スカルが意識を取り戻した頃には、部屋の中はすっかり暗くなっていて勿論人気など皆無だった。 リボーンの的確な蹴りで意識を失っていたスカルは痛みを訴えるそこかしこを伸ばそうとして自分の身体が動かないことにすぐさま気付いた。 「ここまでするか…いや、先輩なら当然か」 床に転がされた状態で後ろ手に手足を縛り上げられている。しかも適当にではない。きちんと手首も足首も固定されているのだ。 本当に何でも出来る男だと半ば感心しつつも、スカルはスルスルとその縄から間接を外して逃れていった。 やんちゃが過ぎたスカルは顔に似合わず打たれ強い。そしてそんなスカルだからこそしっかりとこめかみを狙い、そして縛り上げていったのだろうがそれでもまだスカルのキャパシティの範囲内だった。 ズキズキと痛むこめかみは一撃必中だったことを物語っている。 歯を食いしばってどうにか縄から逃れると、手足の間接を元に戻してからどうにか立ち上がった。 辺りを見渡して時計を探せば約束の時間は間近で、身体の痛みよりそちらが大事だと慌てる。 そうしてスカルは急ぎ足で駐輪場へと駆け出した。 ところ変わって沢田家では。 約束の時間になった時計を前に綱吉がソワソワと玄関ばかりを気にして歩き回っていた。 そんな息子の分かりやすい態度に母である奈々はクスクスと小さく笑みを零す。 恵方巻きを食べる風習もなかったが、奈々はイベントが大好きでその度にきちんとパーティーの用意をしてくれる。 けれどそこは綱吉の母。そうだったわ、と何事かを突然思い出した奈々はこちらを振り返りもしない息子に声を掛けようと手を伸ばした。 「ツナ、あのね…」 そう漏らしたその時、沢田家のチャイムが一際大きく鳴り響いた。 奈々の言葉を聞きもせず、慌てた様子でキッチンから飛び出した綱吉はきっかり20秒後に絶叫を上げる。 母の突っ掛けに足を入れ、チャイムに応えるべく鍵を外して玄関扉を押し開けるとそこにいたのは待ち人ではなくて。 「ふぎゃぁぁああ!」 「逢いたかったぞ、ツナ!」 遠い親戚であるリボーンの熱烈な抱擁に悲鳴を上げる少年を見ながら、その後ろに荷物持ち兼ヒーロー役としてついてきたコロネロは今にも絞め殺されてしまいそうな少年を救うべく目の前の肩に手を掛けた。 「おい、荷物持ってんだぞ。いい加減にしとけ、コラ!」 「チッ、野暮天が」 エグエグと恐怖に涙を流しながら、それでもやっと開放された綱吉はコロネロの顔を見るなりパァ!と顔を輝かせた。 「お兄さん、コロネロさんでしょう?毎週観てるよ!やっぱり格好いいなぁ…!」 「なっ?!どうしてそいつは格好よくてオレは怖いんだ?」 「だって…リボーンは、元が怖いから」 元の性格を知っているから言える言葉である。もっともだとコロネロは頷いた。 コロネロと握手をしようと手を伸ばしていたと綱吉を、後ろから羽交い絞めにして自由を奪い慌てた様子でコロネロから引き剥がす。 あまりの狭量っぷりに、やっと合点がいったコロネロは先ほどの表情とリボーンを前にした綱吉を比べて白皙の頬をわずかに染めた。 「あらあら…今日はリボーンくんにスカルくんだけじゃなく、コロネロくんまで来てくれたのね。ふふっ、後で一緒に写真撮ってもいいかしら?」 玄関先の騒ぎを聞きつけた奈々は、少しも動じずにそうコロネロに笑い掛ける。 綱吉そっくりな顔の女性に微笑みかけられて、元来の不器用な性格ゆえに頭を下げて挨拶をしようと玄関の上がり口に足を踏み入れたその時。 「鬼はー外ーっ!」 バチバチバチ!!と後頭部から背中を襲う小さい粒にコロネロの顔色が変わる。 ついで、綱吉を抱えているリボーンの背中と後頭部にもそれは降り注いだ。 「鬼はー外ーっっ!!」 「あ、スカルさん?!」 背後から聞こえた声とバイクの音にリボーンの腕から逃れた綱吉が門の向こうへと顔を向ける。 するとそこにはバイクに跨り、ライフルみたいなものを手にしたスカルがその銃身をリボーンへと向けていた。 「あぁ?いい度胸じゃねぇか」 顔に堪忍袋の緒が切れたと書いてあるリボーンとコロネロは、もの凄い形相でスカルに駆け寄る。 しかしそこはスカル。すかさずライフルを背負うとバイクを噴かして逃げ出した。 「「待ちやがれ!!」」 怒りに声を揃えたことにも気付かず、懲りるということを知らないスカルが来ることを知り尽くしているコロネロとリボーンは第二ラウンドを待つべくそこに仁王立ちしていた。 「今どきの豆まきっておもしろいのねぇ!」 「そうなんだ!」 世間ズレした親子2人は、豆まきの余興として受け取ったらしかったとか。 その後、スカルが恵方巻きを食べられたかどうか誰も知らない。 終わり |