リボツナ | ナノ



2.料理とセクハラ 




さっさと支度をしなければ学校に遅刻してしまう時間だということは分かっていた。
最近では高校の始業時間が少し遅くなって8時40分までにつけばギリギリセーフだ。今は7時15分。学校までバスで20分かかることと移動時間を考慮して8時過ぎには家を出ないと間に合わない。

だというのにオレは身動きひとつ取れないで地蔵のように冷蔵庫の前で固まるしかなかった。

「どうした?早くしないとメシを喰う時間がなくなるぞ?」

「…っ!」

どうしたもこうしたもない。
寝室から抱きかかえられてキッチンまで連れて来られたオレは、パジャマのズボンと下着を剥ぎ取られたままでこの場に立っているのだ。
少しでも動けば尻やら前やらが見えてしまうこの格好でどうすればいいというのか。

パジャマの上着で前を隠すと後ろが捲れ、後ろに引っ張ると前が見える。
恐る恐るといった調子でどうにか冷蔵庫の前までやってきたがその扉すら開けることができずにいた。
それでもパンと作り置きのサラダぐらいは食べていこうと冷蔵庫の扉に手をかけるとパジャマの裾を後ろから捲り上げられて妙な声が出る。

「ひゃう!な、バッ…!」

慌てて手で後ろを押さえて振り返ると、椅子に座っていた先生がニヤニヤと笑いながら足をこちらに伸ばしていた。
それで捲られたに違いない。

「これじゃご飯作れないだろ?!もういい!パンツ履いてくる!」

腹が立ったオレはついでに着替えも済ませてしまおうとキッチンのドアに足を向けた。
足早に先生の前を通り過ぎようとして、腕を横から引っ張られて先生の膝の上に転がり込んでしまった。

「うわっ…!」

「三つ指ついて帰りを待ってろとは言わねぇから、これくらいしても悪くないと思わねぇか?」

「…そうなの?」

普通の新婚生活が分からない。
そもそも男同士なのだし、自分のそんなものを見て楽しいのかどうかさえ分からないのだ。

きょとんとしながら先生の顔を覗き込むと視線が下を向いている。それを辿っていけば先生の膝の上に横座りで凭れ掛かる膝からはらりと捲りあがってわずかに先が覗いた状態の自身が見えた。
バッと手で隠すももう遅い。

「っつ!」

「まだ半起ちってところだな。…そうだ、ツナ。お前が支度をする間にそのままだったら手は出さない。だがもっといやらしく育ったら…」

わざと低くて艶のある声でそう耳打ちされて慌てて先生の膝の上から立ち上がった。
このまま先生のペースに乗せられたら遅刻は必死だ。
毎日待ち合わせをしている獄寺くんにも悪いし、何より朝からコトに及ばれたら学校に行くことも出来なくなる。

見るだけなら好きに見ればいいと開き直って冷蔵庫の扉に手をかけると、含み笑いを浮かべた先生がじっとソコを見詰めている。
手で隠したら意識していることがバレてしまいそうで、わざと知らん顔を貫きながら冷蔵庫の中からサラダを出すと、パンを温めるために戸棚に手を伸ばした。

下肢に注がれる視線に羞恥を覚えながらも、どうにか戸棚から取り出したパンを暖めてから盛り付ける。
先生用のコーヒーも淹れなければと足をそちらに向けた途端、キッチンマットの端に足を引っ掛けてずるんと尻餅をついた。

「ぃ、たた…」

咄嗟に踏ん張ったがために思い切りパジャマが捲れて膝を開いてしまった。
隠すことなく広げた足の間を何も言わずに熱い視線だけ落とす先生のそれを感じる。急いで膝を閉じたが無言のまま送られる視線は絡みつくようで、恥ずかしさに顔も上げられなくなる。

それでも意識したら負けなんだと膝をついて立ち上がると、コーヒー豆をエスプレッソメーカーに入れてカップを用意した。
無言のまましばらくが過ぎ、少し落ち着いたオレがやっと顔を上げて先生にカップを手渡すとそれを受け取った先生が切れ長の目を嬉しそうに眇めながら笑う。

「いつまで経っても可愛いまんまだな、ツナは。」

「可愛いって…」

その顔にドキマギと早鐘を打つ自分の心臓を知っているように目元を緩めると冷たく見えるほど綺麗なラインを描いている唇が開かれた。

「オレの言葉に一々反応しちまうところとか…」

言われなくても分かっているのに、わざと口に出して言う先生は意地悪だ。赤くなった顔をふいっと背けて椅子に座ろうとすると、手を引かれて引き寄せられる。

「見られるだけでこうなっちまうところもな。」

ペロンと前を捲られて言葉もない。
少しおさまっていた筈のソコが先生の言葉ひとつで起ち上がってしまっていた。
先生とするまでは自分には性欲なんてないんじゃないのかと思うほど無縁だったのに今ではこのざまだ。

先走りが滲んだパジャマを先生の手から取り返すと赤い顔のまま足元に座り込んだ。
期待と不安と、現実と夢見心地のままで顔を見詰めていると徐々に距離を詰められて逃げることもできない。

後頭部に手がまわっても、これ以上されたら止まらなくなることを知っていても、それでもいいと瞼を閉じて先生の唇が重なるのを待ち焦がれた。

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