虹ツナ | ナノ

2.



「はぁ?リボーンさんが休みだと。ふざけんな!熱が40℃以上あっても必ず仕留めてくるリボーンさんがいねぇ訳がねぇ…!よく探してこいっ!」

怒鳴る度にさらりと揺れる銀髪の男は、ブラックスーツを一分の隙もなく着こなして部下へと再度指示を出していた。そこへ銀髪の男、名を獄寺という…のボスであるティモッティオこと9代目ボンゴレファミリーのボスが手招きした。すぐに9代目の傍まで駆け寄る。

「言ってなかったな、隼人。…今日からしばらくリボーンは休暇に入ると連絡がきたよ。」

「…休暇、ですか?」

珍しい…と言うより異例だ。
仕事の鬼というか、仕事が糧とでもいうように9代目からの仕事をこなしていたというのに。
何かよくないことでも、と眉間の皺を増やしていると9代目はふっと表情を和らげて獄寺へ内緒にするんだよ、と呟いた。

「家光の息子を引き取ったらしくてね…今までのように遠くへ行く仕事は断りたいのだそうだ。困ったものだよ。」

そう言う9代目の顔は少しも困っているようには見えなかった。
むしろ喜ばしいことだと思っているのがありありと見える表情だ。
しかし、それに驚いたのは獄寺だ。それには理由がある。

「門外顧問に子供がいたんですか?」

「ああ、だから誰にも言うんじゃないよ。分かったね?」

内心の驚愕を押さえ込み、言葉には出さずに目礼だけして9代目の前から退いた。

これは由々しき問題だ。
門外顧問とはいえ、ファミリーの創始者である初代の末裔である沢田家光に子供がいたなんて。9代目は子宝に恵まれず、養子を迎えている。だが色々と問題を抱える彼がファミリーを纏めていけるのかいまだ疑問視する声が多い。そんな時に火種となりそうな子供など…

眉間の皺を深くして、獄寺は自らの仕事に戻っていきながら、とある場所へとつなぎをつけていた。






そんな経緯があってから、数日後。
獄寺は情報屋から仕入れたリボーンへ繋がる連絡先へとひとり足を運んでいた。

誰かに見られてはリボーンも危ういが、ファミリーに無益な諍いの火種を起こすこととなりかねないからだ。
とにかく、一度でいいから門外顧問の息子に会ってみたかった。

長い足を止めることなく信号も無視して歩き出すと、突然と後ろからジャケットの裾を握られた。
気配を感じさせずに自分の傍まで近寄ってきた存在に、警戒と敵意をむき出しにして後ろを振り返る。…だが誰もいない。
何だ?と下を覗くと小学生だろうランドセルを背負った子供が、獄寺のジャケットを握り締めていた。

「んだぁ?ガキが、手を離しやがれ!」

いつもの啖呵を切る獄寺に、臆することなく見詰め返す強い視線。茶色い跳ね捲くりの髪が横に振られることで益々ふあふあと散らばっていった。

「おじさん、それ以上進むとあぶないよ。」

「っ!誰がおじさんだ!!…ガキがいっちょまえに」

易々と後ろを取られた腹いせに怒鳴りつけていると、キキーッ!というブレーキ音と共にワゴン車が交差点を突っ切って正面衝突を起こしていた。
あのまま進んでいれば、間違いなく巻き込まれていただろう。
呆然とその惨事を眺めていると、子供は握っていた手を外して立ち去っていく。
結局、その軽やかな足取りに声を掛けることなく見送ることとなった。



指定された喫茶店へと足を運ぶと、店内にはリボーンがすでに座っていた。
いつものブラックスーツにボルサリーノではなく、一般人のような出で立ちで一瞬誰だったか分からなくなったが、あれはリボーンだ。
獄寺の到着はとっくに知れていたらしいリボーンは、目配せをして後ろの席に着くようにと指示を出す。
大人しく背中合わせで席に着くと、コーヒーを頼み唇を動かすことなく後ろのリボーンと会話をする。

「休暇中にすみません。」

「いや、大体の事情は9代目から聞いた。ツナに会いたいんだろう…?」

ツナ、それが門外顧問の息子の名前か。
新聞に視線を落とす振りをしながらも、眉間の皺が深くなっていく。
そもそも、どうしてリボーンが門外顧問の息子を養子にして育てているのか。それには何か意味があるのではないのか。
ひょっとして次期10代目候補なのか?と獄寺は勘繰っていた。
それもお見通しの筈のリボーンは、何も言わずただ普通の青年のように振舞っている。
その様子からは養子にした子供を待っているといったところか。

入店を知らせるメロディが流れ、そちらに何気なく視線をやると先ほどのガキがキョロキョロと誰かを探していた。
ふと、こちらに視線をやると目を瞠り勢いよく駆けてきた。
やはりどこかのファミリーの差し金だったのかと立ち上がって声を発しようとすると…

「ただいま!リボーン…!」

獄寺を素通りしてリボーンへとぎゅっとしがみ付いた。それに応え、痩せっぽっちのガキをランドセルごと抱き締めるリボーン。

「お帰り。えらいぞ、よくここまで一人で来れたな。」

「うん!途中でおじさんを助けてきたから遅くなっちゃった!」

「てめぇ…誰がおじさんだっ!オレはまだ25だ!!」

思わずがなると、ようやく先ほど助けた人物だと気付いたツナがあっ!と声を上げた。
それを見て、リボーンはやれやれとツナ少年の頭をぐりぐりしている。

「誰彼構わず助けるんじゃねぇっつてんだろ?…お前のそれは普通のヤツには怪しまれる。」

「…うん。ごめんなさい。」

「しょーがねぇ…そのおじさんに挨拶しろ。」

「おじさん…」

リボーンにまでおじさん呼ばわりされた獄寺はなんとも情けない顔でツナ少年とリボーンへ向かい合う。

「えっと、沢田綱吉です。」

ペコリと頭を下げると茶色の髪がふわんと揺れる。
それにぼうっとしていると、リボーンが蹴りを入れてきた。

「てめぇも挨拶しろ。」

「は…!すんません。獄寺隼人です…ってリボーンさん、このガキはその…本当に門外顧問の…?」

下げた頭を戻せば、ひどく印象的なミルクチョコレート色の瞳が獄寺を映していた。
門外顧問の面差しがまったくといっていいほど見当たらない。
焦って訊ねるとまたもリボーンに蹴られた。今度は脛を一撃だった。
身悶えてしゃがむ獄寺に、綱吉はあぶないからこっちにおいでと袖を引っ張ってきた。
よく分からないながらも先ほどのことを思い出して従うと、獄寺が居た場所に弾が撃ち込まれそれを貫通したガラスが一斉に割れていった。

「ちっ…獄寺、てめぇ何つけられてんだ!」

「そんな筈は…」

「リボーン、今撃ってる方向とは逆の位置にもう一人いるよ。そっちがあぶないの持ってる。」

獄寺を叱責していたリボーンに、綱吉が小声で狙撃していない人物の位置まで知らせる。

「ツナ、そのおじさんとちょっと待ってろよ?…いいか、獄寺。ツナに傷一つ負わせやがったら地獄の果てまで追い詰めてこの鉛玉撃ち込んでやるぞ?」

「この命に代えてでもお守りしますっ!!」

何気なく出た言葉を一生大事にすることになるとは獄寺隼人25歳はまだ、知らない。


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