人生というものはどう転がるか本当に分からない。 たかだか14年しか生きていない自分ですらそうなのだ。 きっと大人になればもっとすごい荒波が押し寄せてくることに違いない。 「って、その前にオレ成人できるの?!」 目の前を行き交う弾丸や手榴弾を前に、そう思った。 生死不明だった父親が帰ってきたのは、今から1カ月も前の話ではない。 母一人、子一人で慎ましく暮らしていた日常に乱入者が横やりを入れてきたのも、時を同じくしていた。 日本のどこにでもある一般家庭に黒塗りの高級車が何台も横付けされていれば、誰だって何事だと思うだろう。 勿論オレも目を疑った。 その日も、いつも通りのダメツナぶりを発揮してきたオレは一桁のテストをどうやって母親に見つからないように処理するかに頭を巡らせることに精一杯で、通り過ぎるご近所さんのヒソヒソ話などちっとも頭に入ってこなかったのだ。 道端のしみを数えながらの帰り道をひとりゆっくりと歩いていくと、自宅の前に大きな黒塗りの車が横付けされていることに気が付いた。 慌てて辺りを見渡せば、一台どころか数台もの車が自宅を取り囲むように置かれている。 やっとおかしいことに気付いたオレは、恐る恐る自宅へ足を向けた。 ちゃらんぽらんな父親が、どこかで借金でも作ってきてその取り立てがきたのかと思ったからだ。 抜き足、差し足、忍び足で辺りを窺いながら玄関扉に手をかける。 すると中から勢いよく外へと扉が開かれた。 「あら?つっ君、お帰りなさい。」 母親の奈々が呑気に声を掛けてきた。 洗濯ものでもとりよせにいくのだろう。 いつもと変わらぬ母の様子にほっと胸を撫で下ろすと、笑って車を指さして尋ねた。 「母さん、この車はご近所さんに来た車?」 「違うわよ。お父さんの親戚の方々なんですって。」 「へぇ…って、ホント?!」 「嘘吐いてどうするの。お父さんも帰ってきてるわよ。」 「…」 実に5年ぶりとなる父親との再会だが少しも嬉しくない。思春期だからというよりも、家に帰って来ない父親との距離の取り方が分からないから。 しかも親戚までいるときたもんだ。 挨拶をする気もなく、靴を脱いで鞄を抱えたままそそくさと自室がある2階に足を向けると居間から大柄な男が飛び出してきた。 「つっく〜ん!お帰りー!」 「なっ…ひぃぃい!ふぐう!」 カエルが押し潰されたような声は筋骨たくましい胸板に顔を押し付けられたからだ。 逃げ出そうとしたオレより、抱き締める父親の腕が早くて強かったがためにこんな状態に。 「久しぶりだなあ!大きくなって!ああ、やっぱり可愛いな!!」 「っ…!!!ぷはっ…。もう、やめてくれよ!オレは中学生なんだからな!」 どうにか隙間から顔だけ抜け出したオレは、ハイテンションな父親の言動にムカムカと腹が立ちそう文句をつけた。だというのに、馬の耳に念仏な父親は聞いちゃいなかった。 「こんなに可愛いのに!やっと一緒に暮らせると思っていたのになあ…」 「は?」 昔から意味不明なことばかりをオレに告げていた父親は、またも理解不能なことを言い始めた。 涙ながらに、といった様子の父親を見て何やら嫌な予感が過ぎる。 「なんのこと?」 打ちひしがれる父親の腕を叩いて緩んだ腕の隙間から顔を覗かせる。するとその後ろから一人の男が現れた。 見たこともない綺麗な金髪とマリンブルーの瞳に視線が釘付けになる。 背の高い男だった。少なくともオレより5つ6つは上だろうと思わせるのは、その切れそうな鋭い目付きのせいだろうか。 ぼんやりと眺めているとどう見ても外国産と思われる男が流暢な日本語で喋りだした。 「オイ、家光。そいつがお前の息子か?コラ。」 「ああ、これがオレの自慢の息子だ。どうだ、可愛いだろう!」 親バカ丸出しの言いっぷりに死にたくなるほど恥ずかしさが込み上げた。 こんな美形にどこにでもいる日本人顔のオレを自慢してバカじゃないのか。 顔も上げられず、下を向いているとマジマジとこちらを見ていた男がどうでもよさそうに呟いた。 「分からん。が、護衛対象を確認した。」 「ごえい?」 ごえいと聞いても頭に浮かぶのは五円玉だけだった。漢字に変換することができないオレの顔を見て、どうやら悟ったらしい男は呆れるでもなく丁寧に教えてくれた。 「護衛、付き添って守ることだ。つまりオレがお前…沢田綱吉を24時間、物理的に守ることになったんだ、コラ!」 ………。 視線を合わせたままたっぷり一分は無言で見つめあう。 それからやっと男の言葉の意味が脳に理解できる言語として到達したのだが。 「ええぇぇぇええ!!ちょっ、どういうこと?!なんで!」 嫌な予感はやっぱり当たるのだった。 タイトルをAコースさまよりお借りしています。 . |