癪のせいでオレも喰ってなかったんだぞ。だからこいつはオレのだ。」

「んな!?酷いよリボーン!」

「フン!」

綱吉に渡す気はないと抱えて背を向けたリボーンにぷうっと膨れても堪える訳もありません。
安心したせいで急にお腹が空いた綱吉は、何か冷蔵庫に食べられるものはないかとキッチンへと足を忍ばせました。

「うう…お腹空いた。死んじゃうっ!」

泣き言を言いながらもキッチンに辿り着いた綱吉は、足を踏み入れた先のキッチンの奥にある冷蔵庫の扉にデカデカと貼ってあったポスターを見て思わず大声を上げてしまいました。

ぎゃあぁあ!!と早朝の沢田家に響く驚嘆の声に慌ててリボーンがキッチンへと駆けてきて覗き込んだ先には…

「なっ!?」

ひらひらのレースや細かいリボンが散りばめられた洋服に身を包んだ自分の情けない姿がポスターとして張り出されていました。

「り、りぼーんだよね??」

さてこれはどういうことでしょう。

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