リボツナ | ナノ



1.






匣を出すまでもなかったと気が付いたのは開匣してほんの数分にも満たない間のことだった。
気性の激しい右腕が取り出した匣から現れたのはこの数年で豹らしく成長した瓜で、その瓜が持ち主の言うことも聞かずにあっという間にオレたちを取り囲んでいた敵対ファミリーを一掃するまでに10分とはかからなかったからだ。


慌てて飛び出して雑魚を地道に戦闘不能にしていく右腕と、自由自在に飛び回る瓜とをため息ひとつ吐き出してオレの隣に蹲る少し大きくなったオレンジ色のライオンへと声を掛けた。

「…出番、なくなっちゃったね。」

「ガォ」

まるで合いの手を打つように返事をされてふふっと笑う。
取り囲んでいた人数が多かったので抽入した死ぬ気の炎も多かった。この調子だとしばらくナッツは出たままだろう。
もう肩の上に乗せることも出来なくなってしまった相棒の頭に手を乗せると嬉しそうに鼻の頭を擦り付けてきた。

「久しぶりだし、たまにはいいかな?」

そう呟くとまだ成獣になりきれていないライオンはまたもガォと一吼えし、それを聞いていたようなタイミングで瓜と右腕がこちらに向かって歩いてきた。









一通り暴れてすっきりしたらしい瓜はすぐに匣に戻り、その場の始末と背後関係を洗うべくそのまま陣頭指揮を取っている右腕を置いて一足先にボンゴレアジトへと帰還した。
ぶっちゃけ仕事はそれだけではないからだ。

山のように積み上げられたオレの決済と判断を待つ書類を少しでも減らすべく戻ると、滅多に連れ歩くこともなかったナッツを見た構成員たちは逃げたい衝動と戦いながらも出迎えをしてくれる。
匣アニマル=瓜という図式のせいで、敵味方関係なく気に入らなければちょっと一撫で(死ぬ気の炎を纏った匣アニマルである、本獣?は一撫ででも人間はそうもいかない)されるのではと警戒しているのだ。

ナッツを知らない構成員たちにこの子はオレに似て大人しい子だからと声を掛けると、引き攣った顔で頭を横に振られた。
よく分からないのだが、死ぬ気の炎を纏ったオレは怖いらしい。
口調は変わるが本質は変わらないのにと、構成員たちに苦笑いを浮かべ、肩を竦め執務室へと足を向けた。


その後ろからこんな声が掛かっているとも知らないで。


「10代目はそれは強くて優しくて、初代の再来と謳われていることに異論を唱える者もいないだろうが…」
「死ぬ気の炎を纏ったボスは普段のマゾっ…いや、穏健派から一転してサド…いやいや!冷徹になるからな。自覚はないようだが、あれは絶対元家庭教師の影響に違いないと、」

ボスとその相棒の背中を見送った玄関を守る構成員たちの背後から冷たいプレッシャーが突然掛かる。
コツンとわざと音を立てて自らの存在をアピールした男はニヤリといつもの底の見えない笑みを浮かべていた。

「誰がなんだって…?」

屈強な構成員たちが2人、声にならない悲鳴を上げていることをボスは知る由もなかった。







構成員がこの世で地獄を見ているとも知らず、脱いだジャケットを執務室のソファに放り投げメイドが用意したコーヒーに口を付けていると、扉の向こうを探索していたナッツが奇妙な声を上げ始めた。
カップを叩きつける勢いで放ると、慌てて声の聞こえた仮眠室へと駆け出す。

仮眠室。
そう言葉通り、仮の寝室であって決して本来の寝床ではない部屋。
生来の怠け癖のせいで、今日できることは明日でも大丈夫だと仕事を先延ばしにしていると、そんな部屋のお世話になる羽目になる。

かれこれ4度は世話になった仮眠室の薄く開いた扉を押しいると、部屋の片隅で何かが蹲って呻いていた。
ライオンには見えない。
そもそもナッツはガォとは鳴くが、ううっと呻くことはない。

あまり大柄とはいえない背中を暗闇の奥で見付けて、横のテーブルに置いてあったリモコンで部屋の電気を点けた。
パッと広がる明かりの下にはナッツは見当たらず、代わりにオレンジ色の纏まりの悪い髪の毛をした少年が胸を押えて床に横たわっていた。
どこか酷く痛むのか手足を痙攣させて、荒い息を吐き出している。

逡巡したツナだったが、とりあえず手袋を両手に嵌めてから声を掛けた。

「えーと、大丈夫?どうしたの?」

その呼びかけを元家庭教師が聞いたならば、間違いなくかの愛銃で頭を叩かれたことだろう。
お前にはボスとしての自覚はあるのか、と。

けれど幸いなことに、黒い死に神はその場に到着していなかった。
そしてツナの呼びかけに脂汗を浮かべた顔がゆっくりと振り返る。

「?!」

「つな…オレ、どうなったんだ…?」

そうはっきりと言葉を発した相手を見たツナは幽霊でも見たような顔になる。
それはツナに語りかけた相手も同じだった。

「ど、して、オレ人間の言葉を喋れる、の?」

痛みが治まってきたのか、少し血色が戻った少年は…ツナと同じ顔をしていた。
違うところといえば、髪の色と年齢くらいだろうか。

起き上がり、驚いた様子で自分の手足を確かめている少年を前にツナは恐る恐る近付くと手袋をグローブへと変化させてその頭をガシリと掴みあげた。

「また研究班がやったんだな。今度は何?オレの声が出る抱き枕を作って守護者にバラ撒いただけじゃなく、人型まで作ったってのか?……オーケイ、いいだろう。今度こそ完全にオレのデータの入ったパソコンごと叩き潰す!」

ちびツナもどき?を掴んだまま部屋を出ようとしたツナの腕にするっと何かが巻き付いて、咄嗟に逃げようとしたツナの動きも知っているかのように巧みにそれすら利用して動きを封じ込めた。
ゴロンと床の上に転がったツナは、情けない顔をしたもどきを睨み付ける。

「これはどういうことだ?」

ミノムシよろしく手足も動かせない状態にさせられたツナを、難なく抱きかかえると仮眠室の真ん中にあるベッドの上へとゆっくり降ろされた。

どう見ても小学生か、よくて中学生といった年頃だろう。けれど大人のツナを抱えてもビクともしない。

「聞いて。ツナ、オレ…ナッツだ。」

「……は?」

「ナッツなんだって!ちょっと前にオレをそのケンキューハンってのに預けただろう?」

確かに預けた。
預けた理由は匣アニマルの研究のためだった筈で…

「なんでまた…」

そうは言っても何となく理解したツナは、死ぬ気の炎を消すとツナの上から覗き込む自称ナッツの顔をじっくりと眺めた。
まあ、アレだ。

「オレの炎で構成されてんだから、オレに似るのは仕方ないのかな?」

幼いのはまだ成長の余地があるということだろう。
こんな相棒の姿を見られたら、あの小煩い元家庭教師になんと言われるか。
鍛えなおしだぞ、という声が聞こえたようで思わず辺りを見回したが恐怖の権現は現れることはなかった。

「逃げないし、グローブも外すからこれ解いてよ。」

まずはそれが先決だ。


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