虹ツナ | ナノ

2.



男4人で映画館に行くという寒い行動の後に、仕方なく予約していたレストランをキャンセルして別の小洒落たカフェに足を運んだ。
映画を見て勉強になったと喜ぶツナさんの横で、大人気なく膨れている監督はどうやらツナさんが自分以外の監督の作品を見ることが許せないらしかった。

「お前さ、昔っから狭量だよね。」

「フン、あんな映画見る価値もねぇ。」

その一言にふと疑問が浮かんだ。

「ツナさんと監督はどういった知り合いなんですか?」

「将来を誓い合った仲だぞ。」

「違うっ!もう、変なこと言うなよ。…大学のサークルが一緒だったんだ。」

「「大学?」」

コロネロ先輩も知らなかったらしい。
声を揃えてしまったことに互いに怖気が立って腕をさすっていると、それに気付かないツナさんが重ねて教えてくれた。

「そう、大学。リボーンは現役で、オレは2浪してだけどね。」

知らなかった。どうして2つ年上のツナさんが監督と知り合いなのかとは思っていたのだが、そういった理由だったのか。
肩を竦めて苦笑いするツナさんに思わずポツリと呟いた。

「もっと知りたいです。ツナさんのことなら何でも。」

無意識に零れた本音にハッとして辺りを窺うと、おっかない顔をした有名人2人が店内の温度を2度ほど引き下げていた。

「あ、ありがと…なんか照れるね。」

ポッと頬を染めるツナさんに益々ブリザードは酷くなるが、めげるものか。諦められるならばとっくに諦めている。
机の下で足を思い切り踏まれながらも、ツナさんに笑い掛けるとトマトみたいに真っ赤に熟れたツナさんが視線を逸らした。

ひょっとして脈ありか?なんてことはこの状況ではありえないだろうが。







夕方までダーツをしては的にされそうになったり、ビリヤードのキューでわざと突かれたりと嫌がらせを受けながらも一日中ツナさんと一緒に過ごすことができて嬉しかった。
本当は邪魔者たちさえいなければ…と思いかけたがきっと結果はごめんなさいだろうし、これでよかったのだ。
そうに違いないと暗示をかけてツナさんたちと一緒に夜はどこで呑もうかと一息入れているところだった。

監督と先輩がどちらもツナさんと行きたかった店だからといって譲らず、目の前で激しい言い争いを繰り広げていた。
オレも参戦したいところだが、もうツナさんといられるだけでいいさと黙っていると、横のツナさんがテーブルの下からツンツンとシャツの裾を引っ張ってきた。
視線は2人に置きながらも、すすっと少しだけ近寄るとオレにだけ聞こえる声で話しかける。

「…せっかくの誕生日なのに、これはないよね?」

「いや、いいんですよ。」

オレも同じく視線は2人に預けたままでわずかにツナさんへと近寄った。

「2人で抜け出さない?」

「え、あの…」

突然のチャンスだというのにうまく言葉に出せない。まさかツナさん自らそう言い出すとは思わず、焦れば焦るほど言葉が頭の中を駆け巡っていく。

「…オレ、この先の本屋の横で待ってるから。」

にこっと笑う顔が少し強張って見えたのはどうしてだろうか。
そうこうしている間にツナさんはトイレ行ってくるねと2人に声を掛けてその場から立ち去っていった。

残されたオレは、巡ってきたチャンスにただ呆然とツナさんの居なくなった席を眺めていた。






ツナさんが消えたみたいですと2人に言うとすぐさまオレに伝票を押し付けて駈け出していった2人に思いっきり舌を出してから支払いを済ませて目的地に向かった。
ツナさんと2人きりなのだ、これくらいは痛くもない。

弾む足取りで本屋の横の植木に潜むツナさんを見つけた。
どうやら見つかりそうになったらしい。
引き攣った顔で手を挙げるツナさんの手を取ると、辺りを見回して物陰に隠れながらも駅の駐輪場に向かった。

「どうするの?」

「バイクが置いてあるんです。」

「ああ、成程。」

頷くとツナさんと2人、今朝乗ってきたバイクに跨った。
すると…

「てめー抜け駆けか?コラ!」

横から現れたコロネロ先輩に、ツナさんが驚いて背中にしがみついてきた。
死んでもいいと思ったが、それでもやっぱり今日ぐらいは邪魔されずに2人きりになりたかった。

「出ます!」

必死にしがみつくツナさんに声を掛けると、コロネロ先輩に掴まる前にバイクを発進させた。
普段ならばオレの前に出てでも止める先輩も、後ろにツナさんがいては手出しができないらしい。
それを幸いとスロットルを開けると勢いよく逃げ去った。





しばらく走ったところで、あまりに大人しくしがみついているツナさんにふと不安になった。
よもや失神してしまったのではと、バイクをコンビニに横付けする。

「ツナさん…?」

そっと声を掛けると被らせたヘルメットの中でくぐもった声が聞こえてきた。
スピードを出し過ぎて怖がらせてしまっただろうか。

バイクから降りたツナさんは意外にしっかりとした足取りで地面に足を付けるとフルフェイスヘルメットを脱いだ。

「プハッ!ヘルメットって意外と窮屈だね。その割に前が見辛いや。」

少し上気した頬にワクワクと書いてあるような笑顔でこちらを振り仰ぐ。
年齢は7つ上でもそうは見えない驚異の童顔を綻ばせ、両手を広げて深呼吸していた。
思ったより平気だったようで安心する。

ほっとしていると、ツナさんはそれに気付かずに小首を傾げて尋ねてきた。

「これからどうする?」

「そうですね…まだそんなに腹は空いていないでしょう?」

「うん。この後、スカルは用事ある?」

「ありません。どこでも付き合います。」

即答すると大きな瞳をパチパチさせてから迷う素振りで視線を横に向けて小さく呟いた。

「それじゃ、うちに来る?」


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