リボツナ | ナノ



1.




学校の校舎というのは角が多い作りになっている。
リボーンの通う中学校も同じく教室から教室へと移動する際に先の見えない角が多く見られた。
それでも小学校時代から『右側通行!』と叩き込まれた生徒たちは皆それに従っている。
リボーンはといえば、守るも守らないもその時の気分次第といったところだ。

今日はいつもパシリに使っている同級生が風邪で休んだために自分の足で校外にある自販機までジュースを買いに行った帰りだった。
コロネロにでも行かせようと思っていたのに、そいつまで部活だと昼休みになった途端教室から飛び出ていってしまったからだ。

すこぶる機嫌の悪いリボーンを見て、上級生下級生もちろん同級生も慌てて逃げ出す有様だった。
一学年上にいる行き過ぎた学校愛溢れる風紀委員長と並ぶほどの有名人だと言える。

右側通行をまるっと無視し、左を不機嫌オーラ全開で歩いていくと先の見えない角に止まることなく足を踏み出した。

ドン!

と音を立て誰かがリボーンの胸に体当たりしてきた。
くどいようだが相手は右側通行で、リボーンが左側を歩いていたためだ。

それでもぶつかってきた相手が悪いと廊下の端に尻餅を着いている相手を睨み付けた。
スカートではなくズボンだったことは確認済みだ。

「てめぇどこ見て歩いてやがる。」

「ひぃぃい!ご、ごめんなさいっ!!」

寝癖のままなのか、元々がこういう髪型なのか分からないふわふわとした髪の毛が慌てて下を向く。
その下を向く寸前のほんの一瞬見たものにリボーンは驚いた。

「…面上げろ。」

「あの、その…ごめんなさい。勘弁して下さい。」

益々縮こまる小柄な背中に苛々して、下を向いたきりの顔を手で掴んで上向かせた。

「あ、」

零れそうなほど大きな瞳にあまり高くはない鼻、白い肌にふっくらした唇は何も塗っていないのにさくらんぼのような色をしていた。
呆然とその顔を眺めていると、視線の先で眉毛を寄せると泣き出しそうに瞳を潤ませている。

「この眼鏡、3組の沢田だな?」

「うっ、そうです。」

誤魔化せないと悟った沢田は、やけくそのように今度は視線を合わせてきた。
眦に滲む涙を見てリボーンはにんまりと笑う。

ダサい黒眼鏡を掛けた沢田はリボーンとは違った意味で浮いていた。オタクだ、根暗だとからかわれては虐められていた。
それがどうだ、素顔はそんじょそこらのアイドル並ではないか。
興味が湧いたリボーンは沢田の割れた黒眼鏡を廊下の真ん中から拾い上げると、顔から手を離して眼鏡を掲げた。

「これを返して欲しければ、放課後オレに付き合うんだぞ。勝手に帰ったら名簿を見て家まで押し掛けてやる。分かったか?」

「は、はいぃ!」

廊下に沢田の声だけが響く。
遠巻きに見ていた生徒たちは、リボーンに係わり合いになりたくないがために誰も先生に言い付けることはしなかった。










「そう言や、金は持ってんのか?」

「ちょっとだけなら…」

午後の授業が終わるとすぐにリボーンは隣のクラスにまで出向いた。
逃げられないようにというより、とにかく沢田に会いたい一心だった。
そんなリボーンの気持ちも知らず、沢田は怯えたような瞳でリボーンを見上げる。
中学2年生としては大きい方のリボーンといまだ小学生でも通る沢田とでは大人と子供ほどの差があった。

「…カツアゲなんざしねぇぞ。そうじゃなくて、眼鏡がないと見えねぇだろ?」

「あ……」

やっと思い至ったらしい沢田に、こいつマジボケだと心の中で突っ込みを入れた。
それにしても授業はどうしたのだろうか。

「5時限目はどうしたんだ?」

「えっと、数学は眼鏡掛けてても分かんないから…」

合ってもなくても同じらしい。
さすがダメツナ。
そんなことを思いながら、沢田の手を取ると商店街を歩き出す。

「あの、これからどこ行くの?」

「眼鏡は止めろ。コンタクトがいいぞ。そのくらいなら持ち合わせがある。」

そうリボーンに言われた沢田は大きな瞳を益々大きくしてリボーンを振り仰いだ。

「…いいの?」

「ああ。その代わりオレの言う通りにして貰う。」

手を握ったまま入った先は、リボーンの行きつけの美容院だった。







翌朝、リボーンは沢田家の前に自転車で乗り付けていた。
昨日沢田を送るという名目でしっかり家を覚えたからだ。

いってきますという声変わり前の少年らしい声が聞こえ、玄関がゆっくりと開かれる。
現れた沢田の格好を見て、リボーンはひとりニンマリとご満悦だ。

「あれ?リボーン、おはよう?」

「あぁ。」

ボサボサで伸び放題だった沢田の髪を美容師に切らせ、ダサい眼鏡の代わりにコンタクトにさせた。それだけである。
しかし。

「昨日はありがとう。お金、母さんに貰ったから返すね。」

「いらねぇぞ。それはうけとれねぇ。」

リボーンの跨る自転車の横に駆け寄ってきた沢田はコテンと小首を傾げた。
今までの格好ならばキモイだろうが、このナリでは絶妙の萌えを発揮する。

「どうして?」

「っ!どうしてもだ。いいから後ろ乗れ。」

「いいの?!2ケツ初めてだ。ありがとう、リボーン!」

後ろの荷台に跨った沢田はリボーンの肩に手を掛けて顔を覗き込んで笑った。


その後、顔を赤くしたリボーンが中学校の自転車置き場までマッハもかくやというスピードで走り込んだという姿を見た生徒は、その後ろでぎゅうとしがみ付く可愛い少年を目に焼き付けた。
それがあのダメツナだったと全校が知るのはもう少し先のこと。


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