リボツナ | ナノ



10.




スカルが沢田家に飼われることになって1週間が過ぎました。
ブルーグレイの毛並みが艶々で可愛いハムスターはその見た目とは裏腹にとても気が強くて負けず嫌いなのだと綱吉は知りました。

そんなスカルはリボーンやコロネロたちより一つ下なのだと聞いて、弟が出来たようで綱吉はスカルを構ってばかりいます。
だってリボーンやコロネロと違って、綱吉と背丈が変わらないどころかほんのわずかに低くてその上3つも年下なのですから。

今日も今日とてリボーンの目を盗んでどうにか綱吉にキスをして貰ったスカルは、隠れるようにコタツの中で丸まっています。そんなスカルの潜るコタツ布団をひょいと捲ると大きな瞳でスカルを見詰めながらとんでもないことを言い出しました。

「ね、スカル。今日こそ一緒のお布団で寝ようよ!」

「冗談じゃない!お前と一緒に寝るってことはリボーン先輩とも枕を並べるってことだろう?!殺される…!」

リボーンの尋常ではない綱吉への独占欲に気付いているスカルはブンブンと紫色の頭を振ります。その否定の仕方たるやまさに全身全霊でといった様子です。
そんなつれないスカルにしょんぼりと肩を落とした綱吉はコタツ布団をしおしおと戻すと膝を抱えて小さくなってしまいました。
綱吉のことは決して嫌いな訳ではないスカルでしたが、これがどんな気持ちなのかはまだ知りません。神童だ、天才だと持て囃されていても所詮は子供だということでしょう。
それでも綱吉を傷付けることは本意ではないのだと、コタツから抜け出して自分と同じくらい小さな背中に凭れ掛かりました。

「…しょうがない、風呂ぐらいなら一緒に入ってやってもいい。」

「本当?!」

パァアと花が綻ぶように笑みを浮かべる綱吉に胸の奥の妙なところがぎゅうと鷲掴まれたように苦しくなってきて、ひょっとしたら呪いのせいで病気にかかってしまったのではとスカルは考えました。
コタツ布団の横に膝小僧を抱えてニコニコとスカルを見下ろすツナの顔を見ているとドンドンそれが酷くなっていきます。
この場合は獣医か、それとも人間の医者に診せるべきなのかと頭を悩ませていると恐る恐るといった調子で綱吉の手がスカルの頭に伸びてきました。

「触ってもいい?」

どうやら綱吉はスカルの紫がかった髪の毛が珍しようです。ハムスター姿の時は綱吉が大き過ぎて触られることが苦痛でしかありませんが、人間の姿ならば別です。
無言で頷くとスカルの了解を得て伸びてきた小さい手がそっと髪の毛の中に入り込んできました。
以外と硬めの髪の毛は整髪剤で整えてあるせいで余計にごわついていてすぐに指が引っ掛かってしまいます。その硬い髪の毛を掬うと突然顔が近付いてきました。

「なっ、なんだ!?」

「うーん、すごいね!コロネロの金髪もキラキラして綺麗だったけど、スカルの紫色の髪の毛も綺麗だよね…」

「そうか…?」

そんなことなど言われたことがなかったスカルはどう返事をしていいのか分かりませんでした。
小さい頃から変わった髪の毛の色をしていたせいで仲間はずれにされたり、いじめられたりしていたスカルは綱吉の言葉にドキマギと胸が高鳴っていくことを自覚しました。
リボーンの言っていた『人誑し』の意味を理解しながらも逃げ出す気にもなりません。
チラリと綱吉を見上げると大きな瞳が宝物を前にしたような瞳でキラキラと輝いていて、その視線の先に自分がいることがひどく嬉しいのだということに気が付きました。

「お前が望むならいつでも触ってもい、」

いいぞと言い掛けた言葉が突然止まり、スカルの顔色が青から漂白されてしまったように白へと変色していきました。
どうしたんだろうとスカルの視線の行方を追って綱吉が後ろを振り返ると、腕を組んで仁王立ちしたリボーンが少し垂れ気味の眉をピクピク動かしてスカルを睨みつけています。

「おかえり!」

野暮用だと少し出掛けていたリボーンが手に小袋を抱えたままツナへと近付いて頬の顔を寄せてきました。

「ただいまだぞ、ツナ。それから…パシリ。」

「パシリじゃない!」

と思わず言い返してしまってからリボーンが苛立っていることをスカルは察しました。
旧知の仲といってもスカルとリボーンとコロネロの間には心温まるエピソードなど何一つなく、あるとすれば一方的な上下関係しかありません。勿論スカルが一番下だということは言わずもがなでしょう。

いつものように黒いスーツに黒い帽子を被った小さな大人のようなリボーンの、口許だけは弧を描いているようにも見えるそれを見てスカルはブルブルと震え出しました。
チャームポイントだというくるんとした揉み上げを指に絡ませながら笑ってなどいない瞳の色を見てコタツの中に慌てて潜り込むと、頭上からガタンと音がして暗かった筈の視界が突然開けて明るくなりました。
コタツを蹴り上げられて外へと引き摺り出されたスカルは目の前の足が一本しかないことに気付いて咄嗟に逃げ出そうとしましたが…

「ぐぇ!」

「あぁん?どうしててめぇが戻ってんだ。人の留守中にイイ度胸じゃねぇか。」

背中を足蹴にされたスカルは押し潰されたような声しか出せません。
それを見ていた綱吉は急いで止めに入ろうとしましたが、リボーン相手に口を挟む隙間もなくオロオロするばかりです。

「ツナはオレ様のもんだと言ってるだろうが。」

「そんなこと誰が決めたんだ!」

「誰だと?オレが決めたことに口出しする気か?」

口答えをしなければいいのに余計な口を挟むスカルを思い切り体重を掛けて踏みつけるリボーンに、息も出来なくなって潰されそうになるスカルを守ろうと綱吉がリボーンの腰にしがみ付きました。

「ま、待って!オレがスカルを勝手に戻したんだ!」

「ツナ…?」

「だってスカルはオレより小さいし、3つ下だし…可愛いんだもん。」

それはお前だ!という2人の心の声も聞こえない綱吉は零れ落ちそうな大きな瞳を潤ませてリボーンを見上げて縋りつきます。
綱吉の涙に弱いリボーンはしぶしぶスカルから足を退けると綱吉の顎を持ち上げて立ち上がらせました。

2つ年上の綱吉は、けれどリボーンより小柄で細くてそしてほわほわとした髪の毛とでっかい瞳が印象的な可愛らしい少年です。
甘すぎるほど甘い性格も自分にはないところがいいのだと思った時点で終わりだったのでしょう。悔しいけれどリボーンは綱吉にベタ惚れでした。

まだ皮膚の薄い柔らかい頬に鼻を寄せると綱吉はビクンと身体を震わせます。次にリボーンが何をする気なのか知っているからです。
風呂の中や寝る前の2人を知らないスカルはただ見せつけられるそれを呆然と見上げています。

リボーンの形のいい薄い唇が綱吉の頬をなぞっていき、それから耳たぶまで辿り着くとちゅっと吸い付きました。それに顔を赤くした綱吉が堪えるようにぎゅっと瞼を閉じると支えるようにリボーンの手が綱吉の背中にまわって抱きとめます。
身体を硬くしているのにされるがままの綱吉に嫌なら逃げろと言いかけてそうではないことにスカルは気付きました。
唇の辿る先を期待するかのように流されていく綱吉の赤く染まった顔を眺めている内に、ムカムカとせり上がる何かに突き動かされて思わず綱吉の手を掴み取って自分の方へと引っ張り寄せてしまいました。

「っ!?」

カクンと力の抜けた膝がいとも容易く綱吉に尻餅をつかせました。
驚いた綱吉と同じくらい驚いているスカルが、それでもしっかりと手を絡めてリボーンから引き剥がせたのだと喜んでいると頭の上にぬっと暗い影が立ち込めてきました。



いいところを邪魔されたリボーンの怒りを一身に受けたスカルはしばらく人間に戻りたいと言い出すことはなかったそうです。

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