虹ツナ | ナノ

2.



年の瀬を迎え小学生たちはといえば冬休みの宿題に余念がない時期だ。
ゆとり教育から詰め込み式へとシフトチェンジした教育方針に不満を言うことも出来ず、母親から年明け前には済ませるようにと口が酸っぱくなるほどお小言を貰うのもこの時期だろう。
お年玉という人参をぶら下げられて尻を叩かれながら、今日も沢田書道教室には小学生たちが集まっている。
書き初めの課題を消化するという名目で連日同じ顔ぶれが揃っていた。

「てめぇら、暇なのか?」

さも忌々しそうに眉間に皺を寄せてリボーンが隣に座るコロネロとスカルに声を掛ければ、硯を擦っていたコロネロが顔を赤らめながらも顔を上げた。

「う、うるせぇぞコラ!そういうお前も同じだろうが!」

何事もそつなくこなすリボーンと、思い切りのよさが字に表れているコロネロはとっくに書き初めなど出来ていたのだが、ツナに会う理由欲しさに粘り続けていた。
そんな2人を余所にスカルだけは焦った表情で取り組んでいる。

「どれどれ…うーん、ここの跳ねはこうした方が綺麗かな」

「分かってる!」

リボーンとコロネロの2人の言い争いを仲がいいな程度にしか思っていないツナが、スカルの書き上げたそれを覗き込んで朱で直しを入れていた。
不器用なスカルは歯噛みをしながらまた筆に墨をつけてから新しく書き始めようとして筆を構える。

「じゃあ一回オレと一緒に書いてみようか。筆遣いを覚えるんだよ」

と言うと、ツナはスカルの手に自分の手を添えて筆を走らせた。
スルスルと淀みなく流れる文字と、後ろから感じる体温にスカルが身動きできずに固まっていると、最後まで書ききったツナはひょいとスカルの顔を後ろから覗き込んだ。

「分かった?この跳ねの筆の動かし方と、止めの筆遣い。思い出してもう一回書いたら持ってくるんだよ」

至近距離の笑顔にうろたえたスカルは、まだ添えられていたツナの手を振り払うと飛び上がらん勢いで立ち上がり、机にぶつかると墨汁を零してその上に転がり込んだ。

「ちょっ、あーあ…着替え、持ってくるよ」

苦笑いを浮かべてそこから立ち上がったツナの背中を見送った子供たちは、顔を赤くしたまま机の上で惚けているスカルの背中を叩いた。

「…いい度胸だな、パシリ。下手くそをアピールしてツナに言い寄るその根性、見下げたぞ」

そう後ろからリボーンの声が掛かれば、前からは何本目になるのか無残にへし折られた太筆を手にしたコロネロがお世辞にもいいとは言えない目つきで睨みつけていた。

「いやっ、違う!オレは、その…っ!」

スカルは冷や汗と脂汗を流しながら言葉に詰った。
本当に不器用なだけなのだが、疚しいところがなかったかと聴かれればないとは言えないからだ。

リボーン、コロネロ、スカルの3人から少し離れた場所で書初めに取り組んでいた3人も白い目をスカルに向けている。
ニコニコと笑みをたたえているように見える風は、漢詩を書いていた手を止めて何故か懐からヌンチャクを取り出し、ラルは腰に下げていたBB弾を連射できるエアガンを手に取ると弾の充填を確認していた。
ちなみにマーモンはスカルの数少ない友だちのタコをどんな調理法で頂こうかと考えていた。

「ちょっと大きいかな?でも最近服が却ってこないから…ごめんな」

服を手にしたツナが現れた途端、スカルへのプレッシャーを引っ込めた各々は顔を余所へと向ける。
何故なら却ってこない理由は主に彼ら彼女らにあったからだ。
ツナの服が欲しいとは言えない6人は、わざと墨を零して服を借りるとそのまま自分のタンスへしまいこんでいた。
おかしいなと呟きながらも、今のスカルより少し大きめの服を手渡すと着替えておいでと背中を押した。

「片付け、手伝ってやるぜ!」

「本当?ありがとう、コロネロ。いい子で嬉しいよ」

スカルの尻拭いなどしたくもなかったが、ツナと少しでも一緒にいられる時間が欲しいコロネロが雑巾を持ってきて机を拭きはじめると、他の子供たちもワラワラと周りに集まってきた。

「汚れた下敷きはどうするんだ」

「一緒に洗うから流しに置いといてくれる?」

「ついでに硯と筆も浸けとくよ」

「うん、ありがとう。ラル、マーモン」

「私が洗っておきます。ツナ先生はそちらを片付けていて下さい」

「助かるよ、風!」

他の5人より長く通っているせいで、ツナに気安い風を睨む4人とは別にリボーンはといえば片付けをするツナの隣でめずらしく書き初めを真剣に取り組んでいた。

「オイ、ツナ。これでいいか?」

「んー…、『希』の跳ねがおかしいかも」

「どうおかしいんだ」

「えっと、筆を気持ち手前に引くように…って分かんない?」

「分かるか、説明が悪いんだぞ」

「ごめん、ごめん。だからね…」

片付けをしていた手を止めて、リボーンの後ろから手を伸ばしたツナが筆を握る手に自分のそれを重ねて動かすと、辺りを取り囲んでいた仲間たちにチラと視線を向けた。

「分かった?」

「…もう一度」

「いいけど…昨日まで出来てたような」

あれえ?というツナの声にスカル以外の仲間がハッとしたように顔をあげる。

「もっとしっかり握って教えてくれ」

リボーンの言葉に、その真意をしっかりと理解した4人が顔を引き攣らせた。
教室の空気がピシリと割れたような音が聞こえたとスカルが後に呟いていたとかいなかったとか。

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