リボツナ | ナノ



10.寝顔にそっと口付け




随分とくたびれた様子のツナの寝顔を覗き込みながら、まだしっとりと湿っている髪に指を差し入れた。
普段はふわふわとしていて跳ねて纏まりのない髪の毛の手触りは柔らかい。
たんぽぽの綿毛のようだとくすりと笑みを零すと、そんな小さな声に反応したのか頬に翳を作っていた睫毛が揺れてゆっくりとミルクチョコレート色した瞳が現れた。

「せんせぇ?」

「どうした、寝てろ。」

そう言うとぼんやりと焦点が定まっていなかった視線がふにゃりと笑み崩れて肩口にすりすりと頬を寄せてきた。
パジャマの襟口から覗く赤い鬱血の跡に手首を拘束していた擦り傷を視界にいれて口許が思わず緩む。
そんなオレに気付かないツナが首に腕を回すとそのまま目を閉じた。
くぅくぅという安らかな寝息が首筋にかかってくすぐったかったがツナを手放す気にもなれずにそのまま肩を抱えて引き寄せた。

こうして誰かと寝床を共にするなんて以前の自分では考えられないことだ。
来る者拒まず、去る者追わず。最低だと言われればそうかもしれないと思える程度には大切なものが出来た。
今まで一度でも誰かを欲しいと思ったこともなければ、オレを望む人の気持ちを考えたこともなかった。
好きなの、愛してるのと迫られてもそんなもんかと上辺だけの常套句でかわしては深く係わり合いになることを拒んできた。

それが、である。
たまたまバスの中で年寄りと子供に因縁をつけるみっともないオヤジを止めたところに出くわした少年がツナだった。
今よりもっと線が細くて一瞬少女なのかと見間違えたほどで、自分にしては珍しく可愛いと素直に思えた。
だがすぐに少年だと気付いたオレは男に興味はないとその場を離れて降車した。
その後は故障中だった愛車が戻ってきて、そのことを忘れかけていた時に知り合いからの頼まれ事を引き受けることになった。
どんな優秀と言われる家庭教師でも根を上げるほどの出来損ないを一人面倒を見て貰えないかと言われ、最初は面倒だと断った。しかしその子の進学がかかっているんだと強く頼まれて、一夏だけならばとしぶしぶ請け負ってみたらあの少年だったという訳だ。

オレと再会した時の零れ落ちそうな瞳の色を今でもよく覚えている。
喜びに輝く瞳の眩しさに引き込まれたのが運のつき。それからは階段を駆け落ちるようにツナへと気持ちが向いていった。
物覚えが悪いツナを時には脅し、また宥めて少しずつ基礎からやり直しさせていく頃にはどうにかしてツナを手に入れられないものかとそればかりを考えていた。
物差しで頬をペチペチを叩いてはツナをよく半泣きにさせていたのも押さえきれない衝動に耐えかねてだ。大きな瞳に涙を浮かべて謝るツナを見て一人愉悦に浸っていたなどこのお子様は知らないのだろう。
受験があるから手を出せなかったが、それがあるから一緒にいられたのだと気付いたのは公立試験を1週間前に控えたある日のこと。
同じ中学から友だちも受験するのだと嬉しそうに喋るツナに、高校に入ってからも気は抜くなと叱咤している時にふとその場面に自分がいないのだと分かり愕然とした。




抱き締めた腕の中で平和な寝顔を見せるツナの額を掻き上げて口付けを落としていく。触れるだけのそれにくすぐったいのか首を横に向けるのでそれを追って眦に吸い付いた。

「んぁ…」

少し掠れた声がわずかに開いていた口許から零れてドキリとした。イく時のような含みのある声色に起こしてしまったのかと顔を覗き込むと眉を悩ましげに寄せて何かに耐えているような顔をしている。
いじめ過ぎたかと背中を擦ってやるとピッタリと身体を摺り寄せてきた。

「懲りねぇヤツだ。」

そんなオレの言葉をツナが聞いたならばどっちがだよ!と怒鳴りそうだと思いながらも着せたパジャマの裾から手を忍び込ませると肌の上を手の平で撫で付けた。
最初は冷えた肌を温めるようにゆっくりと、次第に熱さを移すように嬲りながら脇腹から胸を撫でていくとツナの寝息が乱れてくる。
それを確認しながら首元に舌を這わせれば腕の中の身体がビクビクと小さく跳ねた。




一度はツナを諦めようと距離を置くことを自分で選んだのに、結局は町の本屋で再会してしまえばそれもムダな足掻きだったのだと思い知る。
こんな小さな町では会わない訳がないのに、今度再会したらなどという偶然を装うとしたことが間違いだった。
今までこれほど欲しいと思った人間はいないのだから、ここで手に入れておかねば誰に攫われてしまうともしれないのだと気付いたオレは再会したその日に恋人になれと迫り有無も言わせずに承諾させた。
しかしまだ幼いツナには恋人の好きと友達の好きの違いなど分かっていないのだろうと機が熟すのを今か今かと待ち構えていたオレの手をすり抜けて突拍子もない方向へとツナは進みそうになった。
トモダチだというクソガキがツナのことを考えてくれなければそいつの毒牙にかかっていたことだろう。だからといってそいつのことを認めた訳ではないが。
我慢していたものが切れてしまったという自覚はあったが、それはただのいい訳に過ぎないことも分かっていた。
閉じ込めて繋いで誰の目にも触れさせないようにしたいという暗い思いに突き動かされて実行してみても飢えは一向に納まらない。
手放すしかないのかと諦めかけたところでツナの本心を聞いてやっとどうすればいいのかという結論に到達したのだった。
ツナにしてみれば突然の求婚に流されたというかもしれないが、そうでもしなければあのまま攫って家に帰すことも出来なかったか、もしくは顔を合わせることも出来ずに逃げ出していたかもしれない。それくらいオレが切羽詰っていたことを知らないツナにそんなことを教えるつもりはない。



落ちるように眠っているせいで覚醒には至らない身体が与えられる刺激に反応している。
毎晩遅くに帰ってくるオレを待とうとしては寝てしまっているツナに起こさない程度の悪戯を繰り返していた。
鎖骨の窪みに舌を這わせるとそこが弱いのか切なげな息を零して身体をこすり付けてくる。もう出ないと泣いていた癖にまたパジャマの中で熱くなってきた中心を押し付ける仕草にクツリと喉の奥で笑いながら手をパジャマのズボンの奥へと滑り込ませると腹に当たっているソレが期待するようにまた硬くなって存在を増す。それに勢いを得たオレが下着ごとパジャマを脱がすと意識のないツナは早く触って欲しいというように足を開いた。そういう仕草が自然に出るほど悪戯されていることをツナは知らないのだろう。
先ほどまで玩具やオレのソレでぐしょぐしょにされていた窄まりに指を添えると淫らに蠢いていた。
いつもより先走りが出ないツナ自身を握りながら捲り上げたパジャマの上着に鼻を入れて胸の先に齧りつくと甘やかな喘ぎ声が混じる。
寝込みを襲うのも悪いかという気持ちも吹き飛んで双丘の奥へと指を挿し込むとまた可愛らしい声で泣き出した。

「ムリ…ぃっ!」

泣き言を零すツナの顔を覗き込むも起きる気配はない。ツナらしい寝言にくくくっと笑いを漏らすとその息に反応して先走りが指を伝い落ちた。
広げた足を掴み取ると顎を仰け反らせてオレを待つツナの顔にそっと口付けを落としながら大きくなった起立を奥へと押し込めていった。


おわり







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