虹ツナ | ナノ

7.



嗅ぎ慣れない匂いに違和感を覚えて目を覚ますと、見慣れない畳敷きの部屋に転がっていた。
薄っぺらい布団の上に寝ていたが、慣れない布団に身体が痛い。

ここはどこだろう。
辺りを窺いながら手を横に伸ばすと何か柔らかいものに触れる。
そっと横を窺えば安らかな寝息を立てて眠る自称オジサンが布団からはみ出していた。

障子越しの朝日が部屋を明るく照らし、その手元の人物の寝顔もあますことなく曝け出している。
触れていた、ふんわりと柔らかいミルクチョコレート色の髪の毛から意外にまばらな睫毛、どちらかといえば低い鼻、だらしなく半開きのふっくらとした唇まで追って慌てて手を離した。

起こす気はないが、視線を外すこともできなくてそのままぶかぶかのTシャツから覗く鎖骨まで視線を這わせ、引かれるように近付いていく。
もう少しで頬に手がかかる…ところで起こされた。

「…−、リボーン!朝だよ。」

カッと目を見開くと、夢よりも間近に迫った顔が真上からにっこりと笑っていた。

「おはよう、朝ごはん作ってくれるっていっただろ?」

「あぁ…」

期待に輝くその瞳にはオレというより朝食しか眼中にないらしい。
そういえば、昨日から部活が盆休みに入ったコロネロ、いつも邪魔ばかりしやがるパシリたちと共にツナの家に転がり込んでいたのだ。

オレの上から退くツナを未練がましく眺めていると、その視線に気付いたツナが複雑そうな顔でこちらを振り返った。

「あのさ、昨夜寝惚けてオレの布団に入ってきたの覚えてる?」

「…悪かったな。」

ツナは寝惚けて隣に転がり込んできたとしか思っていないようだ。ツナより低いこの身長が恨めしい。
他の2人が寝たことを確認してから夜這いにきたというのに。
口先だけで詫びると、それに気付いていないツナがとどめを差した。

「いいよ、いいよ。オレもあんまり大きくないし、お前も同じくらいだったからどうにか寝れたしね。」

「…」

どうしたらこの鈍チンに気付かせることができるのだろうか。






先ほどまで見ていた夢は、昨晩のリピートだった。
こっそり忍び込んだツナの横で、布団を捲り伸し掛かろうとした矢先の出来事だった。
視線の先のツナがムクリと肘をついて上半身だけ起き上がると、邪気のない笑顔で横に身体を滑らせて人一人分のスペースを空けるとポンポンと手でそこを叩いた。

「おいで。」

「…」

寝床を間違えた訳でもなければ、布団に用があった訳でもない。
強いて言うならその上に寝ている人物と布団の上で運動を勤しみたかったのだが、しっかり目を覚ましていた上に善意に満ちた申し出を断る理由もなく、現在に至った。





一枚しか敷いていない布団の上から起き上がると、その隣ではツナが箪笥から服を取り出して着替え始めていた。
じぃぃと見詰めているというのにまったく気にならないらしいツナは、ポイポイとぶかぶかのTシャツを脱ぎ捨ててそのままパジャマの下にまで手を掛けてスルリと落とした。

ここまであからさまに見ているというのにイイ根性だ。
胡坐をかい上から下まで眺めていると廊下が騒がしくなってきた。ツナがハーフパンツに手を掛けたところで邪魔が入る。

「てめー何抜け駆けしてんだ、コラ!」

「先輩に自重という文字はないんですか?!」

コロネロとスカルがパジャマ姿のまま飛び込んできた。
胡坐をかいたまま横目でヤツらを見れば、湯気が出そうなほど赤くなっていくコロネロと視線はそのままで固まったスカルが目に入った。

「あ、おはよう。今、起こしに行こうと思ってたんだけど早起きだね。」

トランクス一枚でくるりと振り返ったツナと向き合った途端、猫のように身軽に廊下に逃げ出した2人から声が掛かる。

「リボーン、てめーも出てこい!」

「厚顔だとは思っていましたが、よくその場に居られますね。」

「フン、この程度で怖気づいてちゃヤれねぇだろ。」

「…何を?」

扉越しに言い合っていた横で、パンツ一枚姿のツナが間に入ってきた。
目の毒だから早く着替えろと言い掛けて止めた。いいことを思いついたからだ。

手招きしてツナをおびき寄せると手を下に引いてオレの前にしゃがみ込ませる。驚いて顔をあげたところを噛み付く勢いで口付けた。

「〜っ?!」

ぽかんと開けたままだった口に舌を忍び込ませても反応が返ってこない。それをいいことに歯列を割って上顎を舐め取るとやっと慌てはじめた。だが遅い。
噛まないようにと気遣うツナを逆手に取って奥まで差し込むとむぐぅ!とくぐもった声が漏れ、身体が逃げを打つ。
それでも肘を掴んで逃がさずに深く重ね合わせるとカクンと力が抜けて前のめりになったところを支えてやった。

「あああ…あのな、」

「言っとくが挨拶でもねぇし、イタズラでもねぇぞ。」

ただでさえ大きな目が零れそうに見開いた。

「それ、それじゃあ…」

「昨夜もこういうことをしようとして夜這いに来たんだぞ。それを勘違いしたのはツナだ。」

「よ、よば…?!」

許容範囲を超えたのかフリーズしている。
それにしても目の前の惜しげもなく晒されている白い肌は中々触り心地がよさそうだと眺めていると、またも扉を蹴破ってコロネロとパシリが飛んできた。

「どうしたツナ!そいつになにかされたのか?」

「いいいいやっ!なにかって、なにさ?!」

「ツナさん声が裏返ってます。なにかあったってバレバレですよ。で、先輩なにしたんですか?」

バカでもないヤツらは、手近にあった布団をツナの肩に被せることに成功し、包んだツナをオレから遠ざけてオレを睨みつける。
それを鼻で笑うとありのままを話してやった。

「昨日は夜這いに来たっていう事実を身を持って知らしめてやったとこだぞ。」

「…どこまで。」

「大したことはしてねぇ。舌入れたぐらいだ。」

「充分だ、あんた本当に変態だな。…って、ツナさん?」

想像だけで赤くなっているコロネロに掴まれたまま、ぼんやりとしていたツナは何故か青い顔色でこちらを振り仰いだ。

「…あの、リボーンは本当にいい子だと思うんだけど、オレ淫行罪はごめんだし女の子しか分かんないから勘弁な?」

「…」

「…」

「…ツナ、一番肝心なところが間違ってるぞ。てめぇがヤる方じゃなく、ヤられる方だ。」

「へ?」

意味が分からなかったらしいツナはまたも惚けた顔でこちらを見いる。
やっぱりこいつの鈍さは突き抜けているらしい。
今夜もう一度夜這いに行くかと算段をつけていると、スカルが余計な入れ知恵を入れた。

「ツナさん、鍵の掛かる部屋に移動して下さい。」

「はあ?鍵の掛かる部屋っていっても…2階の物置になってる部屋しかないって。」

「ならそこを片付けてやるから今夜から移動しろ、コラ。」

「えぇ!めんど、」

「貞操は大切に!」

パシリにそこまで言われても、ピンときていない表情のツナだった。


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