虹ツナ | ナノ

2.



通学路に駄菓子屋があったと思い出したのは、横暴な同級生2人組に棒アイスを買ってこいと脅されて昼休みにコンビニのハシゴをしている最中だった。

本当に横暴でろくでなしな同級生たちで、どうしても安っぽい2つに分かれるソーダ味の棒アイスがいいのだと言い張った結果だった。
ガリガ〇君やホーム〇ンバーではダメだとしつこく念を押され、買ってこなかったらどんな目に合うのかを知っていたオレは必死になってそれを探していたのだ。

3件回ったコンビニにも見当たらず、途方に暮れている時にふとそういえば近所に駄菓子屋があったと気が付いた。
あるとは限らないが、ないとも限らないことに賭けて小学生の頃には足繁く通っていたそこに辿り着いた。

相も変わらずさびれている店へと足を踏み入れると、昔懐かしい匂いがした。
小学生の頃を思い出している暇などない。早くしなければ授業が始まってしまうからだ。
急いでアイスのある冷凍庫を覗き込むとやっとお目当ての棒アイスを見つけることができた。

駆け回ったせいで汗だくになった自分の分も合わせて掴み、いる筈の老婆の姿を探して奥へと踏み込んだ。

「すみません!!急ぎなんで、早くお願いします!」

「…ふぁ〜い!ごめん、ごめん!おまたせ。」

そこに現れたのは以前の老婆ではなく、どう見ても自分よりは年上だがせいぜい大学生くらいにしか見えない男がいかにも昼ごはんを食べていたといわんばかりに頬に米粒を貼り付けながら現れた。

「んーと、150円ね。保冷剤付けてあげるよ。」

ビニールにアイス3つと保冷剤を2つ入れてくれたその男は、にこりと笑うとスカルにもう1つ保冷剤を手渡した。

「熱かったんだね、それはおまけ。また買いに来てね。」

手の平に広がった冷たさよりも、目の前の笑顔に釘付けになっていた。








「へー…昨日会った子たちが噂の同級生なのにスカルに先輩って呼ばしてる2人組だったんだ……」

駄菓子屋遭遇事件の翌日。
授業が終わるといの一番にツナさんの元へと駆けつけたオレは、昨日の2人組の説明をしていた。
あんなヤツらと同類だと思われたくないからだ。

「…最低最悪な2人組です。要領もいいし、運動神経も頭もいいから大人受けするんですが性根は最悪ですから近寄るのはよくないです。」

「すごい嫌いようだね…でもさ、リボーンは昨日が初対面だから分かんないけど、コロネロはスカルより前から知ってるよ?いまどき珍しい硬派な子だよね。」

のほほんと呟かれた言葉に思わず膝を詰めて問いただす。

「はぁ?コロネロ先輩のこと知ってたんですか?!」

「うん。今年の2月にばーちゃんのこの店を任されるようになってから最初のお客さんだったよ。」

にこっと笑われた顔を見てショックを隠しきれない。
今は7月だ。そしてオレがツナさんと知り合ったのは4月。コロネロ先輩はその前からだったなんて信じたくもなかった。

「コロネロは運動部の助っ人やってるんだろ?だからいつも部活帰りに寄ってくれる常連さんだよ。」

「…」

嫌な予感はしていたのだ。
目立つ容姿に運動神経のいいコロネロ先輩が、何故か恋に一途な乙女のごとくことごとく女子を振りまくっていたということが。

リボーン先輩とは真逆で遊びという概念がないコロネロ先輩とはいえその振り方は竹を割るようにきっぱりはっきりと断るのだと噂になっていた。
誰か好きな人でもいるのではないのか…と。

それがまさかこうなっていようとは。
いや、まだそうだとは限らない。
昨日はツナさんの前で鉢合わせしたことに動揺して周りが見えなかったから勘違いしただけだ。
そうに決まっている。

いつものように座椅子に腰掛けて時代劇を見ているツナさんの横顔を見て、やっと落ち着きを取り戻したオレは上がり込んだ先のちゃぶ台の上の冷茶をゴクリと飲み干した。

「…なんでてめぇがそこに上がり込んでやがる?」

真後ろからの声に飲んだ筈のお茶が逆流しそうになった。
嫌な声に恐る恐る後ろを振り返ると、やはり悪魔な先輩の一人が腕を組んで仁王立ちしていた。

「あんたこそ、なんで今日も来るんですか!」

「フン、オレ様をてめぇのような常識知らずと一緒にすんな。昨日借りたタオルの代わりとその礼をしに来たんだぞ。」

「そんなキャラじゃないでしょう!?」

「…死んどくか?」

「あれ?リボーンくん??」

熱中していた時代劇観賞が終わり、オレと先輩の遣り取りにやっと気付いたツナさんは大きな瞳を益々大きくしてパチパチを瞬きをしている。
13歳になるオレたちより15年上とは到底思えない可愛らしい表情と小首を傾げる仕草に、謀らずもオレと先輩が揃って身悶えた。

「萌え殺す気か?!」

「仕方ないんです、これが素なんですよ。」

「恐ろしい…」

「はぁ??何のこと?」

抱えていた座布団を手放すとよいしょと声を掛けてリボーン先輩に向き直る。
梅雨明け間近なせいで蒸し暑い店内には、けれどエアコンすらない。あるのは一台の扇風機だけ。
その扇風機がブーンと音を立てて首を振り、くたくたのツナさんのTシャツの裾をはためかせていた。

扇風機の風がツナさんに当たるたびにちらりと脇腹が見える。
日に焼けていない白い肌が目に焼き付いて、バツが悪くなり顔を背けるとリボーン先輩も同じくこちらに顔を向けた。

「あんたにも一応純情とか恥じらいってもんがあったんですね。」

「うるせぇ!」

顔を赤くして睨まれても怖くもなんともない。だからといってこの後どうなるのかは不明なのだが。
オレも人のことを笑えないほど顔が赤くなっている自覚はあった。
リボーン先輩と2人で必死に目を逸らしていると、勘違いしたツナさんはテレビの電源を止めて四つん這いでリボーン先輩に近寄っていく。

「ごめんな、時代劇嫌いだったんだろ?」

「ちが…お前、その格好で近寄るな。胸が見えるぞ!」

「へ…?」

慌ててリボーン先輩に近寄るツナさんの腕を掴むが、その瞬間扇風機の風がぶわりとツナさんに吹いて裾が全開になった。
つまりは胸までTシャツが捲れ上がった。

「ッツ…!」

「ブッ!」

この時ばかりは嫌いな先輩とシンクロしたとだけ言っておこう。
その場に居られなくなったオレと先輩は逃げ出す羽目になった。

「ツナ!明日Tシャツを持ってくるから、それまでは上着を着とけ!!」

「はぁ?なんで?!」

「お願いします、ツナさん!」

「って、ちょっと!もう帰っちゃうの?」

一目散に逃げ出したオレと先輩は、店先で自転車から降りようとしていたコロネロ先輩の腕を掴むとその場を後にした。
コロネロ先輩を排除できたのは、誉められるべきことだと思う。本当によかった。



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