信号機で停車していると、突然目の前が暗くなりぬっとライダースーツの男がガラス越しに現れた。 驚いて振り仰ぐと今まで会いたいと思っていたスカルだった。 「スカル…?」 フルフェイスのヘルメットはスカルがいつも愛用しているそれで、バイクもいつも乗っている1000ccの大型バイクだ。 窓越しの上にヘルメットで表情も分からない筈なのに、スカルが何かに怒っているような気がした。 超直感を使うまでもなく分かってしまうようになったのだと気付かされる。 『今からボンゴレへ向かうところだったんだ。帰るのか?』 「う、ん…」 頷くとロックが掛かっている筈の車のドアを無理矢理こじ開けて車外に引き摺り出された。 「おい、まだ仕事が残ってるんだ。すぐに返せよ?」 「へ?って、ちょっ…、待って!」 オレを無視してスカルとリボーンとで会話を成立させると、スカルのバイクの後ろに乗せられた。 いくら軽いとはいえ成人男性。そう易々とは抱えられない筈なのに軽々と後ろに乗せられてリボーンの帽子を毟り取られて別のヘルメットを被せられた。 ずっと乗りたいと思っていたバイクの2人乗りなのに、嫌な予感がしてちっとも嬉しくない。 首を振って逃げようとすると、後ろも見ずに発進していった。 連れ攫われてやってきたところは例のアパートだった。 誰にも邪魔されない場所がこんなにも苦しいのだとは思わずに、はしゃいでいたあの日が懐かしい。 息苦しくなるほどの沈黙を保ったままで中へ入ると、ヘルメットを脱がずにこちらを振り返ったスカルがポツリと呟いた。 「…契約は履行なのか?」 ヘルメットを脱ごうとした手がその言葉に竦む。 そこでそうだと言えばそれまでの関係だと知っていた。 だから怖くて何も言えずにいれば、それを見ていたスカルがため息を吐いた。 「その調子だとリボーン先輩となんだな。」 「違う!オレは誰とも…!」 「ならさっきのあれは何だ?リボーン先輩の帽子を取り上げることも、それを被っていたことも見ていた。」 「そうじゃない…違うんだ…」 「先輩が帽子を取られても笑っているなんて初めてみた。ボンゴレだから…ツナだからだろう。」 「あれは!」 被っていたヘルメットをポンとひとつ叩かれると、スカルが横を通り過ぎていく。 止めようと手を伸ばしかけたが、呼び止める術がないことに気が付いた。 契約だけの恋人だった。自分が好きになってしまっただけだ。スカルは違う。 それならば、いっそここで契約を破棄してしまえば会う機会が減って互いのためになると知っていた。 バタンと玄関が閉じる音を背中で聞いて、そのまましゃがみこんで泣いた。 それから1時間後に迎えにきたリボーンに、ひとつ死ぬ気の炎を纏った拳をいれて。 「美人になったな、ツナ!」 太陽の光をそのまま背負ってきたようなディーノさんが、目元を緩めながら近付いてきた。 ボンゴレ主催のパーティは年に一度、ボンゴレの同盟ファミリーならびに表会社の社長などを招いて執り行われるのが常だった。 本物の王子様のように甘いマスクと優雅な物腰のディーノさんは、既に酔っているのか訳の分からないことを言い始める。 「勘弁して下さいよ。それ、誉め言葉じゃないですからね。」 「そうだぞ、夫に死なれたばかりの未亡人みたいだなんて失礼だな。」 「言ってねぇよ!ってか、何そのエロ雑誌みたいな設定!」 後ろに控えていたリボーンがチャチャ入れをしに隣にきた。 あれからまともに口も利いていない。 「喰うもんも喰わねぇ、寝てもいない…そんな生活してたらその内ぶっ倒れるぞ?」 「…」 ふいっと顔を横に向ける。するとそれを見ていたディーノさんが瞬きをしてマジマジオレの顔を眺める。 「そうか?確かに隈は出来てるけど、なんつーか色っぽいっつーか…好きなヤツでも出来たのかと思ったんだけどな…」 意外と鋭い。 バレたら堪らないと慌ててディーノさんからも顔を逸らすと、会場の一番端にありえない人影を見つけた。 「あ…」 「身体を壊されるよりマシだ。白黒ケジメをつけて来い。」 そう呟いたリボーンは苦虫を100匹くらい噛み潰したような顔をしながらオレの背中を押してくれた。 あれから半年が経ったというのに、全然忘れられなくて最近では寝ると夢にまで出てくるようになってしまって…夢でもいいと思っていたのに、目が覚める度に傍に居ないことに寂しくて辛くてどうにかなってしまいそうになっていた。 好きだとも言えなかったせいで、消化不良を起こした恋心はあれからずっと燻ったままだ。 一度でいい、きちんと話してケジメをつけなければどうにもならないくらいに膨らんでいた。 「…ありがと…」 「っ…!振られちまえ、ダメツナ!」 . |