リボツナ | ナノ



2.




考えてみればリボーンは不思議な存在だった。
要領の悪い綱吉を弄って構ってド突いて…それから面倒を見続けていた。
ダメツナというあだ名は伊達じゃなく、何をやらせてもビリだったり中途半端だったりで誰からも相手にされなくなっていた。
そこに現れたのがリボーンだ。

5年生からの転校生で華やかな雰囲気と何をやらせても一番になる器用さ頭の回転のよさに、誰もが彼を知ることとなった。
同じクラスになった綱吉は自分とは違うと最初から仲良くなることを放棄していた。それが勘に触ったのかもしれない。
一歩引いて接しようとする綱吉にやたらと構うようになったのは5年生の3学期に入ってからだった。



そんなことを思い出しながらリボーンに手を引かれて薄暗い洞窟の中を歩いていた。
今度は非常に元気のいい案内係と一緒に探検するというアトラクションを回っている。
どうして手を引っ張られているのかというと、入って早々足元の岩に引っ掛かり派手に転んでしまったからだ。

暗がりだから誰にも見られないと言われて差し出された手を恐る恐る掴むと力強く握り返されてほっとした。
触るなと言われなかっただけで嬉しかった。

素通りする案内係の説明を聞いている振りをして前を見ながら歩いていくとその奥はいっそう暗くなっている。
水音と野性動物の声が流れているアトラクション内の不気味さに気がそぞろになっているとまたも足元が疎かになって躓きそうになった。
そこをさっと支えてくれる腕がある。

「あ、りがとう…」

一度ならずも二度までもといったポカに呆れるでもなく支えてくれたリボーンが、綱吉の薄い肩を抱きとめる。

「鳥目なのか?鳥頭だとは知ってたが、目まで悪いとは思わなかったぞ。」

「誰が鳥頭なんだよ!」

こういう口の悪さがリボーンなんだと安心して軽口を叩くと、それにふっと笑い掛けられた。いつもの皮肉げな笑い顔ではないそれにもぞもぞ感が増していく。
こそばゆいような、歯痒いような、何ともいえない気持ちのまま先に進んでしまった係員と他のアトラクション参加者の後を追っていく。

「そういえばリボーンも並中じゃないんだろ?」

私立の有名中学の受験日に休みだったことを思い出した。頭のいい彼のこと落ちる訳もなくて、けれどそういえば担任があれから塞いでいた。
何かあったのかと思うほどの担任のやつれっぷりが気になったが、それはリボーンとは関係ない話だろう。

先ほどの京子ちゃんと同じく綱吉とは別の学校に行ってしまうのだと本人の口から聞きたかった。
友だちだからこそ、聞きたいと思っていた。
綱吉の問いに答えることなく先に進むリボーンの袖を引いてもう一度訊ねる。

「なあ、リボーン!」

「…ツナはどっちがいいんだ。離れたいのか?それとも一緒がいいか。」

「どういうことだよ?なんでオレが…」

意味が分からず尻すぼみになる言葉を無視して出口へと向かう。
徐々に明るくなるアトラクション内で眩しさに目を眇めていると、アトラクションの外で待っていたらしい女子たちと鉢合わせしてしまった。

「きゃあ!リボーン君っ!」
「どうだった?よかった?」

と見事に綱吉を居ないものとして扱う女の子たちにいつものことだと余所を向いていると、ぎゃあという悲鳴が上がる。

「ちょっと、なんでダメツナのくせにリボーン君の手を握ってんのよ!」

「は?あ、これは…!」

慌てて握りっぱなしだった手を振り払おうとすると逆にぎゅっと強い力で握り込まれた。外せない腕に焦っていると握り締めた張本人が冷たい表情でばっさり切り捨てる。

「お前らに言われる筋合いはねぇぞ。」

淡々とした声音と表情にぐうの音も出なくなってしまった女の子たちを放ったまま歩き出す。ぐいぐいと引っ張られる力は強くて背中は彼女たちの言葉を拒絶していた。
ふいに先ほどの台詞を思い出す。
ダメツナはリボーンだけが呼べる愛称になったのだろうか。他人がそう呼ぶことを嫌う心理はどこにあるのだろう。

子供みたいな(子供だけど!)独占欲にくすくすと笑っていると、明らかにムッとした表情のリボーンが肩越しに振り返った。

「てめぇ何笑ってやがる。」

「や、だってさ…ダメツナってお前以外呼んじゃいけないなんて変だろ?」

好きな子にみせる独占欲のようだと笑うと切れ長の瞳を驚きに見開いてこちらをマジマジと見詰め返す。

「分かってんのか?」

「なにを?」

何のことだと返すと諦めたように長いため息を吐いて握っていない方の手で頭を思い切り叩かれた。マジで痛い。涙目になりながらもリボーンの顔色を窺うと喉の奥に何かが引っ掛かっているような顔をしている。

「思わせぶりなこと言いやがって…」

「へ?」

「いいから土産を見に行くぞ。」

「うん?」

ちっともよくなかったがそれ以上聞きだすことも出来なかった。







様々なぬいぐるみやらお菓子、それに洋服やミニカーまで揃っている店内はまだ昼になったばかりなせいか人気もなくガラガラだ。

先に土産を買ってから昼食を摂ろうと言い出したリボーンに、それだと手がふさがって面倒だと愚痴を零すとそんなもん宅配便で送ればいいだろと返ってきた。
送料は高いがまた女の子たちに囲まれたり、無視されたりするくらいなら安いものだと納得してここにいる。

綱吉たち以外は遠く離れたところに親子連れが一組いるだけの店内で、こっちのお菓子はどうだあっちのお菓子はおいしかったのだとリボーンと2人で物色していた。
期間限定らしいお菓子を手に近寄ってきたリボーンに意を決して先ほどの返事をする。

「あのさ、さっきのことだけど、本当は一緒の中学に行きたかった。リボーンはどう思ってるか分からないけど、オレにとってリボーンは大事な友だちだよ。」

「ツナ、」

そう自分で言ったそばから違和感を覚える。
友だちだと思っているのにそれだけだと言葉が足りないような気がした。

「でもさ、それはオレの勝手な言い分だから気にしないでよ!今までありがとな…うわぁ!」

バスでは囲まれてしまってきっと話にならないし、昼食の時では場が白けるのが怖くてこんなところで悪いとは思ったのだがここしかないと早口で捲し立てた。
言ってから恥ずかしかったかと慌てて言葉を付け足すと突然視界が塞がる。
一回り違うリボーンに抱きかかえられたのだと気付いて逃げ出そうともがいても放してはくれない。

「リボーン?!」

「オレも、いやオレはツナが好きだぞ。」

「?ありがとな。オレも同じだよ。」

照れながらもそう返すとリボーンの肩がガックリ落ちる。ついでに深いため息も零れた。

「分かってねぇ…」

「だから何が?」

「最初っからだぞ。そもそも何で今、ツナの隣にいると思う?」

そう言えばそうだ。
女の子たちから逃げ回ってまで綱吉と一緒にいる意味が分からない。
運動ダメ、勉強ダメ、特にこれといった特技もない綱吉のどこが気に入ったのかさえいまだに不明だというのに、この問いを解くことは不可能だと思った。

じっと下からリボーンの顔を覗き込んでいると思いの外真剣な顔をして綱吉を見ていることに驚いた。
どこかにヒントが落ちていた筈なのに、どこがそれだったのかすら見当も付かない。
それでも何か言わなければと開いた口からはやはり何も出てはこなかった。
ぎゅっとリボーンの袖を握って出てこない言葉に顔を歪ませていると視界の先で瞼が閉じられてしまう。

「…てめぇの鈍さに負けた。」

「ごめん?」

「分かんねぇのに謝んな。」

「…ごめん。」

苦いものを無理矢理飲み込んだような表情で下を向いてしまったリボーンに慌てて声を掛ける。

「あ、あのさ!今はよく分かんないけどオレ一生懸命考えるから。だから諦めんなって!」

な?と必死に顔を覗き込んで言うとリボーンの口許がうっすらと口角を上げたように見えた。
それに嫌な予感を覚えても後の祭りだ。

「それならツナがオレの言葉が理解できるまで傍にいるってことだよな?…オレの周りに誰がいても逃げてかねぇんだな?」

「う、うん…」

今までリボーンからの接触以外は綱吉から傍に寄ることもなく、綱吉以外がリボーンの傍に近寄ってくると慌てて逃げ出すといった具合だったのだ。
それを改めろとの言葉に逃げ道は用意されてはいなかった。

そろりと袖口から手を離して逃げの体勢を取ろうとしたが、タイミングを図っていたかのようにリボーンの腕が背中に回ってきた。
思わずひぃと悲鳴が漏れる。

「ついでに言うと中学はツナと同じ並中だぞ。これからもよろしくしてやる。」

「な、なんで?!」

先ほどまでのしおらしさは演技だったのではないのかという程の豹変ぶりに声を上げると店内にいた親子連れと店員が驚いた様子でこちらを振り返る。
それに慌てて口を塞ぐとくくくっといつもの笑い声が聞こえてきた。

「あんまりでかい声を出すと覗きに来るぞ。」

「だってお前が変なこと言うからだろ!」

押えた声で答えるとフンと鼻で笑われた。

「変なことなんざ言ってねぇぞ。ただ一緒の中学に通うと言っただけだ。」

「そこがおかしいって。受験したのに…って、落ちた?」

「落ちるか。」

あまり高くもない鼻をピンと弾かれて痛さに涙が浮かぶ。それを間近で見ていたリボーンの顔が益々近付いてきて視界が塞がれたと思ったら眦を生暖かい何かがなぞっていった。

「な、な、なん…っ?」

ゆっくりと離れていった顔が悪戯をしでかした後のようにニヤリと笑っている。
多分、きっと涙を舐め取っていったのはリボーンの舌だ。
それをどういう風に受け止めていいのか分からずに床にへたりこんだ。

「どうしてこんなことをしたと思う?」

「分かんないよ…」

普通の友だちならこんなことはしない。
これもあの問いのヒントなのだろうか。

驚きで力が抜けてしまった綱吉の腕を取って立たせると手近にあった帽子を被せる。
大きなそれは綱吉の目元まで覆うほどだった。

「今日の記念に買ってやるぞ。それを見てしっかり考えるんだな。」

いらないと言い出せないままに綱吉の手に納まったそれはとんでもない宿題付きの代物だ。
それでも一つ分かったことがある。
買った土産と一緒に箱詰めにされた帽子を気にしながら少し遅い昼食を摂りにリボーンの横に並ぶと満足気にこちらを見る視線とかち合った。

「…リボーンはオレが傍にいても迷惑じゃないんだ?」

「迷惑だったら構わねぇぞ。」

「そっか…」

一番嬉しい言葉を貰ってそれに照れながらも緩む頬を隠せないでいると、隣から悩ましいため息が漏れた。

「一か八かの勝負には勝ったが、前途多難に変わりはねぇってことか。」

「へぇ、そうなんだ。」

意味も分からず大変だねと声を掛けるとヘッドロックをかけられる。

「てめぇにだけは言われたくねぇ。」

「何でだよ!!」

色々と中学生へと持ち越すことになった綱吉だった。



おわり







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