リボツナ | ナノ



3.宅配便の中身と君の(殴りたくなるような)笑顔




遅刻という言葉を忘れて先生の思うように料理されてしまったオレは、汚れた身体を洗い流して貰ってからリビングのソファで長くなっていた。
少し顔を上げれば時計があるのに、それを視界に入れないようにして転がっていると珍しくチャイムが鳴る。

オレと先生が結婚していることを知るのはほんの一握りの人間だけで、だからここを知る人も限られている。
来客があるとは聞いていなかったオレは出ようかどうしようかと迷っていると、インターフォン越しにお届けものですという声が響いてきた。

「うわわっ…!出なきゃ!」

どんな物かは分からないが一応確認だけはするかと足を向けた。
幸いなことにTシャツと短パンだけは履いていたので、少しみっともないが対応できないほどじゃない。
つっかけに足を入れてドアを開くと大きめのダンボールを手にした宅配業者のお兄さんが立っていた。大きい荷物のせいでずりおちた眼鏡を直すこともできないようだ。

「こんにちは。お届け物です!」

「あ、はい…」

朝から元気がいいなと思いながらも送り主を確認すると先生本人の名前が書いてある。その下に小さく書かれている会社の名前は妙に可愛らしいもので、一体なにが入っているのだろうと少し気になったが受け取り印を押して伝票を返した。

「ありがとうございます。」

「あ、ご苦労様でした。」

人使い荒いんだよな、白蘭さんは…とぶつぶつ文句を言いながら立ち去っていく眼鏡をかけたひょろりと縦に長い印象の宅配便のお兄さんを見送ってから、ダンボールを両手に掲げてリビングへ向かった。

開けっ放しにしてあったリビングの扉をくぐると、丁度先生がシャワーから出たばかりらしく腰にはタオル一枚を巻いたままの状態でくるりとこちらを振り返る。

「もう届いたのか。白蘭のヤツ、意外と仕事が早いじゃねぇか。」

「ふうん?仕事で使う物?」

箱の受け取り伝票を覗き込んだ先生は送り主の下の会社名を確認するとそうニヤリと笑った。
意味が分からないオレは、ソファの前にある低い木製のテーブルにそっと置く。大事な物を壊したらヤバいからだ。

それから遠ざかるようにソファの端に座るオレの横に先生は腰掛けると、無造作にダンボールの封を切って開けていく。
オレの前で開けるということは、オレが見てもいい物なのだろう。

塾の資料かはたまた家のインテリアか、それともお洒落な先生の靴だろうかとわくわくしながら覗き込むとダンボールの中にまた箱が幾つか折り重なっている。
大きいものが2つに小さいものが2つ。

会社名同様、妙にファンシーな外箱を見てこんな趣味の悪そうなものを先生が買うなんてよっぽどいい物なんだろうと思った。
なにせ先生は見た目と実用性を兼ね備えたものしか購入しない性質で、見た目が好みに反しているだけで購買意欲が削られてしまうのだ。

オレはといえば使い勝手のよさとか見た目とかにこだわりなどなく、あれば使うしなければ買ってこようという気も起こらないので何でも先生に任せっきりになっていた。
最近では下着まで先生の好みが反映されて、柄トランクスから無地ボクサーに占領される日も遠からずといった具合だった。

興味を惹かれ覗き込んでいると、先生の手が小さな箱に伸びてそのまま梱包を解くと蓋を開ける。
中にはリモコンとコードに繋がれた小さな手の平サイズの長細いものが現れた。

「これ何なんだよ?」

見たこともない形状のそれは可愛らしいピンク色をしていて、一見では何なのか分からない。
小型のマッサージ器か何かかと思いながらも、他の箱を手渡されて何気なく中を覗けばふわふわのファーが円を描いてそれを鎖で留めてあるものがコロリと転がり出てきた。

「…」

見た目は可愛い毛並みのファーだが鎖の部分を見て嫌な予感に襲われる。
床の上に転がってしまったそれを手に取ってから見なかったことにして箱ごとダンボールに戻すと、今度は少し大きめの箱を押し付けられた。

「いいっ!オレには関係ない物みたいだから!」

「バカ言ってんじゃねぇぞ。これをお前以外に使ったら浮気だろうが。」

やっぱり!
嫌な予感ほど的中率が高いのはどうしてだろう。
押し戻そうと箱を先生に投げ付ける勢いで放り投げると、それを受け取らなかった先生の膝の上から箱が落ちて上蓋がパカッと開いた。
中からはみ出したそれは、白いレースが過剰なまでの可愛らしさを演出している洋服の端のようだった。

「えっと…これって何?」

聞きたくはなかったが、聞かなくても聞いてもどうせ運命は同じだ。ならば少しでも予測がついた方がひょっとしたら回避できる確率も上がるのではという淡い期待を抱きながら訊ねれば。

「知らねぇのか?ベビードールっていう下着だぞ。ツナのイメージに合わせて純白にオレンジのリボン付きだ。」

「って、それどう見ても女物だよね?!し、しかもなんで胸の部分の布がないんだよ!」

ひらりと目の前に掲げられたベビードールなる下着は肌を隠すというよりは、レースの透け感が卑猥さを引き立てる役目しか果たさないと思われるような代物だった。
しかも胸の部分に布はなくただ囲むだけ。
裸の方がまだマシだと思えるほどいかがわしいそれにソファの端まで逃げ込んだオレの太腿をガシリと掴んで引き寄せた。

「せ、せんせぇ…」

引き攣った顔で間近に迫った先生の顔をチラリと見上げると、それはそれは大変イイ顔でニッと笑っていた。
この笑顔は怖い。

「一番最初に手にしたアレはな、ツナのここに挿入して楽しむんだぞ。」

腿からするりと手を股間の間に押し込めると、先ほどまで先生が出入りしていた入り口を布の上から指でなぞられてぶるりと身体が震えた。
強弱をつけて撫で付けられる度に吐き出す息が荒くなっていくのが自分でも分かった。

「やめっ、」

膝を割られ指で敏感になっているソコを弄られて嫌がる声に力が入らない。
ただでさえ先ほどまで先生の起立で広げられていたというのに、思い出させるような手付きに身体の力が抜けていく。

柔らかい腿の内側を噛んだり吸ったりされて、ソファの上にぐったりと横たわると、短パンの裾から指が肌を伝って奥へと入り込んでくる感覚にハッと目が覚めた。

「ダメだって…!学校いかなきゃ!」

「ちっ。しょうがねぇ…オレも午後から出勤だしな。帰ってきてからやるぞ。」

全然納得はしていないが、今もう一度されるよりは対策の立てようもある。先生の留守中に捨ててしまおうなどと思っているとダンボールの中に入っているそれを確認してから言い出した。

「オレの留守中に捨てたり壊したりしたら、今度はもっと本格的なヤツを買うからな。」

「本格的…」

「そうだ。お前ならピンクの麻縄もよく映えるだろうな。それから下着の中にローターが埋め込まれたヤツもあったな…遠隔操作も出来て一石二鳥だぞ。」

「ふざ、ふざけんなっ!SMの趣味も、露出狂のケもないよ!」

慌てて先生の趣味に走った発言にダメ出しを入れるも、オレの言葉など聞いちゃいない先生はあれもいい、これもいいとぶつぶつ言い始めた。

「お願い!絶対に捨てないし壊さないから思い留まって!!」

転がっていたソファから起き上がり先生の腕を引っ張って必死に言い募る。妄想の世界に入ってしまった先生を揺すっていると腰に巻いていたタオルがハラリと解けて思わず視線が釘付けになった。

「な、なんでまた元気になってるの…?」

「安心しろ、ツナ。いくら年上とはいえお前を満足さられるからな。」

「もうしばらくは結構だよ!」

ガバリと伸し掛かってきた先生の下からどうにか逃げ出すことに成功したオレは、テーブルから落ちていた自分の携帯電話がマナーモードのまま着信を知らせていることにやっと気付き取り上げた。

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