リボツナ | ナノ



3.





ラル・ミルチは肩をいからせ、風を切って廊下を歩いていた。たとえそれが歩いているというスピードだと思えないほど早いとしても、彼女は歩いているのだ。

疾風の如き彼女の歩みにある女子生徒はキャアと喜び、そちらの男子生徒はコソコソと物陰に隠れる。
ラル・ミルチとはそんな存在であった。








眼鏡からコンタクトへと変えてからというもの、妙に自分の周りに人だかりが集まっているとようやく気付いた沢田はその大きな瞳をキョロキョロと忙しなく動かし、落ち着かない様子で昼ご飯を食べていた。

沢田の隣にはリボーン、前にはコロネロ、その横にスカルという華々しい面々が揃い踏みしている。
最初はそのせいだと思っていたのにどうもそうではないらしい。
朝からずっと、休み時間の度に物見遊山よろしくさまざまな学年のさまざまな人たちが沢田のクラスに顔を覗かせているのだから。

クラスの違うリボーンでも、コロネロでも、スカルでもなく何故自分がと不思議でならない。
人寄せパンダになった気分で沢田はもそもそといつもはおいしいのに、今日は味のしない弁当にありついていた。

「どうした、ツナ。おにぎりに妙なモンでも入ってたのか?」

とリボーンが横から沢田の顔に手を近付けると、すかさずコロネロの箸が飛んできてリボーンの手をそれはそれは器用に掴み取った。

「ツナに触るなコラ!」

「んだと。てめぇに言われる筋合いはねぇぞ。」

どうやらリボーンは正反対すぎてコロネロの目に余るらしい。寄ると触ると喧嘩になる2人を放って沢田はハァとため息を吐いた。

「どうかしたのか?この2人はいつもこんなもんだぞ。」

「うんん、そっちじゃなくて…この状態、いつまで続くのかなってさ。」

ちらっと辺りに視線をやると、女子生徒はギロっと睨み、男子生徒は頬を染めて手を振る始末。
今までの人生で初のスポットライトを当てられた気分の沢田は、自分の役どころは小道具だと信じて疑わない小市民だった。
だから綺羅綺羅しい3人のように見られることに慣れることはできそうにない。

そう弱々しく笑うとコロネロと喧嘩を始めたとばかり思っていたリボーンが箸を掴む沢田の手を両手でぎゅうと握り締めてきた。
途端、あちらこちらから聞こえる悲鳴と低い唸り声に居た堪れない気分になる。

「あの…」

「その顔である以上、ムリってもんだぞ。」

晒した張本人が何をいわんや。
しかし今更顔を隠しても遅いのだ。
困ったなと眉を寄せてぼんやりしているとリボーンの顔が段々近付いてきた。
これ以上近付いたらくっ付いてしまうのではとやっと気付いた沢田が慌てて顔を横に向けても尚も追ってくるリボーンにこれはどういう状況なのだろうと冷や汗を掻いていた。

コロネロを怒らせて横を向かせている隙の暴挙に、斜め向かいのスカルはすぐに気付いて止めに入ったのだが間に合いそうにない。
嗚呼、愛しのツナの唇が!と絶叫を上げたところで沢田とリボーンの間に茶色い封筒が落ちてきた。

「貴様、真っ昼間から何を爛れたことをしている!恥を知れ!」

開け放たれていた教室の扉の向こうから救いの茶封筒を投げたのは先ほどのラル・ミルチだった。

「チッ、てめぇといい筋肉バカといいオレの邪魔ばかりしやがるのはどういう意図だ?」

「どうもこうもあるか。相手が嫌がっていただろう!オイ、お前。」

綺麗に整えればさぞ美しいだろうという黒髪は自分で切っているのか不揃いで、その髪から覗くのは茶褐色の切れそうな鋭い眼光だ。
その眼光が沢田に向けられた。

ラル・ミルチは思っていた。
どんな間抜けなんだと。男の癖にリボーンのような性質の悪い男にホイホイ唇を許しそうになるなんて、そのアホ面拝んでやる。
そう思い、リボーンに握られていた手を叩き落としてから顔を覗くと…

「あ、その、ありがとうございました…」

そう呟いた唇は少しふっくらとしていて、顔から零れ落ちそうな大きな瞳はうっすらと涙が滲んでいた。

なんのことはない、女子生徒には優しいが男子生徒には容赦ないという噂の1学年上の有名人であるラル・ミルチの声だと気付いた沢田は張り倒されるのではと恐怖に震えていたからだ。

しかしそんな沢田の心情など露とも知れないラル・ミルチは雷に打たれたようにその場から動けなくなってしまった。
それでも辛うじて声だけは掛ける。

「…名前は?」

「沢田綱吉、です。」

綱吉かと口の中で幾度か呟くとやっと金縛りから解き放たれたラルは突然の来訪に驚いているコロネロをど突いて床に転がすとずりずりと沢田の横まで椅子を移動させてきた。

「て、てめー何しに来たんだコラ!」

「男のくせにギャンギャン煩い。こいつを持って体育館に行け。」

とおざなりに先ほど沢田の危機を救った封筒をコロネロに押し付ける。
それを見ていいところを邪魔されたリボーンが反対側から焦って言った。

「ちゃっかりツナの横をキープするんじゃねぇ!こいつの横はオレって決まってんだぞ。」

「フン、嫌がられていたように見えたのはオレの幻覚か?」

どうやらリボーンとも知り合いのようである。しかもあのリボーン相手に一歩も引かない。
コロネロですら頭の上がらない彼女はある一部の女子生徒たちの憧れであり、大半の男子生徒からは畏怖されている存在だった。

そんなラルの萌えポイントは『潤んだ大きな瞳』だ。沢田の幼い様子とその瞳はラルの胸の奥にホームランを描いたのだ。





どうやらもう一人沢田の周りに華やかな人物が加わったことだけは確からしい。




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