それは2年近く前のことです。 イタリアで教育のエキスパートとして活躍していたリボーンは、大きな学会での発表も終わり、執筆していた本も出版間際、手掛けていた幼年期の子供たちの経過観察などもひと段落終えた冬の冷え込みが厳しくなってきた頃でした。 手が空いたといっても、子供たちの教育に終わりはありません。 それでもリボーンを筆頭にコロネロ、スカル、マーモン、ラル・ミルチ…他にも3人ほどいる彼ら教育のプロたちは、忙しい中で連絡を取り合っているようでした。 そんな折、ラル・ミルチ経由で日頃世話になっているボンゴレ学園の理事長から呼び出しがありました。 緑豊かな広い学園は、幼等部から大学までの一環した教育方針を持っています。 その教育方針に賛同しているのがリボーンとラル・ミルチで、彼らが教育を受けたのもここボンゴレ学園です。 隙なく着こなすブラックスーツ姿に学内を歩く女学生たちは色めき立っていますが、そんなことは慣れっこのリボーンは目もくれません。 内心、煩わしいとは思いながらも顔に出すこともなく、キャンパスを抜けて馴染みの理事長室へと向かうリボーンはふと妙な胸騒ぎを覚えました。 それは新しい出会いの予兆だったのかもしれません。 そうして、そこで出会った家光に連れられて日本へと観光旅行気分で来日したのでした。 「家光、お前顔がキモイぞ。」 「酷っ!リボーン、お前本当にその口の悪さでやっていけてるのか?!」 「ハン!愚問だな。オレ様に不可能はない。」 イタリアから日本までの長い空路での拘束時間によって、少々機嫌の悪くなってしまったリボーンは、みっともなくデレデレしている家光の顔を見てうんざりしているようですね。 何やら、飛行機に乗っている間中家族自慢をされていみたい。 写真で見た奥さんは確かに可愛いといって差し支えない容姿で、その腕に抱かれた赤子もよく似た可愛い子ではあるのですが、ちょっと…いえ大分惚気過ぎたようですね。家光さん。 ようやく目的地の家光の自宅に着いたようで、タクシーが停車しました。 イタリア人のリボーンからしてみれば、小さいと感じる家。でも滅多に帰ってこない父のために、母子2人で住むには丁度いいのかと失礼なことをリボーンは考えていました。 まさかその時には、ここに居候するとは夢にも思っていません。 大柄な男2人が、玄関を開けて少し窮屈なそこで靴を脱いでいると、パタパタと2人分の足音が聞こえてきました。 奥さんの奈々と息子の綱吉のようです。 「おかえりなさい、あなた。」 「ただいま〜!奈々、ツナ、元気だったか?」 家光の大きな身体に阻まれてちらりとしか見えない奥さんはとっても可愛い人でした。息子のツナはちらりとも見えません。 やれやれと肩を竦めると、声を掛けます。 「はじめまして。オレはリボーン。少しの間、厄介になるぞ。」 声を掛けられ、やっと気付いた奈々は家光の腕から抜けるとリボーンへと向き合います。 腕の中には息子のツナが、その大きな瞳できょとんとリボーンを見上げています。 奈々にそっくりなツナ。初めて見るその子に動悸が止みません。こんなことは初めてです。 ドキドキと見詰めていると、奈々とツナが同時ににっこり笑い掛けました。 「ようこそいらっしゃいました。奈々と息子の綱吉です。自分の家だと思って寛いでいってね。」 「いってね!」 ふわんと笑うその小さな顔に、キューピッドの矢が刺さってしまったリボーン。いえいえ、そんなものは刺さっていませんけどね。それくらいの衝撃が走ったようです。 家光を押し退けると、ツナの手を取り奈々に懇願します。 「息子さんを下さい。」 「あらあら…つっ君、どうしようかしらね?」 どうもこうもありませんよ、お母さん。にっこりと笑う奈々の代わりに押し退けられた家光がリボーンの手をツナから外すと割って入ります。 「ダメだ、ダメだ、ダメっ!つっ君は可愛いお嫁さんを貰って、ずーっとうちに居るんだからな!誰にもやらないんだ!」 お父さん、ちょっと論点がずれていますよ? その前にツナは男の子なんですけどね。 リボーンと家光の口論を、穏やかに見ていた奈々はツナにどうする?と訊ねました。 「んーと、あそぶ!」 まだ意味も分かりませんしね。 そうよねーと奈々も頷き、家光と言い争うリボーンに言います。 「ツナといっぱい遊んであげてくれる?」 「勿論だ。ツナが育つまでオレは待つから安心してくれ。」 おいでと手を広げるとツナはにっこりと笑ってリボーンに抱っこされました。 3歳と聞いていたより少し小さい男の子は、けれどもその小さい顔に似つかぬ大きい瞳と小ぶりな鼻、愛らしい唇をしています。 リボーンはツナに見詰められて益々動悸が激しくなりました。 抱っこされているツナと、しているリボーン。ほんわかした雰囲気に包まれています。 それを見て家光は青くなったのですが、奈々もツナも何だかリボーンの味方みたい。 楽しそうにしています。 「お父さんは認めないぞ!」 そうして、リボーンは家光の家へと居候することになりました。 日々ツナを可愛がるリボーンに、ツナの危機だと感じた家光が他の仲間を呼び出すのはまた別のお話。 . |