年長さんになると帰りの支度は勿論のこと、園庭で遊んでいた道具を年少さんたちの分も一緒に片付けてあげるようになります。 ツナも一生懸命お片付けを手伝っていました。 砂場で使った大きいスコップや、バケツ、ジョウロなどを両手いっぱいに抱えて道具倉庫に置きにいきます。 たけし君は三輪車を、はやと君はフラフープを手にツナの後に続きます。 「ツナ、今日も帰ったら遊ぼうぜ。」 「この…オレが言いたかったのに。オレもいいですか?」 そう声を掛けるといつもなら二つ返事で頷いてくれるツナが、困った顔でたけし君とはやと君を振り返りました。 「あのね、きょうはいとこのお兄ちゃんが来るの。だからあそべないんだ。ごめんね?」 申し訳なさそうに謝られたたけし君とはやと君は驚きました。 ツナに従兄がいたなんて初めて聞いたからです。 手にしていた道具を倉庫に押し込めると、ツナはしょんぼりと歩き出しました。 「従兄だなんて初めて聞きました。会うのは久しぶりなんですか?」 「うーんと、ひさしぶりじゃなくてはじめてなの。」 「「初めて?」」 あまり嬉しくなさそうに小さな声で答えるツナに左右から訊ねます。 「よくわかんないんだけど、お母さんとお父さんは『かけおち』ってやつだったんだって。だからおじいちゃんもおばあちゃんも見たことなかったんだ。」 「「…」」 駆け落ちが何か分かるのははやと君だけで、たけし君はよく分かりません。それでもツナに関することならどんな小さなことでも知りたい2人は大人しく聞いています。 「ぼくが生まれたから仲直りしたっていってた。それで今日、はじめておじいちゃんといとこのおにいちゃんが来ることになったんだ。」 はやと君は分かったのか頷いていますが、たけし君はツナと同じで曖昧に笑っています。 「それじゃ、楽しみだな!」 「バカお前…!」 分からないながらも、初めて会える親族ならば嬉しいだろうとたけし君がニカッと笑い掛けると、ツナは大きな瞳をもっと大きく見開いてそれから頷きました。 「そっか、会えてうれしいって思ってもいいんだよね?」 「当たり前だって!よかったな、ツナ!」 「うん!」 事情が分かって複雑な表情を浮かべるはやと君とは別に、ツナとたけし君は笑顔で帰り支度を始めるために教室へと足早に向かいました。 虹っ子幼稚園のお迎えは2時。 いつもならお母さんがお迎えに来る時間なのですが… 「ツナ?まだ居るのか?」 年長さんのクラスの片隅でポツンと座るツナを見つけた園長先生が声を掛けました。 ツナのお家に居候している園長先生は事情を知っています。 だから何かあったのだろうと思ったのです。 「奈々はちょっと用事があるのかもしれねぇな。ツナ、一緒に帰るか?」 「う、ん…」 寂しそうに門の外を見詰めるツナに、園長先生は心臓を鷲掴みされました。 「ツナ!オレがずっと傍に居てやるからな!」 通園バッグごとツナを抱き締めていると、後ろから何かが園長先生の後頭部目掛けて飛んできました。 勿論そんなものにぶつかるリボーンではありません。 ツナを抱えたまま、難なく避けるとうざったそうにちらりと後ろを振り返ります。 するとそこには見覚えのある少年が一人、 「てめーなに、人の従弟に抱き付いていやがる!カッ消す!」 「ああ?何でてめぇがジャッポーネに…って、今従弟とか言ったか?」 園長先生の腕の中からこっそり顔を出したツナが見たのは、小学生くらいのちょっと顔が怖いお兄ちゃんでした。 どうやらリボーンと面識があるようです。 初めて見る顔にびっくりしていると、その少年がツナに視線を寄越しました。 光の反射によって赤く見える瞳と、少年とは思えないような眉間の皺はあれど、とてもかっこいいお兄ちゃんです。 でも鋭い視線で睨むように見詰められたツナは怖くて視線が外せません。 ぷるぷると園長先生の腕にしがみ付いていれば、少年がこちらに近付いてくるではありませんか。 「てめーがツナヨシか。」 「ひっ…!」 一歩、また一歩と近付く少年に目を瞑ってぎゅうと園長先生の胸に顔を埋めると、園長先生はツナをもう一度強く抱き締めて抱え上げてくれました。 「相変わらず可愛くねぇガキだな、ザンザス。ツナの従兄弟だ?本当か?家光に聞いたこともねぇぞ。」 「うっせぇ。早くそのガキを寄越せ。奈々の代わりに迎えに来た。」 「奈々…お母さん?」 お母さんの代わりと聞いて、慌ててザンザス少年に視線を合わせたツナはこちらを見上げる目が存外優しいことに気が付きました。 「ツナヨシ、来い。」 言葉少ないザンザス少年は、強面も相まって同年代は勿論小さい子にも怖がられてしまうほどです。 けれどツナは大丈夫だと思いました。 きっといいお兄ちゃんだと。 「リボーン先生、離して。もう大丈夫だよ。」 「ツナ?」 そっと降ろされたツナは、ザンザスに向き合うとぺこりと頭を下げました。 「つなよしです。お兄ちゃんは?」 「ザンザスだ。ツナヨシの親父の遠縁ってヤツだな。」 「とおえん?」 「平たく言や、従兄弟だ。」 「お母さんはなんで来れないの?」 「ジジイと…いや、ツナヨシのじいさんと話し込んでいたから、オレが並盛の町を頭に入れるために見て周るついでに迎えに来た。」 「?」 意味が分からないツナはコテンと小首を傾げてザンザスを見上げています。ザンザスはそれを見て居心地悪げに少し頬を染めると余所を向いてしまいました。 「ちょっと待て。何でてめぇが並盛を見て周らなきゃなんねぇんだ?」 「フン、聞いてないのか。オレが9月からこっちに引っ越してくることを。」 「なに?!」 奈々や家光にも聞いていなかったリボーン先生は目を剥いて驚きます。それを無視してツナの小さい手を握ると、教室から連れ出していったのです。 慌ててその後ろに付いていくと、ツナとザンザス少年は意外や仲良くなった様子で手を握り合っていました。 「てめ…、ツナに触ってもいいのはオレだけだぞ。」 「…イエミツの言った通りだな。てめーの妄想にこいつを付き合わせられねえ。帰るぞ、ツナヨシ。」 「うん!先生、またあとでね!お仕事頑張って!」 「ツナー!」 ザンザス少年の手を握ったまま、片手でバイバイと手を振られ涙ながらにお別れした園長先生でした。 さて、このザンザス少年と園長先生との関係は? . |