大晦日の夜は、何故か毎年とてつもなく寒い。今年は雪が降らなかっただけマシか。 それを増長するような、澄んだ鐘の音が神社の境内に響いている。 雑多な人垣の中で、押されながら前をゆく同級生のコートの裾を握って歩く。 今度こそはぐれないようにと気を付けながら。 ツナこと沢田綱吉は、大晦日である今日という日を指折り数えて楽しみにしていた。 中学2年生である彼と同じクラスの笹川京子がクラス主催の大晦日から元旦にかけて初詣をしに行こう!という中学生らしいのか、マセているのか分からないがそんな企画に参加すると聞いたからだ。 京子のことが好きかと訊ねられれば好きだと答えるだろう。けれども、淡い初恋というか憧れというか…とにかく並盛中のアイドルである彼女と少しでも一緒に過ごせたら嬉しいな、なんて思って参加することに決めた。 綱吉は出不精である。まして夜中に出歩くなんてもっての他。だというのに京子に会いたいがために参加したとのだが、今日は風邪気味だということで参加していない。 面倒になって帰ろうとしたのだが、親友の山本や何故か慕われてしまっている獄寺から一緒に参加しようと誘われて仕方なく参加することにした。すごくしぶしぶ。 嫌々参加したのが悪かったのだろう。しっかりみんなとはぐれてしまったのは今から15分前。 基本的に綱吉はドジでおっちょこちょいである。しかもすぐにみんなとはぐれる。 分かっていたので、すごく気を付けたというのにこの有様。 この一年の総括がこれですか、神様。 なんてやさぐれたくもなるのだが、そうも言っていられない。 そう、目の前にいるクラスメイトがはぐれたオレを見つけてくれた、まではよかったのだが。そのクラスメイトと共に今度は2人っきりではぐれてしまっていた。 「…あのさ、ごめんな。コロネロ君。」 先ほどから一言もしゃべらない金髪の留学生に声を掛けてみる。 話すのはこれが初めてだ。 今年の9月に留学してきたコロネロ君。イタリアからの留学生で運動神経は抜群、しかも頭までいい。これで顔が不細工なら可愛げもあるのに、見事なまでの金髪碧眼をひっさげた美形。 うらやましいことこの上ない。 綱吉とはまったく接点のない彼とどうやって会話していいのかさえ分からなかった。 20cm上からこちらを振り返る顔は、いつものように無表情だ。 「何でだ、コラ。」 「えっ…だって、初詣に来たのってお目当ての子がいるからじゃないの?」 美形の無表情ほど怖いものはない。思わずしどろもどろになってしまうのは仕方のないことだ。 それにそうでなければ、わざわざこんなクソ寒い夜に出歩くなんて酔狂はしないと思う。それとも留学生である彼は、日本の文化として興味があるのだろうか。 「てめーが…来……。」 人ごみに押され、思うように動けない綱吉はコロネロが呟いた言葉を拾おうと身体を寄せよう足を一歩大きく踏み出し、コロネロに詰め寄ろうとして…石につまずいた。 「うおっ…?!」 転がったら小柄な綱吉は後ろの人に踏まれるのは必至で、それをコロネロの大きな手が掬って立たせてくれた。 さすが外国人といったところか、同い年の14歳だというのにコロネロはもう少しで180cmを越えんばかりに育っている。そんな彼が止まっても、人垣はコロネロを避けて進むから必然的に助けられた綱吉はほっと息を吐いた。 「ありがとう。」 「気にすんな。」 言うと、コロネロが綱吉の手を握って歩き出す。 握られた手を見詰めて、ふと気が付いた。 「コロネロ君、手袋は?」 「そんなもんいらねーぜ。」 「や、寒いでしょ。」 もう片方はコートに突っ込んであるからよしとしても綱吉の手を握るために出している手は寒いだろう。 どうやら綱吉の歩調に合わせて歩いてくれているコロネロの横で、綱吉は握っていた手を解くと手袋を外してからもう一度手を繋ぐ。 「うわ、すごい冷たくなってるじゃん。オレのコートの方がポケット大きいからこっちでいいよな。」 そう言って握った手ごと綱吉のコートに押し込めた。 横を振り仰げば、コロネロの顔が心なしか赤くなっているような? 境内には松明と電球があるのだが煌々と照らすといった程明るいものではない。やっと顔が見られる程度だ。 まぁ気のせいだろうと結論付けて人波に逆らうことなく2人で神社の本堂へと向かっていく。 遠くからゴーンという鐘の音が聞こえてくる境内で、今度は一際大きな鐘の音が聞こえてきた。 ひょっとしてと綱吉が腕時計を覗き込めば、やはりデジタル時計は0時に。 「コロネロ君、今、新年になったよ!あけましておめでとう。今年もよろしくな!」 「ああ、今年こそよろしく。」 「ん?んん??」 ちょっと綱吉とニュアンスが違ったような気がしなくもないが、そんな些細なことなどどうでもいいかと綱吉は思った。 だってこちらを見詰めるコロネロの視線がすごく優しかったからだ。 そんな顔も出来るんだ…とぼぉっと眺めていると、ポケットの中の握られた手がなお強く握り込まれた。 ドキドキと煩い心臓は、滅多にしない夜の参拝のせいなのか。 . |