虹ツナ | ナノ

2.




どうにかこうにか長い賽銭箱への列に着き、年の最初っからお願いされてばかりの神様にちょっと気の毒だなと思いながらもしっかり自らもお願いして、コロネロと2人で来た道を帰っていく。

境内の脇では夜店が並び、歩いてきたことと寒さで空腹を訴える腹を満たしてやろうとキョロキョロしていた。

「そういえば、みんなとはぐれたままだね。こっちに来れば会えると思ったんだけど…」

「丁度いいぜ。」

「は?」

「いや、こっちの話だ。」

ここで会えなければもう今日は会えまい。
山本や獄寺くんあたりは必死で探していそうだけど、悲しいかなオレは携帯電話は持っていないので連絡の取りようもないのだ。
心の中でゴメン!と謝りながら、でも実はコロネロ君と2人きりっていうのも悪くないな…なんて思っていた。
ぶっきらぼうに見えて、意外ときちんとこちらを気にしてくれているコロネロ君は歩調をオレに合わせてくれているだけじゃなく、オレの話にも普通に答えている。
クラスの中心にいる時はいつも無表情だというのに、一対一で話せば割と普通だ。と、いうか笑顔がいい。

そこへ神社の人だろうおじさんが、紙コップをこちらに押し付けてきた。
一瞬、酔っ払いかと思ったのだが顔も赤くないし、酒臭くもない。
何だろう?

「参拝は終えたかい?よかったら松明にあたりながら甘酒でも飲んでいきなさい。」

手渡された紙コップには白いつぶつぶが見える。
ほこほこと湯気を立てている液体に、興味が湧いてちょっとだけ口に含んだ。

「…甘いけど酒臭い。」

「確かに甘ぇなコラ。」

それでもせっかく頂いたのだからと、コップを煽って飲み切る。
コロネロ君は眉間に皺を寄せて飲んでいた。

「これは何だ?」

「ん?甘酒っていう飲み物だよ。」

酒粕を溶かして作る飲み物だが、アルコール分はほとんど飛んでいて数%にも満たない筈だ。
なのに。

「…沢田、大丈夫か?」

「んー?平気、平気!!」

オレは空腹での飲酒はよく回ることを知らなかった。
知らなかったので一気に飲みきり、そして千鳥足になっていた。

「コロネロ君、腹減ってこない?あのたこ焼き食べよう!」

「ってコラ、あぶねぇ!」

階段があることに気付かず、そのままストンと落ちるところをコロネロ君に助けられた。
今日は助けられてばかりだ。
情けない。
何かコロネロ君の助けになることってないのかなと考えて、閃いた。
さすが酔っ払いと笑うことなかれ。

「そういえば、コロネロ君の好きな子って誰?」

「…いや、オレは…」

「ひょっとして京子ちゃん?いつも仲良くしゃべってるし。」

ちょっとどころか、かなり残念だけど、コロネロ君と京子ちゃんならお似合いだ。

「バッ…!違うぜ!オレが好きなのはお…」

「お?『お』から始まる名前の子って誰だっけ…」

「違う!いいからほっとけ、コラ!」

ぷいっと横を向いてしまったコロネロ君は真剣に怒ってしまったようだ。
しゅうん…と項垂れていると、また手を握られて今度はコロネロ君のポケットの中に入れられた。
ぎゅうと握り締められるとあったかい。それが怒ってないと言っているようで、言葉じゃなく態度で示すコロネロ君に心まであったかくなった。

参拝に向かう人、帰る人。いろんな人の波を2人で歩く。参道を照らす松明の灯りが冷えた空気を暖めてくれるようで、それに後押しされてコロネロ君へ呟いた。

「あのさ、今日助けられてばっかりだったけど、コロネロ君と仲良くなれたみたいで嬉しかったよ。でさ、ちょっとでもコロネロ君がよかったって笑ってくれるようにしたかったんだ。ごめんな、お節介だったよな。」

「…いや、オレも沢田と一緒に居られて楽しかったぜ。これからお前のことツナって呼んでもいいか?」

「うん!オレもコロネロって言ってもいい?」

「いいぜ、コラ!」

コロネロはその日一番の笑顔を見せてくれた。





手を握り合って、境内を抜ける頃にはすっかり人影もまばらになっていた。
こんな深夜じゃバスもないし、タクシーなんて呼べるほど金もない。
だから2人でゆっくりと歩いていく。

お土産と称して買い込んだたこ焼きとフランクフルトをつつきながら2人、近所の公園にまで辿り着いていた。
ハーと吐く息が白くて、その内雪でも降ってきそうだ。
途中で買ったホットレモンをコロネロに手渡すと口を付けることを躊躇っていた。

「酷いな…オレ風邪引いてないよ。」

「いや!ちちち違うぜ。…本当に飲んでもいいのか?」

「ふん?どうぞ?」

ジッと缶を見詰めると、やっと口を付けた。コロネロって意外と神経質なのかな?
人は見かけによらないものだ。

ブランコに腰掛けてギーコギーコと漕いでいると、やっと飲み終えたコロネロが同じようにブランコを漕ぎ出した。ひと漕ぎでオレと同じくらいまで高くなる。

「オレの好きなヤツは京子じゃねーぞ。」

「そっか…」

京子ちゃんじゃなくてほっとしたのが半分、寂しいのが半分。って寂しいって何だ。
自分で自分が分からなくなっていると、それに気付かずコロネロが喋る。

「運動音痴で頭もよくねーけど、間抜けなところが可愛いんだぜ。」

「ふ、ふ〜ん。」

「やっとしゃべれたんだ、コラ。」

「そりゃ、よかったね。」

言葉とは裏腹に何だか胸がモヤモヤしてきた。
誰だろ?うちのクラスで運痴でおバカで可愛い子なんていたっけ?
クラスの女子を思い浮かべていると、コロネロがブランコから飛び降りた。
さすが陸上部のエース。飛距離がすごい。
漕ぐことも忘れてコロネロを視線で追うと、コロネロがオレの前にきていきなりブランコを止めた。

「お前だ、ツナ。」

「………へぇ?」

今なんつった?オレが好きとか言ったか?いやいやいや!!あれだ、友達としてってヤツだ。うん、きっとそうだ。

「…お前、今全然違う方向に話をすり替えただろ?」

「ええぇ?!違うよ、ちゃんと友達としてって分かってるよ!」

「分かってねーじゃねぇか!」

ブランコの鎖を持つ手が、オレの頬に落ちてきてぐいっと力強く上を向かされる。
公園の電灯に照らされている金髪と、海みたいに真っ青な瞳とを持つコロネロの綺麗な顔が近付いてきた。
何だか分からないけど、怖くて咄嗟に目を瞑る。
ちゅっと音を立てて落とされた先は額の真ん中。
びっくりして目を開けると今度は唇に柔らかい感触が落ちてきた。

ぱちぱちと目を瞬かせ、呆然と遠ざかる顔を見詰める。
オレも顔が赤くなっていると思うけど、コロネロほどじゃないだろう。

「真っ赤だよ?」

「うううるせー!そういう意味で好きだって言ったんだ。分かったか?!」

「いっ!?う、うん…?」

分かったけど、分からない。だって今日初めてコロネロとしゃべったばかりだ。
コロネロの言う通り、運痴でバカで間抜けな男のどこがよかったんだろう?いつ好きになってくれたのかな?
色々聞きたいのにどもってしまって言葉にならない。

「とりあえず友達から?」

そこから始めればきっと、もっと好きになるような気がするけど。

「…とりあえず、だからなコラ。」

しぶしぶ了解してくれたコロネロに立たせて貰って、そのまま手を握り合う。
今年は去年よりずっと色々ありそうだけど、いい年になりそうな予感がした。

夜中の3時を越えて、雪までちらつきはじめた。
しんしんと積もる雪に急かされないように、ゆっくりと歩いていこう。








終わり

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