「リボーン君、〇〇って知ってる?」 昼休みが終わるほんの少し前、掃除の時間のためにクラスに雑巾を取りに寄ったリボーンは、突然あまり話したことのないクラスメイトに声を掛けられた。 話しの内容がさっぱり分からず、眉根を寄せていると横から助け船が出た。 「ゲームだろ、今流行ってるとかいう。」 筋肉バカの幼馴染みはゲームなどというインドアな代物とは無縁だと思っていたので、少し驚いたが顔には出さず横を向く。と、明らかに興味のない顔に自分と同じだと悟った。 「そう!コロネロ君もだけどやったことある?」 「ないな。」 「オレもないぜ、コラ。」 そっかぁ、ゴメンな〜とクラスメイトはおなざりな態度で遠ざかる。 「何だ、あれは?」 意味も分からぬまま相手だけが理解して去っていくことに、プライドの高いリボーンはムッと不快な表情を作る。 「マーモンがはまってるっていうのは聞いたことあるな、コラ。」 「あぁ?アイツ金が絡むと最強じゃねぇか。あんまり勝てねぇからオレらに仇討ちでも頼もうとしたってことか?」 その会話を聞いていたコロネロの前の席のクラスメイトが違う、違うと苦笑いしつつ口を挟む。 「マーモン君が5連敗してるんだってさ。相手は高校生らしいんだけど、今までどんなゲームでも、大人でも負け無しだっただろ?だから余計にみんな勝ちたいって思ってるみたいだよ。」 みたいだよ。なんて他人事のように言っているが、告げるクラスメイトも興味津々なことが丸分かりだ。 ゲームセンターでの勝負になっているようで、最初は負ける気のなかったマーモンが、小学生相手に怖気づいているのかと挑発して、今のゲーム勝負に至ったらしい。 信じられないことに、連敗中というのもリボーンとコロネロの興味を引いた。 「…ふん。」 暗黙の内に、今日の放課後はマーモンの通うゲーセンに足を運ぶことになっていた。 ************** 「ちょっと!どうして陰険サドと筋肉バカと腹黒根暗と男女までいるのさ!」 フードを目深に被っているのでいつも表情の見えないマーモンが、珍しく焦っていた。 ニヤニヤと笑うリボーンに向けて、マーモンは読めない筈の表情からも此処から立ち去って欲しいという雰囲気が滲む。 余程、立ち会われたくないらしい。 そこに、険悪な雰囲気をまったく理解することなく、小柄な制服姿の少年がマーモンの座るゲームの前までやって来た。 「あれ〜今日はまたギャラリー多いね?」 「ツナヨシ!」 ツナヨシと呼ばれた高校生に見えない彼は、元々大きい目を更に大きく開いてマーモンに寄ってくる。 小首を傾げたポーズが妙に可愛らしい。 あり得ないことに、マーモンが近寄ってきたツナにぱっと飛び付く。 「友達?」 「誰が。あそこの4人は腐れ縁だよ。他は僕とツナヨシの勝負を賭けに…違った見学しに来た暇人さ。」 「コラコラ、賭け事はダメだって言っただろ!ちゃんと後で返しておけよ?じゃないともう来ないからな。…で、そっちの4人はマーモンの腐れ縁って何?」 「リボーンだぞ。一応幼馴染みになるな。」 「コロネロだ、コラ。」 「スカルです。」 「ラル・ミルチだ。」 勝手に挨拶しはじめた幼馴染みにマーモンがフードからも分かるほど剣呑な視線で睨みつけるが、気にした風もなくむしろ気に入ったようで綱吉の周りを取り囲みはじめた。 自分たちは性格はまったく違うが、好みはよく似ているのだ。だから会わせないようにしていたというのに! 「はじめまして。綱吉だけど、ツナでいいよ。」 ふにゅっ。そんな擬音が聞こえてきそうな情けなさ一歩手前ぐらいの笑顔が可愛い。 見た目キラキラしている5人の小学生が、一斉に目を逸らしたり赤くなったりして固まってしまった。 それに気付かず綱吉は、初めて近くで見るコロネロの金髪に興味を引かれ、思わずそっと触れてみた。 「うわ…本物の金髪だ…すげー。コロネコ君だっけ?君もマーモンと同じイタリア人?」 「そうだよ。」 コロネロは、高校男子にしては高い声を頭のすぐ上で聞いて咄嗟に身体が反応できない。 そんなこととも知らず、綱吉の手はつむじから裾へ撫で付ける。 それを見てマーモンがコロネロを睨む。口がへの字だ。 この5人とも、すごい目鼻立ちが整ってるなぁ。きょろきょろと周りを見回していると、コロネロを撫でていた手が何故だかリボーンに掬い取られていた。 この子もすごく綺麗な顔立ちの子だ。黒い艶やかな髪(何故か揉み上げがクルクルしてるが)と、くっきりとしたきつめの目がすごく印象的だ。コロネロは綱吉の口元辺りの身長だがリボーンはそれよりやや小さい。それでも他の子たちより若干大きめだ。 「…てめーにゃ刺激が強過ぎだ。ひっこんでな、ヘタレ。」 「誰がヘタレだコラ!」 「お前だ、コロネロ。」 「顔真っ赤ですよ、先輩。」 ラル・ミルチやスカルにまで指摘されるに至って、やっと綱吉がコロネロの状態に気付く。 「うわっ、顔真っ赤じゃん。風邪でもひいてるの?早く帰らなきゃ!」 リボーンに取られていない方の手をまたもコロネロの額に近付け、覗き込む。 ボンっと音がしそうなほど勢いよくもっと赤くなり、うっだかあぁだか声にならない擬音を漏らすと身体を反らされた。 「コ、コ…コロネロでいいぜ!コラ。」 「オレもリボーンでいい。」 コロネロの状態を気にしつつ、かわされた手が寂しく宙を彷徨う。 口々に呼び捨てにしろと言い募られた。だから綱吉もツナでいいよな?ということになっていた。別に気にしないし、呼び捨てでいいといったのはこちらだ。 「うん、(どうでも)いいよ。」 「ねぇ、君たち邪魔だよ。今から僕がツナヨシとゲームするんだから、賭けないヤツは帰んなよ。」 痺れを切らせてマーモンが綱吉とリボーンの間に入る。最初から不機嫌だったが、今は呪いでも掛けんばかりだ。宙ぶらりんの手を自分に引き寄せて、綱吉の視線を独り占めすると常には考えられないくらい可愛げのある表情でゲームまで引っ張ろうとした。 「甘ぇな。」 言うとぺろりと綱吉の指を舐める。 「てめぇ何してやがる!」 「変態です、先輩。」 「ばい菌が移っちゃうよ、手を洗いに行こう。」 「…死ね。」 びっくりしたが、甘い理由を思い出して鞄から可愛い包みを取り出した。 「手に付いてたのかな…甘いの好きなの?あげるよ、今日実習で作ったマドレーヌの余りだけど。」 まぁまぁだったよ。リボーンの目前に差し出すとまったく分かっていない表情でにっこりする。 等しく綱吉以外、フリーズされている。 「…甘ぇのは少しでいい。並盛高ってのは男子でも家庭科があんのか?」 すぐに解凍されたリボーンが見当違いなことを言ったとしても罪はない。もっと明後日の方向に行っているのは綱吉の方だ。 「ワオ、ゲーセンでまで小学生と群れてるなんて。……今日は駄犬と野球馬鹿はどうしたの?」 振り向くと、そこには並盛の秩序兼死刑執行人、雲雀恭弥が立っていた。 . |