虹ツナ | ナノ

2.





初めて会った祖父は他人の気がまったくしなかった。
当たり前だというなかれ。
まるで自分が年を取ったらこうなるんじゃないのかなと思われるような姿形だったのだ。

その自称祖父を半ば呆然と見詰めていると、手招きされて前へと押し出された。
特別狭いと感じたことなどない自宅の居間が、何故かひどく窮屈に感じる。
理由は簡単、祖父と呼ばれた人物がテーブルの上に腰掛けて周りに人をはべらせているからだ。

「おいで、綱吉。」

「…」

先ほどの金髪碧眼男に引き摺られ、否応もなく祖父と対面させられた。
間近で見た顔は東洋人のオレとは程遠い金髪だというのに、濃い血の繋がりを感じずにはいられないほどよく似ていた。

「私はジョットという。会えて嬉しいぞ、綱吉。」

「は、はじめましてっ!」

両脇に居るのはボディガードだろうか。その内の右側のもの凄く人相の悪い男が祖父の言葉を無視しようとした途端、睨んできたのだ。
怖くて震える声に気がついた祖父が隣の男を横目で睨む。

「貴様、私の可愛い孫をいかがわしい目で見るな。後ろを向いていろ!」

どう考えても言い掛かりだと思うその言葉に、いつものことだという表情でため息を吐くとくるりと後ろを向いた。どうやら慣れっこらしい。

「えっと、ジョットさん?日本語が上手ですね。」

「ああ、綱吉と話がしたくて家光に習った。あと、私のことはジョットではなくおじいちゃんと呼べ。」

「や、あの…本当にお祖父さんなんですか?!」

そこが一番疑わしいところだった。
外国人が日本語を流暢に話せるのは珍しいことじゃない。でも、このどう見ても30歳そこそこにしか見えない人が父さんの父さん?!ありえないよ!

「本当におじいちゃんだ。おかしいか?」

「おかしいっていうか、ありえないっていうか…」

掛ける言葉すら失っていると、オレの後ろに控えていた男が説明してくれた。

「正真正銘お前の祖父だ、コラ。暗黒街の帝王はオレが生まれる20年以上前から君臨し続けていると聞いている。」

「あんこくがいのていおう??」

またも嫌〜な言葉がさらりと出てきた。
逃げ出したいのに逃げ出せないのは、後ろにも前にもそして横にまでオレたちを取り囲んでいる黒服の男たちがいるからだ。

貧相な想像力しか持ち合わせていないオレには、黒服といえば葬式の時かヤの字がつく職業の人たちしか思い浮かばない。
そしてそれは間違ってはいなかった。

「綱吉、私もそろそろ歳だ。だがお前の父は跡目を継ぐことを拒否している。故にお前がボンゴレを継ぐこととなった。」

「ぼんごれ?」

なんだそれは。ボンゴレビアンゴなら母さんの得意料理のひとつだ。
まったく意味が通じていないと気付いたのは後ろの男だけで、その男がまたもきちんと答えてくれた。

「マフィアだ、コラ。」

「まふぃあ…」

マフィアと聞いてもすぐにはピンとこなかった。
そもそも、オレは普通の中学生で、どこにでもいる日本人なのだから。
そんな物騒な人種とはお目にかかったことはないのだし…とそこまで考えてやっと言われている言葉の異常さが理解できた。

「ママママ、マフィアって…!あの、本当に、マジで?」

「ああ、本物だぞ。そして綱吉、お前がその跡継ぎだ。」

「イヤイヤイヤ!!それおかしいですから!オレは!日本のどこにでもいる中学生ですって!」

「気にするな、すぐに慣れる。さあいくぞ。コロネロ、綱吉を頼む。」

すくっとテーブルから立ち上がった祖父は、ピンストライプの小洒落たスーツがすごく様になっていた。細身なのにオレより15センチは大きい身長だが大柄という訳ではない中背で、けれどここにいるどの大男より尊大で威厳があった。
従えることに慣れた風格はマジもんだとオレにも分かるほどに。

凍り付いたように逃げ出せないオレを見て、コロネロと呼ばれた後ろの男はひょいとオレを肩に抱え上げた。いくら小柄な中学生とはいえ、160センチ近くあるオレを易々と抱える腕力には驚いた。

「お、お、お…オレ、どうなるの?!」

真横にある顔にそう尋ねると、少し間を置いてからはっきりと言い切られた。

「イタリアに渡る。二度と日本の土は踏めないと思え。」

「って、えええぇぇええ??!」

沢田家から綱吉の最後の悲鳴が響き渡った。





用意周到に張り巡らされていた罠に抗える術もなく、両親に恨み言一つも言う暇さえ与えられずに専用機でイタリアへと連れていかれた。
隣にはコロネロが監視しいて片時も離れやしない。

「…あの、トイレにまでついてこなくていいんだけど…」

そう抗議しても表情も変えずに後ろに張り付いている。
正直、気詰まりだった。

「そんなに張り付いていないと危ないの?」

「ああ。今は座席が隣だからいいが、本国に帰ったら寝床も一緒になるぜ。」

「寝床って…同じ布団で寝るっとこと?!」

「フトン?ベッドのことか?ならばそうだ。お前はマフィアの怖さも黒さも知らねーからな。」

またも怖いことをさらりと言われた。
じゃなく!

「ちょっ、それじゃオレのプライバシーがないだろ!」

「そんなもん、犬に食わしておけ、コラ。」

当然だと言わんばかりの返答に、さすがのオレもカチンときた。

「オレは普通の中学男子なの!その、普通に生理現象があるっていうか…とにかく困るよ!」

「生理現象?ああ、朝立ちのことか。それなら気にするな。お互い様だぜ。」

「ちっがーう!いや、違わないけど!でも、そこはお互い様とかじゃなくて一人にならなきゃできないだろ!?」

妙な具合に話が逸れた気がしたが、どうにもできなかった。
逃げ出したくても逃げ出せない状況と、息が詰まるほどの束縛に苛々が頂点に達していた。

そんなオレを見て何を思ったのか、やおら後ろから身体を抱き締めるとするりと大きな手がしまったばかりのズボンのジッパーを下げ、中心を掴み出した。

「ひっ…!」

体格は違うし、機内の狭いトイレでは逃げ出すことも出来ない。
突然の行為に身体を強張らせていると、首筋にねっとりと生暖かいなにかが触れ、ゾクゾクしてきた。でもそれは気持ちが悪いという訳ではなく、むしろ力が抜けていくほど気持ちがいいものだった。

初めて自分以外の手での刺激は想像以上によくて、首筋から耳元へと辿るそれがコロネロの唇だと分かると余計に熱が溜った。
耳を舌で嬲られ、強弱をつけて扱かれて呆気なく達した。

抱きかかえてくれたコロネロの手がなければ、その場にへたり込んでいただろう。
肩で息をすると、吐き出したそれを手近な手洗い場で流し、すぐに前を整えてくれた。
もう怒りとか、屈辱とかを飛び越えて、ただされるがままで身体を後ろに預ける。
それでも一言言ってやりたかった。

「これってどういうこと?」

「男が苛々すんのは溜ってる時だ、コラ。だから出させてやったぜ。」

「信じられない!イタリアではどうだか知らないけど、日本じゃこういうことは一人でするんだよ。それとも大人だから子供のオレに教えてやろってこと?」

強い調子で吐き出すと、黙り込んだコロネロはいいや…と小さく呟いた。

「オレはお前と一つ違いだぜ。そういう意味では子供だ。」

と。


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