不本意ながらリボーンの活躍の場を見損ねた了平が、入ってきたばかりの室内を見渡すと覚えのある顔を見付けて大声を上げた。 「師匠!」 「ああ?!なんだ、どうしてここにお前がいるんだ?コラ!」 互いに驚いた様子で顔を見合わせているコロネロと了平を、リボーンに抱え上げられた綱吉が気付いて声を掛ける。 「あ!そうか、コロネロさんは京子先生のお兄さんの師匠なんだ?!どうりで知ってるような気がすると思った。」 コロネロとは初めて会った筈なのに、不思議とそんな気がしないと思っていたらしい綱吉がそう口に出す。 それに驚いたのは綱吉を取り囲んでいた面々だ。 リボーンに鼻先で綱吉を奪われた骸が面白くなさそうに眉を顰めて訊ねる。 「綱吉くん…君、彼のことを知っていたのですか?」 すると綱吉はふわふわの髪の毛を横に振った。 「え?知らないよ。初めて会った人だよ。でも、コロネロさんを見たときにどうしてか京子先生のお兄さんの顔が浮かんだから知り合いなのかなって思ったんだ。」 何事もなかったようにそう言ってのけた綱吉を、大人たちは複雑な表情で見詰めた。そんな事情を知らないのは了平と綱吉だけで、了平は素直に感心している。 「お前、先を読む目があるんだな!いいぞ!オレと一緒にボクシングの世界一を目指そう!」 「「「「断る!!」」」 何故か四方から即答が返されて了平が驚いていれば、リボーンの腕の中にいた綱吉もへにょりと眉を寄せるとごめんなさいと頭を下げて了平を落胆させたのだった。 綱吉の目に優しくないものを骸とクロームは適度に覆い隠しつつリボーンたちはその場を後にした。 途中で雲雀とばったり出くわしたが、了平のお陰で興が逸れたらしく大人しく帰っていった。無論、倉庫でおねんねしている者たちを全員しょっぴかせてではあるが。 雲雀にも苦手がいたのかと少しだけ見えた人間らしさに驚いたというよりは、弱点を見付けたとほくそ笑む面々を尻目に、リボーンの活躍を見損ねた了平が不満をぶつけている。 「オレは極限見たかったぞ!」 「うるせー!芝生頭!10代目がご無事だったんだ。それで充分なんだよ!」 来たときの車では全員が入らないということで2台に別れて座っている。コロネロはツナと一緒に後ろの車にいる。何に興味を惹かれたのか、ツナがコロネロの手を離さなかったからだ。 いつもならば割って入るリボーンが、今日は何故か大人しく分かれてこちらに座っていた。 「なら、オレと闘ってみるか?」 それまで黙っていたリボーンが了平にそう声を掛ける。 「なに?!いいのか?」 興奮気味にリボーンへと身を乗り出した了平の横で、獄寺は眉間に皺を寄せて2人を見詰めた。 まるで何かを確かめるためにここに乗ったようなリボーンの行動が解せない。了平というどこからどう見てもただのボクシング馬鹿と手合わせしてどうなるというのか。 どだい一般人の了平がこの歴戦の暗殺者に敵う訳がない。やる前から分かりきったことを何故するのか、獄寺にはさっぱり分からなかった。 リボーンの指示で車は川縁を沿うように走り抜けていく。その先にある並盛山の中腹へとハンドルを切った車は、リボーンと了平、獄寺を乗せていくと、これ以上車で進めない場所まで辿り着いた。 「ここから少し離れるぞ。帰りの車をやっちまったら困るからな」 「了解した!」 意気揚々とリボーンの言葉に従う了平と、それを面白そうに相手をしているリボーンに違和感を覚える。 リボーンは面倒見のいいタイプとは程遠い性格で、基本的には一人でなんでもこなしてしまうから、他人を見下している部分があった。そもそもオレたちの誰一人正式に認められてはいない。 それが今はどうだ。これが10代目のことならば理解できると考えて、ああと獄寺は思いついた。 なるほど、そういうことか。 2人に付き合って車を出た獄寺は、先頭を歩くリボーンの背中に向かって声を掛ける。 「リボーンさん、オレはこんなヤツを入れるなんて認められません!」 綱吉の保護者であるリボーンに楯突く気などなかったが、ことが10代目の今後のこととなれば話は別だ。 「てめぇにそれを言う資格はまだねえぞ。」 こちらを振り返ることなく言い切られた台詞に、獄寺はぐっと口を閉ざして肩を怒らせた。 「お、オレは…!」 「選ぶのはあいつだ。オレが口出し出来ることじゃねぇ」 もっともな言葉に顔を俯けた獄寺の前で了平が拳を振り上げる。 「何をゴチャゴチャ言っている!オレと勝負が先だ!」 その言葉にリボーンが頷いて、獄寺は舌打ちをすると目的の場所に辿り着いた。 その頃、リボーンたちのことなど知らない綱吉は、コロネロ、山本、骸、クロームと一緒に乗り合わせて家まで向かっている最中だった。 「コロネロさんって了平お兄さんの師匠なの?年はコロネロさんの方が若く見えるんだけど」 そう、リボーンと同じく外見だけなら20そこそこに見えた。なのに何故自分より年上の了平を教えているのか分からない。 「ああ、聞いてねーのか?」 驚いたように綱吉に視線を向けたコロネロは、けれど首を振ると答えを濁した。 「そいつはオレたちの秘密と関係があるんだ。だから言うことはできねーぜ、コラ!」 一人がバレれば全員の秘密が曝される。マフィア界で一目置かれる存在であるアルコバレーノの謎。 リボーンが綱吉にさえ言えないように、コロネロもまた口をつぐんだ。 これ以上追求してもムダだと悟った綱吉は、ふと何かに気付いて顔を窓の外へと向ける。 「…リボーン?」 「綱吉くん、どうしたました?」 どうしようかと迷う素振りで見詰めていた瞳に骸が声を掛けると、すぐに首を振って向き直った。 「大丈夫みたい。」 何でもないと笑った綱吉に、思い当たったコロネロがため息を吐いた。 「リボーンの野郎か?」 「うん、ごめんなさい。」 2人だけで成立している会話についていけない山本と骸が割って入る。 「何、何?何の話してんだ?」 「そこの金髪、綱吉くんから離れなさい!」 いくら広い車内とはいえ、体格のいい男が3人がかりで子どもを取り囲む姿にクロームは眉を寄せた。 「ボス、こっちに来る?」 優に一人分は空いている席を叩いて言えば、綱吉はパッと顔を明るくしてそこから抜け出しクロームの横に滑り込んだ。 「うん!っていうか、ボスってなに?」 「だな!ツナとクロームは何ごっこしてるんだ?」 言われ慣れない言葉に疑問符をつけた綱吉と、唯一の一般人である山本がクロームの台詞を問い返す。 それに口を開きかけたクロームに目配せをして黙らせると、骸はちらりとコロネロの横顔を視界に入れた。 「君も彼に呼ばれてでここまで来たのですか?」 パシリが、とでもいいた気な骸の表情にコロネロが青筋を立てる。 「ああ!?あいつに呼ばれたのは本当だが目的は知らねーぜ、コラ!」 何故か一触即発の雰囲気にまで発展したコロネロと骸を放置して綱吉は遠い空を見上げた。 何かが変わる。 お父さんが死んでしまったあの時のように。 自分に流れる奇妙な感覚が教えてくれる。 それでもリボーンは自分の味方で居続けてくれるのだろうか。と… 2012.04.05 |