2.隼人が引くワゴンと共に3人が集まるソファまで行くと、何故か微妙な雰囲気が流れていた。 珍しい。ランボとリボーンはともかく、武まで加わっているのにこのピリピリとした空気は何だろう。 リボーンのエスプレッソ以外は隼人にお願いして、ワゴンからカップを取る。 昨日取り寄せたばかりのリボーンのお気に入りのコーヒー豆で淹れたエスプレッソを置くと、どこに座ろうかと辺りを見回す。 するとリボーンがオレの手を取って自らが座るソファへと引き寄せられたので、たまにはいいかと腰を据えた。隼人から紅茶をもらうがまだ口をつけず、隣のリボーンのエスプレッソを気にしていた。 薄い唇がカップに触れ、喉仏が動いていく様をじっと眺める。 「90点だぞ。」 「やった!」 カップから外した唇がニィと笑みの形を作り、切れ長の目が楽しそうに細まっていく。 「あとは膝枕で満点にしてやる。」 深まっていく口角を横目に、顔に血の気が集まってくるのが分かった。 「聞いてた…?」 それには答えず、ボルサリーノを片手にそのまま頭をオレの膝の上へと転がしてきた。重みと顔の近さに益々赤くなっていく。 以前は触らせてすらくれなかったリボーンにそっと触れてみると、体格的にはオレより大きくとも、まだ青年になりかけの肉体年齢だろうリボーンの肌は日に焼けることもないせいで白くてすべらかだった。 こうして膝の上に頭を乗せ、触っても怒られないということに幸せを感じる。 本当に恋人になったんだとやっと実感できた。 あれからすぐにリボーンに仕事を渡す羽目になり、今日までそれらしい接触もなく過ぎてしまったから。 リボーンの少し硬い髪を撫で、視線を合わせて笑いあっていると別の方向から声が掛かった。 「…ずりぃんじゃねーの?ツナはみんなの、だぜ?」 「そうですよ!マフィア界のアイドルです!!」 すっかり2人の世界だったために忘れていたが、横にいた武がぼそりと呟き、ランボに捲し立てられて気が付いた。 リボーンの顔に覆い被さるように近付いていた顔を慌てて上げようとしたが、後頭部に手がまわってきてそれ以上あげられない。恥ずかしさに目の前の顔に詰ってもまったく相手にされなかった。…と、いうか余計に笑顔が深く黒くなっていく。 「言っただろうが、今日こそ取り立てるぞってな。」 「そうだけど…!異存はないけどここはみんなが居るだろ!?」 その回答が気に喰わなかったらしいリボーンは、オレのネクタイを下に引っ張ると無理矢理口付けてきた。 驚愕に見開く隼人の顔を視界に入れてしまって、羞恥で顔から火を吹きそうだ。 けれど肝心な部分では拒絶しきれないオレは、またもうっかり流された。下から差し込まれた舌がゆっくりと口腔をなぞり、逃げようと縮めた舌も引き摺り出されて気が付けばばっちり応えていた。 ゆっくりと離れていった舌が、最後に下唇を舐め取っていき、それに思わず声が漏れたところで3人の視線が反らされることなくこちらに注がれていることを感じた。 全身が赤く染まるほどの羞恥に顔も上げられない。 咄嗟に手で顔を隠すと、膝の上に居た筈のリボーンにソファの上へと転がされる。 覆い被さってくる身体を慌てて押し留めるも、シャツの中に手を差し込まれてなぞる指に身体が跳ねた。 「リボーン!」 「…言っとくが、こいつらは出てく気はねぇぞ。邪魔するためにここに来たんだからな。」 「へ…?」 リボーンの手を避けながらも横を向くと、まったく退く気すら感じられない武がお茶を片手に座っていて、涙ながらのランボも、顔を赤くしながらの隼人ですらソファに腰掛ける。 「ちょっ…どういうこと?!」 隼人に問えば、遠慮しいしいこちらを向いて口を開いた。 「その…実は先日の一件を聞いていたんス、オレたち。リボーンさんとの関係は『契約』だということなので、オレは10代目にだけそれを負わせるのは悪いんで…!」 「うええぇぇええ?!違うよ、誤解だよ!さっきの膝枕見たでしょ。オレは滅多に会えないリボーンとこうしていられて嬉しいんだって!」 話に夢中になって、お留守になった手から抜け出たリボーンがオレの手首に舌を這わせた。動脈を辿るそれと脇腹を滑る指に身体の奥から熱が湧き上がる。 ぎゅっと目を瞑ってやり過ごすも、柔らかい腕の内側を食まれて声が漏れた。 「ほら、そうやって技巧にばかり走るのが証拠でしょう?ボンゴレを愛人扱いするなんて失礼ですよ…!」 今も昔も変わらないリボーン嫌いなランボに、懐から銃を抜こうとする仕草をみせた手を握って止める。相変わらず一言多い。 「本当に違うって!」 言い募るも、武は肩を竦めて総括した。 「ま…平たく言やぁ認めてねーってことだ。本当に好きならツナがそんなに嫌がる訳ねーし?」 「イヤイヤイヤ!!!普通は嫌だよ!見られながらなんてっ!」 どんなに声を張り上げても聞いちゃいない3人は、その場から離れてくれない。 これってどうしたらいいんだろう?! こっそり上に乗っかっている顔を覗くと、それはそれはイイ笑顔で言い切られた。 「つー訳で続行だ。誰が見ても分かるまでしてやる。」 ブンブンと首を横に振っても、誰も聞いちゃいないってどういうことなの! 脇腹を這う手に声が震えながらも、どうにか叫ぶ。 「お、おまえら出てけ!!」 「ムリだな。」 最近ちょっと腹黒になったよね、武。 「嫌です。」 お前は今更反抗期じゃないだろ、ランボ。 「…右腕ですから!」 使い方間違えてる!そんな右腕いないって、隼人。 それならばとリボーンを見るも、羞恥心の薄いこいつに何を言っても聞きはしない。 そう、オレの味方なんていやしなかった。 . |