マーモンのお陰で助かったらしいオレは、とりあえず伸びてしまった大男を避けてボスと呼ばれる男の傍まで近寄った。 明かりの少ない部屋のせいでよく見えなかったが、顔にうっすらと傷跡が残っている上に眼光が鋭いせいで堅気に見えない。って、堅気じゃないか。 「はじめまして、沢田綱吉です。」 「ザンザスだ。」 そう言って手を伸ばしてきたザンザスに握手かと手を差し伸べると、何故か手首を掴まれて引っ張られた。 幾つ上なのか分からないがまだ10代だと思われるのにひどく腕力がある。 驚いている暇もなく抱え上げられて、膝の上に乗せられた。 「あ、あの…」 「平気だ、このままでいい。」 「イヤイヤイヤ!そうじゃなくて、どうしてオレが膝の上に座らなきゃいないんですか?!」 小さい子ならともかく、オレは中学生だ。膝の上に抱っこされて嬉しい年ではない。 だというのにザンザスさんはさも驚いたといった表情で訊ねる。 「嫌なのか。」 「そうじゃなくて…!」 噛み合わない会話に泣きが入ってきた。どうしよう。 するとそれを見ていたマーモンがやれやれと首を振ってザンザスさんからオレを引き剥がしたてくれた。 さっきまではエスパーなんて大嫌いって思っててごめん。 「…無自覚なのは大ボスと一緒か。」 「へ?」 ボソっと呟いた言葉の意味を掴みかねてマーモンを見るも、やはりフードに隠れた表情は窺えない。 すると後ろから唸るような声が掛かった。 「てめえ…綱吉を戻せ。」 「ムリ。だって…」 マーモンの声に被るように後ろの部屋から爆発したような爆ぜた音が聞こえ、それと同じくしてオレの意思とは関係なく身体がふわりと宙に浮いてドア近くまで押しやられた。 バン!と派手な音を立ててそのドアが破られると、煙りの奥から金髪にバンダナ姿のコロネロが転がり込んできた。 「無事か?!」 「無事に決まってるでしょ。はい、大事なもんなら目を離さないでよ。うちのボスが欲しがって困るんだ。」 「…」 思いっきり物扱いされた。 複雑な心境でマーモンを見ると、ふふふっと口許だけ綻んでいる。 ひょっとしてオレ遊ばれた? 「綱吉…」 眉間の皺は相変わらず怖いけど、ザンザスさんは怖い人じゃない。と思う。 だからコロネロに腕を引かれながらも顔だけ振り返ると笑顔で手を振った。 「明日会えるみたいなんで、また!」 すると何故かコロネロは慌ててオレを抱えて逃げ出し、マーモンはオレたちにバリアをかけると早く!と後ろから急かした。 「…何で?」 「何でもクソもあるか、コラ!」 だから意味分からないってば。 やっと元の場所に戻ることができたオレは、コロネロの腕から逃れて床に足をつけた。 マーモンといいコロネロといい、オレを物のようにほいほい担いだり、浮かせたりするのは止めて欲しい。 「そういえば、よくオレがあそこに居るって分かったね。」 「…ああ、マーモンから念波を送られたからな。」 ゲッソリと疲れた顔をしているコロネロに、ならばオレを担がなくてもよかったんじゃ…と声を掛けようとして止めた。なんか理由が違うと勘が告げたからだ。 だったら何だと思ったが、それよりもコロネロの格好が変わっていることに気付いてそちらに意識がいってしまう。 「そういえば、コロネロ洋服変えたんだ。っていうか、後ろに背負ってるのってホンモノ?!」 「ああ?これか?当たり前だろ、あんな物騒な場所に行くのに丸腰で行く訳がねーだろ。」 言って背中から取り上げたそれは、いわゆるライフルってヤツじゃないんだろうか。詳しくはしらないけど。 先ほどリボーンがオレに突きつけた銃よりゴツイ感じのそれはいかにも使いこまれていて、思わず怖さに後ずさりした。 「慣れてもらうぜ。じゃないとツナの命が危ねーからな!」 「でも…」 何だろう、この不快感は。 コロネロもラル・ミルチもリボーンもマーモンも。会った誰もがその筋の人だと分かるのに、やっぱり誰も傷付いて欲しくない。 「部屋の用意ができたらしいから行くぜコラ。」 「…うん。」 オレを気遣って大事にしてくれる彼らにどうすれば応えられるのか、ふとそんな考えが頭を過ぎった。 お祖父さんが用意してくれた部屋は、部屋というよりそれ自体がマンションのように何室も繋がっていた。 一番最初に通された部屋は居間のようで、革張りのむちゃんこ座り心地のいいソファとスツール、綺麗なガラステーブルのみの広さにまず驚いた。 実家の居間より広いのだ。驚かない方が難しい。 それからその奥にクローゼットらしき部屋、簡易キッチン、寝室、シャワールームと続いて、バルコニーに出ようとすると後ろからコロネロに止められた。 「止めとけ。」 「何で?」 肩で息を吐くと、手にした灰皿を投げ付けて教えてくれた。 ガラスが割れる!と慌てるオレを余所に灰皿は鈍い音を立ててそのまま床に転がった。 「割れない…」 「防弾ガラスだ。開くわけねーだろ。」 成る程。 そっと窓を覗き込むと分厚い窓ガラスは3重になっていて、外には小鳥一匹飛んでいやしない。 はぁとため息が出た。 「疲れたのか?」 「うーん、そうかな…」 夕食はお祖父さんと一緒に摂ると言われていて、まだ時間まで余裕があった。 手にしたジャケットをソファに放ると靴を脱いでベッドに転がった。 本当に2つ用意してあるベッドに諦めつつも、外に鋭い視線を送るコロネロの背中を眺めていた。 本当にイタリアにマフィアになりに来ちゃったんだ。 護衛は8人もいるみたいだし、寝ても起きてもコロネロが着いて歩くなんて勘弁して欲しいって思っていたけど。 「結構慣れたかも。」 コロネロの背中に安心できるようになってきていたオレは、そのまま浅い眠りに落ちていった。 . |