丁度夏物のセールがはじまっていて、いつもより値段の張る服を半額で買えたお陰でいいものを安く購入できた。正直、服には興味がないオレには安物とこの手におさまっている服たちとの違いは分からないのだが、店員曰くへたなマヌカンより服選びが上手いとのことだった。 それにつけてもリボーンは中学生だというのに小洒落ている。 大人であるオレよりもよほど目が肥えていてこの色は手持ちのパンツに似合うだの、これは一枚持っておいて損はないだのと気が付けばリボーンにおまかせ状態で半日が過ぎていた。 「本当にありがとな!お礼に昼飯おごらせて。」 「いや、それはオレが…」 「まーまー!大したもん喰わしてやれないから…あそこのラーメン屋は?」 「だからオレのいきつけの店で、」 何かぶつぶつ呟いていたリボーンの腕を取って歩きだすと、ぴたりと口が塞がった。 どうかしたのかと横にある顔を覗くとリボーンもこちらを覗いていた。 ものすごく複雑そうな顔で。 「なに?」 「…いいや、何でもねぇぞ。」 牛乳と小魚がなんたらとか言っていたが、意味不明だったので無視してそのままラーメン屋に向かった。 少し遅い昼食を摂った後に、今度は携帯電話を持てとしつこく言われてしぶしぶ見に行くことにした。 家電でもなんら不自由はないと言っているのに今どきの年寄りも持っているのだと昏々と諭されてのことだった。 メールも面倒だし、かかってくる相手も…いない訳ではないのだが、携帯電話を持ったと知られるとしつこくかけてくる友人や電話に出てもずっと無言なのでいやらがせ電話かと番号を確認すると従兄だったりと、とにかく持っている方が面倒なだけなのだが、それをリボーンに言う訳にもいかないので素直にショップに足を運ぶ。 「てめぇのこった、メールは面倒だから返さねぇだろ。しかも、携帯電話を携帯し忘れるんじゃねぇのか。」 「…」 ついでに言うと電源を入れ忘れたり、充電し忘れたりもしょっちゅうだったが呆れられそうなので黙っていた。 バツ悪くよそを見ていると、ほれと一台の携帯電話を手渡される。 「うわ…派手な黄色だね。」 「そんくらい派手なら忘れないだろ。機能もそこそこだし、一番安いプランでいいんじゃねぇか?」 「うーん、めんど…」 「持ってろ。」 そうして半ば強引にそれを押し付けられて持たされる羽目になった。 だってこいつ譲らないんだよ。 どうしてオレの周りってこんなヤツばかりなんだろう。 その場で携帯電話の契約をさせられて、気が付けば太陽がかなり下にまで傾いていた。 持たされた携帯の一番にリボーンの携帯電話の番号を入れられていつでもいいから電話をしてもいいぞと言われたのには笑った。 「言う相手を間違えてるよ。そういうのは好きな子にいいなよ。」 「好きだぞ。」 「はははっ、ありがと!でも意味が違うよ。可愛い…いや、綺麗な女の子は周りにいないの?」 「…スルーされた。」 「へー…リボーンいい子、じゃないいい男なのにね。その内気付いてくれるよ、きっと。」 「まずは身長を追い越す。」 「ふん?年上?」 「ああ、かなりな。」 「いいねえ、オレも中学の頃には先生のこと好きになったよ。」 初恋は同級生の女の子だったけど、2度目の恋は女教師だった。だからといってなにをしたということもなかったのだけれど。 まだわずかにオレより低い目線が睨むようにこちらを見ている。 「なに?」 「…ツナはいねぇのか?」 聞き辛そうに問われ、ギクリと肩が竦んだ。この流れだとそう聞かれることは分かり切ってきたのにと苦笑いを浮かべると、横にある顔が苦しそうに歪んだ。 「やっぱ、いるのか?」 「…お星さまになっちゃった。」 「は?」 「まーいいだろ、おっさんの恋バナなんかさ。そろそろ帰らないとご両親が心配するよ?」 まだ人に語れるだけの過去にはなっていなかったのだと再認識して、でもそれを子供に悟られる訳にはいかなくて無理矢理笑うと少し早目に歩を進める。 敏い子だから何かに気が付いたらしいリボーンは、それから何も言わずにオレの半歩後を黙ってついてくる。 オレンジの夕焼けが青空と紫色の雲を引き連れてゆっくりと地平線の彼方に落ちていった。 リボーンと黙ったきり帰り道を歩いていくと、行く手から見覚えのある顔がこちらに向かって駆けてくる。 その切羽詰まった様子に嫌な具合に胸が跳ねて、手の平がじっとりと湿った。 「ツナ!おばあちゃんがっ!」 長い影が足元に落ちていった。 . |