虹ツナ | ナノ

3.



六道骸といえばマフィア界ではかなりの有名人だ。
孤児だった彼が育ったというファミリーをたった3人で皆殺しにし、今も潜伏を続けながらマフィアの黒い魔手から逃れ生き延びている。しかして彼の本当の姿を見たものは居ない。この世には。
見たものはすべて殺され、彼の足取りすら掴めていない状態だ。

そんな彼、六道骸がなぜか今大変困ったことになっていた。
六道はイタリア最大のファミリーであるボンゴレの次期後継者候補たちをこの目で確かめんと四方に散らばる候補者たちの足取りを追っていた。
その一人であり、つい最近候補者になったばかりの少年を観察しに来たというのに…

「骸さん…いいからうちにおいでよ。」

「しかしですね…」

「大丈夫だよ!リボーンも怒らない…と思う。多分…」

珍しくヘマを踏んだ六道は、相手がリボーンであったために致し方ないと思っていた。命があっただけでも儲けものだろう。
それなのに、なぜ観察相手の綱吉にこうして懐かれてしまったのか…六道にはさっぱり分からなかった。


ボンゴレボス10代目候補の沢田綱吉は、護衛としてなのかマフィア界の恐怖のヒットマンリボーンの養子になった。そんな噂がマフィア界に流れていた。
確かにそれは一番の牽制になる。あのリボーン相手に挑もうというバカはそう多くはない。
マフィア界の至宝と言われるアルコバレーノの一角、リボーン。
請け負った仕事の完遂率は100%、誰もその姿は掴めず、誰にも心を許さないと言われたあのヒットマンが手を取った…と噂が噂を呼んでいた。
それを確かめるべく遥々日本にまで飛んできたのだが…







六道骸は大のマフィア嫌いだ。嫌いというより憎しみを持って嫌悪している。孤児だった六道を人体実験のモルモットとしたマフィア。誰も信用できず、心許せる友もいない、楽しみはなく、ただ怪物になることを強要された。どうしてマフィアを愛せるだろうか。
だから生きるために殺した。
殺されないために殺したのだ。たった10歳の幼い子供が。

仲間は3人。自分と犬と柿本とクローム。
誰にも必要とされない、哀れな子供がそのまま大きくなって力を付けた。
マフィア殲滅を掲げて。






学校帰りの綱吉が通学路として通る花屋の店員になり、最初は水を掛けるというアクシデントを装って近付いた。少しづつ距離を縮めてった。

どこにでもいる普通の少年。それが綱吉の第一印象だった。
水を掛けられてびっくりしている顔は目ばかり大きくて、栄養が足りていないのではと思われるような痩せっぽっちの身体だ。
すみません…と謝ると、その大きな瞳をぱりくり瞬かせ、ミルクチョコレート色の髪の毛をぶんと横に振った。
タオルで拭いてやっても警戒心の欠片もなく、他人事ながら心配になった。

いや、心配をするような間柄ではなかった筈なのに。それに気付いたのは知り合って一ヶ月が経った昨日だ。
イタリアへ帰ると言わない六道に、犬と柿本がどうしたんですか?と訊ねてきてやっと自分が何をしにここにきたのかを思い出した。
それくらい、綱吉との間に絆のようなものが芽生え始めていた。

彼はマフィアのドンとなるべくあのリボーンに育てられている、悪の権化だ。そう言い聞かせ、いつものように学校帰りの綱吉をおびき寄せ、いざ綱吉の深層心理を掌握しようとしたところでライフルで両手を撃ち抜かれ正に手が出せなくなった。
狙撃されないようにと高い建物がない公園の、これまた見通しのいい場所にある滑り台へと誘い、言葉巧みに頭を撫でていざ!ということろだった。
大体、一歩間違えば綱吉にまで被弾してしまう。なんて容赦のないヒットマンなんだ!



そんな訳で、六道は今両手に穴が開いた状態だった。普通の人間ならば出血多量でショック死だろうが、六道にとっては古巣であったファミリーの人体実験によって改造された肉体のためにすぐに出血は止められた。ただし傷の回復には常人と同じだけかかる。
見た目にはすぐに出血が止まるので不死身だと噂されているのだが、そうではなかった。
だから何も知らないだろう綱吉に、大丈夫だからと声を掛け逃げようとすると腕を掴まれた。

「大丈夫じゃないでしょ?骸さんは僕たちと同じ、傷が出来たら治るのに時間が掛かるし…辛いことがあったら誰かに頼っていいんだよ。」

ガキの綺麗事が…と鼻で笑おうとして動きが止まる。
手を掴んでいた小さな手の平が離れ、そっと六道の頬を撫でた。
暖かい…と思ったのは何年振りだろう。

色が違う左右の瞳をミルクチョコレート色の瞳が覗き込んでくる。
負けずに六道も覗き返すのに、綱吉には欲というものが見当たらなかった。
勿論、表層心理の物欲は幼子らしくある。
でもそれ以上の他者を陥れてまで伸し上がろうとか、自分が一番になってやろうという欲がなかった。
マフィアに染まっていないという事実だけが目の前にあった。

慌ててもう一度探すと、今度は瞳を合わせてにっこりと微笑まれる。
どこにでもいる子供のようで、どこにもいない子供だった。
ありのままの六道を気味悪がらずに受け入れてくれる。そんなことなどないと思っていたのに。

「負けました…」

この目の前の無垢なる子供には敵わないらしい。親子揃って無敵とは、末恐ろしい。だがこれ以上手を出す気にはなれなかった。
がっくりと項垂れると、また手を握られて立たされる。

「うちにおいでよ!ほら、リボーンも向かえにきてくれたし!」

「そうですか?それじゃあお邪魔しましょうか…あなたが僕を必要としてくれる限りはいつまでも。」

「じゃあずっと?」

「クフフ…それもいいですね。あのアルコバレーノの嫌がる顔が見物だ。」

そう言って2人で振り返ると苦虫を噛み潰した表情でリボーンが駆けてきていた。
しっかりと握られた手と手を凝視して。

「クハッ!いい表情です!これはいい…しばらくご厄介になりましょう。我がプリンセス。」

「てめぇ、何うちのツナの手ぇ握っていやがる!」

マフィア界きっての伊達男とも名高いリボーンが、綱吉相手だと面白いほど表情が出る。どうやら彼も自分と同じ穴の狢らしい。親子?とんでもない。その表情は親子のそれとは質が違う。
それを分かって、わざと見せ付けるように六道は綱吉の手を取ると膝をつきその甲へとキスをした。

「…プリン…?」

「プリンセス、つまりお姫様です。」

「僕、男だけど。」

「っ!いい加減にしやがれ!」

怒鳴るマフィア界の至宝を物ともせず、あくまで優雅な物腰の殺戮者はその後も影ながら綱吉の手足となって働くこととなった。

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