意味の分からない昼休みが終わり、午後の授業も身が入らないで気が付けば放課後になっていた。 あいかわらず、山本も獄寺くんもコロネロも女の子たちに囲まれていたので声だけ掛けて先に帰らせて貰う。 今朝はあんなにドキドキしていた一日の始まりが、今はどうにもならない気持ちにどんよりと暗い。 重い足取りで帰る家路はなんて遠いんだろうか。 実際は近いけど。 ポケットに押し込めたココアは冷たくて、なんだか今の気持ちみたいだ。 あの女の子と付き合わないにしても、コロネロは女の子と付き合う方がやっぱり似合うと思う。 運動ダメ、勉強ダメ、顔も平凡な男より断然いい。 冷え切ったココアの栓を開け、口を付けながら歩く。 くどい甘さと舌に残る粉っぽさに眉を顰めていると何だか前が滲んできた。 袖で拭っているとポタリと零れたそれが缶の口に落ちる。 そんな気持ちごと飲み干してしまえと缶を煽った。 ちょっとだけしょっぱくなったそれに不味いと悪態を吐いていると、後ろから大声が綱吉の背中を叩く。 「ツナ!!」 「…コロネロ?」 びっくりして振り返るとコロネロが息も絶え絶えに駆けてきた。珍しい、というかそんなに焦った様子のコロネロを見るのは初めてだ。 泣いていたところを見られたくなくて下を向く。するとコロネロが横に並んで歩き出した。 何でここにコロネロがいるんだろう。 それよりも…とチラリと横のコロネロを見るがあれだけ貰ったチョコレートが影も形もなかった。 どこにやったのだろうか。 気になって、でも聞けなくて、黙って歩いているとコロネロが話しかけてきた。 「日本のバレンタインは煩ぇな、コラ。」 「…そっか、コロネロはイタリア人だもんな。こっちのバレンタインって特殊だって聞くけど、イタリアはどうなの?」 「むこうは男も女も関係ねぇな。大体、告白する日でもねーし、チョコレートだけしか贈れないっていうのもないぜ。」 「へー…そうなの?」 お国が違えば色々違うもんだ。 そう言いながらも、コロネロと一緒に歩いてもなんだか心ここに在らずで、適当に相槌を打つ。 「だから…ツナ!」 「ん?」 コロネロが勢いよくオレの腕を掴んで引き寄せる。でもオレは顔が見れない。掴まれた手元を見ると一輪の真っ赤な薔薇を握らされていた。 大輪の綺麗な薔薇はオレが持つには綺麗過ぎて似合わない。こういうのはやっぱり女の子が似合うと思う。 そう思ったらこの場から逃げ出したくなって、握られた手を無理矢理外すと駆け出した。 手にしていた缶も、薔薇も全部投げ捨てて、今までで一番必死に走って逃げた。 思うように動かない身体をこんなに疎ましく思ったことなんてない。 それでもあの角を曲がればやっと家に辿り着く。その寸前で後ろから腕を取られ引っ張られた。 後ろに思い切りよく引かれたので、肩にオレの鼻がぶつかって身体はバランスが取れずにグラリと傾いだ。 それも難なく受け止めて、コロネロがオレの顔を覗き込む。 「おまえ…」 「見んな…!」 息はうまく吸えないし、目から涙は零れてるしで見られたもんじゃないと思う。 掴まれた腕を振り解くと、顔を抱えて道路へしゃがみ込んだ。 「バカバカバカ!…あの子と、女の子と付き合えばいいだろ?!ほっとけよ!」 「…ツナ。」 色々とああでもないこうでもないと考えても、結局は先を越された焼きもちだったようだ。 しかも、八つ当たりして、思っているのと逆のことが口からついて出た。 しまったと思っても後の祭りで、情けなさや辛さにまた涙が零れてきた。 頭を抱えたまま泣いていると、髪の毛をちょっと荒っぽく撫でられた。 跳ね放題の髪の毛に引っ掛かって痛い。 恐る恐る顔を上げると、コロネロが嬉しそうに笑っていた。 「焼きもちか?」 「……」 バツの悪さに横を向く。 「オレが好きなのはツナだぜ!」 「…本当に?」 「本当に決まっんだろうが。そうじゃなきゃ、バレンタインに何贈ればいいかなんてイタリアに住む腐れ縁に国際電話かけっか。」 「かけたんだ?」 びっくりだ。そういうのにはとんと疎いとばかり思ってたから、気にしてないのかと思ってたのに。 「あのキザヤローのいうことなんざ聞かなきゃよかったぜ!」 「…ひょっとしてあの薔薇?」 横目でコロネロを見ると、顔が真っ赤に染まっていた。どうりであんなモノを寄越す訳だ。 でも国際電話で友達(?)に訊ねるほどには真剣に考えていてくれたのだと分かった。それなのにオレときたら… 「って、さっきの薔薇!」 慌てて拾いに行こうとすると、目の前にちょっと萎れてしまった薔薇が出てきた。ついでに缶も。 薔薇はコロネロの気持ちで、ココアはオレの気持ちだ。 ぶちまけてきたココアの代わりに、何をあげようか? 両方受け取ると、立ち上がってコロネロの手を取り家へ向かう。 「コロネロはもうオレのこと友達としか見てないのかと思ってた。」 「そんなわけあるかコラ。」 「…だって、山本や獄寺くんより接触が少ないんだよ?普通そう思うって。」 「言っとくが、あいつらのツナへの懐き方がおかしいんだぜ!」 「そうかなぁ…?」 コロネロが純情過ぎるんじゃないのかと思ったけど、まぁいいやと思うことにする。 繋いでいた手を外さずに、ツナの家へと辿り着いた。 . |