3.見よう見真似という手つきでナッツの大きくもない手が根元から先へと擦り上げ、ビクンと身体が跳ねた。 正直に言えば飢えていた。 リボーンに頼んだ仕事のせいで1ヶ月ぶりだということもある。 互いに愛人はいても、互いの存在を埋めるには足らないことに気付いてからは愛人たちと肌を重ねることを放棄して、ただ無心にリボーンを待っていた。 あんなことを言いながらも、オレには一切触れようとしないでナッツにされるがまま声を殺すオレを眺めているだけのリボーンに焦れる。 見られているだけだというのにじわりと湧き上がる熱に浮かされて息を吐き出せば、甘えるような声音が漏れて頬が熱を持つ。 顔を見られたくないと横を向くと、ベッドが軋む音の後に強い力で顎を掴まれ覗き込まれた。 「どうした?こいつに扱かれるのはそんなにイイのか?」 分かっている癖にわざとそう聞かれて唇を噛む。 動かせない両腕を強く押さえつけられて痛さに滲んだ瞳で睨み返すとくくくっとくぐもった笑い声が聞こえた。 「言わなきゃわかんねぇだろ?」 そう言うと顎から喉、鎖骨を辿った指がはだけたシャツに潜り込んで膨らんでいた先をいじりはじめる。 たどたどしい下肢への刺激と、手馴れた胸への愛撫に吐き出す息が荒くなっていく。 それでもオレを物のように好き勝手に扱う2人に負けまいと声を飲み込んだ。 するとそれを見ていたリボーンが、オレの中心を弄るナッツに声を掛けた。 「それを舐めてみろ。噛んだり、歯を立てたりするんじゃねぇぞ。」 「なっ…?!」 「お前に言われなくても分かってる!」 「バッ!やめ…ひっ!」 制止の声は最後まで言い切ることも叶わず悲鳴へと変わった。 はっきりと形が変わった先を咥えられて息が止まる。強張った身体を宥めるように這うリボーンの手に力を抜くと、タイミングを計っていたようにまた起立を舐められて声が漏れた。 「ツナ、先からなんか出てきたぞ。味は不味いけどツナの匂いがする…」 「ヤ…いうなって!」 滲み出て先走りを舐め取られ、あまりの恥ずかしさに頭を振って声を張り上げた。 すると胸の先を指で転がしていたリボーンがぎゅっとつまむとそこに舌を這わせてきた。 つままれる痛みと、舌の湿った感触に意識がすべて奪われる。 吸われたり、舐められたりを繰り返す度にビクビクと跳ねる身体と喘ぎ声に、ナッツが中心から顔を上げると割り広げた太腿に軽く歯を立ててきた。 「ひゃ…っ、んン!」 柔らかい肌に跡が残るほど噛みつかれ、痛み以上の気持ちよさに声が漏れた。 それを聞いたリボーンは眉間に皺を寄せると口を離して濡れたそこをやわやわと弄ぶ。 膜一枚隔てたようなもどかしい快楽と、直接腹に溜るような気持ちよさとに眦から涙が零れた。 ひうとしゃくり上げる声に慌てたのはナッツだけだった。 「ツナ?!どうして泣いてるの?」 「おま、おまえたちのせいだっ!」 「あぁ、ヨすぎたんだよな?」 「ちがうっ!」 当たり前のように笑いながらリボーンに噛み付くと、ふんと鼻を鳴らして待ちぼうけを食らっている起立へと指を這わせた。 「口じゃ嫌がったフリをしていもこっちは正直だぞ。」 滴り落ちる体液を先に塗りこむように押し付けられると、そこから益々滲み出てきた。 ぐりぐりと強めに弄られることもイイのだと主張するそこから顔を背けて声を殺していると、ナッツがリボーンの手を引っ掻こうと爪を閃かせる。 「ちっ、お前嫌なヤツだな!わざと直前まで触ってただろ!」 「さぁな。」 オレの身体の上で毛を逆立てるように怒気を纏うナッツと、それを軽くいなすリボーンを下から眺めた。 人型といえど元の姿の時にように爪を出したり引っ込めたりできるらしいナッツが、オレの上に覆い被さるように伸し掛かってリボーンを威嚇する。 「ツナはオレのなの!」 「確かにてめぇの主人ではあるな。だが、オレの恋人でもあるんだぞ。」 なぁ?と娼婦も裸足で逃げ出すほどの色気ある微笑を向けられて全身を駆け巡る血が沸点を超えそうになった。 耳までジンジンと痛むのは血液の反乱にあっているせいだろう。 フイと視線を横に向けると上からナッツが泣きそうな声で訊ねてきた。 「コイビトって相棒より上なの?オレよりこいつの方がいい?」 「ちがっ…もう、しょうがないな。」 しょんぼりと項垂れるナッツに手の拘束を解くよう言いつける。 しゅるんと解けた死ぬ気の炎でできたそれはたちまち霧散した。 まだ縛られていたときの痛みの残る手をナッツの頬に当て、それからオレンジに光る髪の毛に手を突っ込むと胸の上に引き寄せた。 「ナッツとリボーンじゃ比べられないよ。だってそうだろう?ナッツはオレの相棒であって恋人じゃない。それはリボーンだって同じだよ。」 「…どういう意味?」 オレの胸の上でしがみ付く格好で納まっているナッツを、ひどく忌々しげに上から一睨みしたリボーンは、けれど帽子のつばに巻き付いていたレオンに声を掛けると手の平に乗せ、ちゅっと口付けた。 「戦場ではこいつがオレの恋人ってこった。」 「結構妬けるかも…」 「そうか?オレは今、結構どころじゃねぇがな。」 ナッツを抱き寄せる手を見詰めるリボーンの視線はあくまで冷たい。 それに気付かないフリをしてナッツのオレンジの髪の毛にキスを落とすと、上からカチャと冷たい音が聞こえた。 「…リボーンさん?どうしてオレの相棒に銃を向けているのかな?」 「決まってんだろ。邪魔者は消すのがオレの仕事だ。」 「止めろよ!依頼してないって!」 「安心しろ、報酬はてめぇの身体でいいぞ。つー訳で死ね。」 ブレない照準があやまたずナッツの身体を捉えて撃ち抜く。けれどナッツもそれを察知してオレの上から飛び退いた。 「おまえぇぇえ!オレも殺す気なの?」 危うくリボーンの銃弾に倒れるところだったオレは、一番安心できるリボーンの胸板に飛び込んだ。 ナッツを狙った弾はその沿線上にあるオレをも狙っていた。 「浮気したからお仕置きだぞ。」 「微塵もしてねぇよ!」 本気で死ぬかと思ったオレは、ブルブルと震えながらリボーンの背中に腕を回す。するとリボーンの肩からレオンがするりと降りてきた。 「やあ、レオン。お前のご主人さまはなんでこう過激なのかな。お前みたいに大人しくなってくれるといいんだけど…」 そう呟いたオレの頬に顔をすり寄せたレオンは長い舌を伸ばすとチロチロと慰めるようにオレの顔を舐めていく。 体温を感じないカメレオンの舌にくすくすと笑っていると、背後と頭の上から声が掛かった。 「「浮気…」」 「なっ、ちがうだろ!」 涙を溜めて恨みがましい顔でレオンを睨むナッツと、綺麗に整った眉をピクリと動かしたリボーンが低い声でハモった。 ぞわぞわっと背筋を這う悪寒にレオンを首に巻きつけたままそーっとリボーンから離れる。 一歩、二歩と後ずさったところで肩をリボーンに掴まれて悲鳴が上がった。 「ツナ、恋人と相棒には優しくしとくもんだぞ。」 と、黒い笑みには逆らえなかった。 . |