リボツナ | ナノ



お迎えの時間です




「久しぶりっ!」
「その振袖似合うじゃん。」
「花こそ大人っぽくて綺麗だね!」
「えー!京子のがよっぽど可愛いよねぇ?」

高校を卒業し、地元から離れていた同級生が一堂に会する場といえば成人式が一番早いだろう。
小、中、高と進学するにつれ会うことの少なくなったクラスメイトとの再会に花を咲かせる女の子たちを尻目に、デレデレと脂下がっている男どもはどこか照れくさそうだ。

少女から女性へと移り変わる瞬間の華やかさを目の当たりにしてモジモジしている者もいれば、ここぞとばかりにバカをして気を引こうとする者もいる。
そんな中、2人の長身に囲まれて泰然とこちらに向かってくる3人のスーツ姿を視界に入れた。

「あ、ツナ君!」

そう声を掛ければ辺りは騒然とする。アレがダメツナ?!と押さえきれない声で言い合う者もいれば、その周囲を囲むように歩く2人に黄色い悲鳴を上げる者、呆然と眺めるだけの者と反応は様々だ。
京子は振袖の裾を掴んで手を振り上げ、隣の花は毛皮のショールに埋もれた顔に苦笑いを浮かべるだけだ。

「久しぶり…でもないけど、こっちでは久しぶりだよね。」

「うん、そうだね。年末はおいしいカニをありがとう!お兄ちゃんと両親とで美味しく頂いちゃった。」

どういたしましてと笑う顔には余裕が見える。
中学生の頃しかしらない者はその滲み出る王者の覇気に気圧されて声すら掛けることが出来ない。
周囲を威圧する銀髪の同級生と、軽い挨拶をしながら辺りの様子を窺っているメジャーリーガーからも沢田が重要人物であることが知れた。

「ね、京子…その人ダメツ…じゃない、沢田だよね?」

「そうだよ。変わってないでしょう?」

そう返されて元クラスメイトは言葉を飲み込んだ。
見た目はそんなに違いはない。少年が青年へと成長した違いはあれど、優しげな風貌も寝癖のままのような髪の毛も思いの外大きな瞳もそのままだ。
けれど雰囲気はまったく別人といっていいほどの変わりようだった。
この沢田に慣れているらしい京子と花にどう返事をすればいいのか迷っていると、沢田の横から助け舟が出た。

「見た目は変わんねーけど、中身は変わったんだぜ。な、ツナ!」

「ええぇぇえ?変わったかな…ただ苦労が増えただけだと思うけど。」

「そうだ野球バカ!10代目はお会いした頃となんら変わってねえ!元から威厳溢れるボスだ…って、なにかご心労がおありで?!右腕たるオレになんでもおっしゃって下さいっ!!」

「あはは!相変わらずだな、獄寺は!」

相変わらずのやりとりを交わす3人だったが三者三様の華やかなオーラは周囲を否応なく惹き付けていく。
膨れ上がる周囲に危機感を煽られたのは元学級委員長だ。
成人式を終え、バラけていく筈の人波はここだけ磁場でも発生しているかのように人垣を作りはじめていた。

「っ、注目ー!元並中生だけ移動するよ!沢田、いいだろ?」

「へっ?あー…まあ、少しなら。」

地元の大学に通い続ける彼はそう仕切ると、沢田とその周囲の華やかな面々を連れて一番大きいファミレスへと移動させるべく声を掛けに周りはじめた。









地元にコネのある元学級委員長がファミレスをほぼ占拠する人数をどうにか収めきった頃には、沢田の周囲には人垣に覆われていた。
10人掛けのテーブルに身を乗り出すように群れる元同級生たちを見て、こんな様子を元並中の風紀委員長に見られたならば屍が転がる羽目になるんじゃないのかとつい想像してしまった。

「ま、そうだろうな。ちなみにあいつも元気だぞ。今日は仕事でいねぇが、並盛で群れんのは関心しねぇな。」

と、心を読まれたようなタイミングで声を掛けられてびくっと飛び跳ねた。

「だ、誰?」

わずかに自分より低い位置からの声に慌てて後ろを振り返ると、元学級委員長を無視して一陣の黒い風が通り抜けた。

「おいツナ、あんまり長居出来ねぇぞ。分かってんのか?」

威圧だけで周囲の人垣を割いたのは黒いワンピースが妙に似合う中学生くらいの女の子だった。

「てめぇ、10代目になんて口利きやが…」

「はいはい。分かってるよ、リボーン。」

周囲からの質問攻めにほとほと疲れ切った顔を覗かせていた沢田がそう返事をする。それに驚いたのは左右を固める獄寺と山本、それから今でもみんなのアイドルである京子ちゃんだ。
それに気付かない沢田が、いかにも辟易した表情で少女に問いかける。

「それで、なんでリボーンはそんな格好してんだよ。」

「危機感の足りねぇボスの隙に乗じて周囲を嗅ぎまわるタヌキどものしっぽを掴んでやろうってな。」

「…いるね、ホントに。でもさ、ここではやめろよ。」

「ムリだろ。滅多に帰郷しねぇ次代を殺るまたとないチャンスだからな。護衛も外れた。」

「外れてないんだけど…」

いかにも疲れた風情で頬杖をつく沢田に少女とは思えないような男前な笑みを浮かべた少女は、沢田以外の誰のいう事も聞かなかった獄寺に目配せをして周囲の人垣を遠ざけさせる。
一目で分かるほど力関係は少女の方が上だ。

それを遠巻きに見ていた元クラスメイトは恐る恐るといったていで少女へと声を掛ける。

「君って沢田の何?つうか沢田って何者?」

誰もが知りたい問いだった。
獄寺の沢田崇拝は中学時代からだったが、それを裏付けるような沢田の豹変と周囲を油断なく窺う獄寺と山本、それにこの少女とくれば誰だとて知りたくなるというものだ。

それを聞いた少女は人形のように整った美貌をニヤリと歪ませて答えた。

「こいつはな、どうしようもなく性悪な人誑しだぞ。一旦掴まると逃げられねぇ。なぁ、京子?」

「うーん…そうかも。」

「ちょ、京子ちゃんっ!」

どうやら京子とも知り合いらしい少女はそう話を振り、それに頷いて同意した京子は悪戯っぽい表情で沢田を見て答えた。

「しかも鈍いから大変なんだよね。」

「まぁな。」

「んなっ?!」

パクパクを口を開けたり閉じたりと忙しない沢田を余所に、京子と少女は似通った表情で視線を通わせる。

「つー訳で、逃げんぞツナ。」

「了解!」

少女の一声に沢田と獄寺、山本の3人が一斉に動き出した。
テーブルの下に逃げ込んだ3人の座っていたソファが蜂の巣になる。
一拍遅れて周囲の人垣から悲鳴が上がり、我先にとファミレスの出入り口に駆け込んでいく。
それを映画のようだと思わず見入っていた元学級委員長は少女のスカートがひらりと閃いてそこから見慣れぬ黒い物体が現れたことに驚いた。

「フン、そんなへなちょこでオレを抜けるか。」

パン!パン!とタイヤの破裂したような音がする度にファミレスのガラスが粉々に砕け、それを臆することなく見据えていた少女の頬に一線の朱が走る。
それを気にした様子も見せずに少女は2発撃ち抜いた。

ぴたりと止まった銃弾の雨に同級生をテーブルで守っていた沢田が飛び出した。

「終わった?」

「あぁ、平気だぞ。あとは雲雀に差し出せば背後は洗える。」

物騒な会話と銃弾にも動じない沢田に同級生の誰もが固唾を呑んで見詰めていた。
その視線に気付いた沢田が一欠けらの翳りもない笑顔でにっこりと笑う。

「ごめんな、みんな。どうもオレを驚かせようとした金と手間の掛かったどっきりだったみたい。」

イヤイヤイヤ!!と誰もが心の中で突っ込みを入れても、誰も反論することができなかった。
そしてそんな同級生たちを放って、慣れているらしい京子と花が頷くと朗らかに送り出す。

「そうなんだ?びっくりしたけどみんな怪我もしてないし、平気だよね。そろそろ時間かな。」

「うん、慌しくてごめん!弁償とかは獄寺くん経由でね。それじゃ!」

振り返った沢田の後ろには先ほど拳銃を揮っていたことなど微塵も感じさせない少女がこちらを見詰めていた。その瞳は喋れば殺すと書いてある。
一斉に全員が全員、頭を横に振って決して漏らさぬ決意を見せればその異様な光景に気付いた沢田が小首を傾げる。

「なんだよ?」

頑なに口を割らない元クラスメイトを不審に思いながらもファミレスの前に横付けされた大きな黒塗りの車に乗り込む沢田の肩を掴んだ少女は濡れたように光る唇を押し付けた。
妙な唸り声を上げた沢田が別れの挨拶もそこそこに奥へと逃げ込むと、呆然とそれを見せつけられたギャラリーに振り返って一言。

「ツナと付き合いたけりゃ、死ぬ気で来いよ?」

本当に死ぬ気じゃないと傍にもいられないと知れた元クラスメイトは先ほどにも増して勢いよく頭を横に振る。
それにイイ子だというように笑い掛けると頬を染めた血液の塊を親指で拭って車に乗り込んでいった。

その後ろの黒塗りの車に山本と獄寺も乗り込んで、あっという間に過ぎ去った出来事を反芻していた元クラスメイトの一人はあることに気が付いた。

「あれ?あの子って男の子だったの?」

どの道、その問いに答えてくれる者はいないし答えを知ることは得策でないことも分かっていた。




おわり



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