リボツナ | ナノ



6.他愛ない会話、時折下ネタ




結局、遅刻しそうになったのだけれど、どうにか始業までには間に合ったオレは後ろの席の獄寺くんに昨日は心配したのだと詰め寄られて言葉に詰った。
その横では微妙に視線を逸らす山本の目元が赤いことに気が付いて、どこまで聞かれたのかと焦りを覚える。

そんなオレたちを担任の声が割って入ったがために山本に詳しく聞くことが出来なかった。いや、そんなこと聞ける訳もない。
どこまで聞いたかなんて、なにをしていたのかを改めて知らせることになる。

赤い顔のまま自分の席に着けば、いつもは人の顔色なんて気にしない担任が顔の赤さを指摘してクラス中の注目を集めることとなってうろたえた。
益々赤くなるオレに獄寺くんが騒ぎ出してすぐにみんなの意識はそちらにいったが一人だけそのままの視線があった。

「先生の、バカ…」

斜め後ろは山本の席がある。
教科書で口を塞ぎながらの悪態は誰に聞かれることもなく机の上でひっそりと消えていった。





そんな微妙な雰囲気ながらもいつも通りオレたち以外いない屋上で昼食を摂っていると、メール着信を知らせるメロディが流れた。
ジャケットのポケットから取り出すと先生からのそれで、急いでメールを開くと今日は早く帰るから夕飯は外で食べることと支度をしておくようにとの内容だった。
知らず笑みが零れたオレを見て小さいため息が2つ左右から零れる。

「あ…ごめん!話の途中だったのに。」

「いーっスよ、そんな顔見せられちゃ文句も言えないっス。」

「…だな。」

「ごめん…」

学校には結婚していることを届け出ているが、山本と獄寺くん以外には一部の先生たちしか知らないためにここでしか先生の話はしないし、メールも開くことはない。
着信音を変えているにはそれなりの訳もあるということだ。

そんなに分かりやすい顔でメールを見ていたのかと顔を赤く染めていると、弁当を平らげた山本が2本目の牛乳パックを空にしながら苦笑いを浮かべた。

「まぁ、今んところは負けてるけど、その内色々と追い抜いてやるって!」

「てめぇ!自分ばっかりだと思うなよ!オレだってこれからなんだぜ!」

「はぁ?」

誰と何を競っているのか分からなくて、今日は久しぶりの母さんのサンドイッチに齧りつきながらも小首を傾げて2人を眺めた。

「…2人とも負けてんの?」

「「勝つ!!」」

だから何に。












先生との約束の時間に合わせて待ち合わせの駅前でひとり佇んでいた。
少しいいところで食事をするからジーンズとスニーカーはダメだと言われ悩みに悩んで結婚前に先生に買って貰った一揃えを身に纏って。

制服よりもネクタイがない分ラフな筈なのに何故だか落ち着かない。
そわそわしながら明るい色のシャツの袖口をいじっていると後ろからポンと肩を叩かれた。

「君、可愛いね。暇ならメシ喰いに行こうよ。」

「はぁ…?」

先生かと期待して振り返れば大学生くらいの男の人で、身長はそこそこだったがあご髭が無精ひげにしか見えないだらしなさに思わず眉を顰めた。
しかも女の子に声を掛けるならともかくオレは男だ。
頭大丈夫なんだろうかと胡乱げな視線を投掛けていると、何を勘違いしたのか肩を強引に引かれて引き摺られる。

「ちょ、やめて下さい!待ち合わせしてるんです!」

「いーじゃん?見てたけど結構待ってるだろ。そんな薄情なヤツ放っときゃ…」

暴れようと振り回した手を掴まれて焦っていると、覚えのある気配が後ろから突然現れた。

「うちのが何か粗相でもしたのか?」

「先生!!」

わざと気配を消して背後から現れるのは先生の常套手段だ。しかし今日はいつもと違って切れそうなほど冷たい視線がオレを通り抜けて男へと突き刺さる。
先生の怒気にあてられてオレまで冷や汗が出るほどのそれ。勿論、オレを掴んでいた男の手はその一言だけで慌てて離れていった。

ホッとして先生の胸に背中を押し付けると包まれるように優しく背後から肩を抱かれて強張っていた肩の力が抜けた。

「す、すみません!!」

後退りしながら情けない声を上げて逃げ出した男の縺れる足音を聞きながら、先生へと顔を向ける。

「おかえり!」

「ああ、ただいま。それにしても少し目を離すとこれだ…貞操帯でもつけとくか?」

「ていそう、たい?」

聞いたことのない言葉を反芻していると、丁度横を通りかかったサラリーマン風のおじさんがぶっ!と吹き出していった。
あまり外で使っていい言葉ではなかったようだ。
漢字に変換出来なかったオレは分からないながらもムッとして先生を睨むと真上にある唇がニヤリと卑猥に歪んだ。

「食事の前にイイところに連れて行ってやるぞ。」

「いらない!先生のいいところは碌な場所じゃな、」

最後まで言い切れなかったのは口を塞がれたからだ。冷たい何かで。
ひんやりと冷たくて、だけど甘い香りに驚いて焦点を合わせるといつもは買ってくれないアイスクリームだった。

「…いいの?」

小さい子供を相手にするように、オレとデートする時は何故か過保護で過干渉になる先生はいつも食事前に甘い物を摂らせてくれないのだ。
だから本当にいいのかなと窺っていると、手渡されたアイスを一齧りした。

「…甘ぇ。こんなモンばっか喰ってるとバカになるぞ。だが、今日だけは特別に許してやる。」

「今日だけ?」

なんでだろう。今日は誕生日でもなければ記念日でもないのになと思いつつ先生の顔を見詰めていると、手首をベロリと舐め取られた。

「なに?!」

「垂れてきてんぞ。」

ぼんやりしていたせいでアイスが溶けてしまい、それが指や手首にまで零れてしまっていた。
甘い物が嫌いな癖に執拗に手首から指を一本一本舌先で掬い取っていく仕草にひどくドキドキさせられる。
赤らむ顔のまま先生を見詰めていると、気付いていた先生は仕上げだというようにオレの唇についていたアイスを舐め取っていった。

「せ、先生!」

「どうした?好きなんだろう?今日だけなんだからよく味わって喰えよ。」

意味分かんないと思いながらもアイスを舐め始めると人通りの少ない外灯の下まで連れてこられて視界を塞ぐように前に立ちはだかった。

「そんなに美味いのか?」

「う、うん!」

正直、先生の視線のせいで美味いんだか不味いんだか分からない。
夫婦なのにいつまで先生にドキドキさせられっぱなしなんだろうと半ばヤケクソになってアイスをパクついていると珍しく苦笑いを浮かべる先生の顔が目に入った。

「そんな上目使いで必死になって舐めるから外では喰わせたくなくなるんだぞ?」

「んん?」

熱くなった自身を誤魔化すように舌で冷たさを確かめていると、先生の手がするりと腰に周ってきた。
腰から尻へと辿る手に舐める舌が疎かになればまたアイスが零れ落ちる。
先生のイタリア製のスーツを汚してしまいそうで必死に逃げようとするのにもっと間を詰められて慌てて手を身体から離した。

「舐めたり咥えたりしてる顔があの時と同じでいやらしいぞ、ツナ。」

「あ…あの時って、」

覆い被さるように前から抱きつかれて、精一杯伸ばした手からぽたぽたとアイスが零れ落ちていく。
いくら人通りの少ない場所とはいえ全然通らない訳でもなく、仕事帰りとおぼしきお姉さんがチラチラと先生の背中を見詰めていってなんだか居た堪れない。

一刻でも早く離れて欲しくてそう訊ねれば、すいっと近付いてきた顔がぴたりと真横で止まり耳元で低く呟いた。

「フェラチオ。」

「ふぇ…!」

血液が沸騰したようにいきなり駆け巡っていき、手にしていたアイスを手放してしまった。
道路を汚してしまったことに慌てて視線を下に向けたが、それを見て身体がぎくりと固まる。
白くどろどろに溶けてしまったそれは卑猥ななにかを思い起こさせて、それが顔に出てしまっていることを知っているオレは顔も上げられなくなる。
そんなオレの手を掴み上げると白く汚れた指をぱくりと咥えられて呻き声をあげた。

「も、ヤダ…」

「分かったか?こうなるからアイスは喰わせられねぇんだぞ。」

指の間まで行き来した舌が手の平まで舐め取っていく。
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて楽しむ先生の背中にしがみ付くように腕を回すと甘い唇が重なってきた。

「イイところを押さえてあるから安心しとけよ。」

「食事は…?」

「合間にルームサービスを取ってやる。」

合間ってなんだとは聞かなくても分かる。分かるからこそそれが果たされることのない約束だということも知っていた。

「買い物は?」

「先に買ってきてんぞ。」

これだと突きつけられた紙袋の中身は有名な和食器のお店のそれで、自分の退路が絶たれたことを理解するのに出来の悪いオツムは一分かかった。


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