虹ツナ | ナノ

1.



小学生男児の頃といえば、やはり外せないのはヒーロー物だ。
しかし学年が上がるに従って仲間内でもその話は大っぴらには出来なくなるのも事実で。
何故かといえばヒーロー物=子供っぽいということらしい。低学年までは瞳を輝かせて買い揃えていたグッズも、翌年にはヒーロー交代とともに話題に上らなくなっていくというのが自然だった。

けれど綱吉は毎週日曜の朝を楽しみにしていた。
小学5年生だというのにである。
少々…いや、かなりオツムの足りない綱吉ではあったが、それでも人前でそれを楽しみにしているなんて言える筈もなくひっそりとであったが。
理由はといえば結構ミーハーというか、分かりやすい。
そんな綱吉が小学校からの帰り道を一人でとぼとぼ俯きながら歩いていると、少し大きな交差点で信号待ちをしているバイクに跨った男の背中を見つけた。

「スカルさんッ!」

「ん?あぁ、綱吉か」

傷だらけのランドセルをガタガタと音を立てながらライダースーツにフルフェイスのヘルメット姿の男の元へと駆けて行く。
上気した頬にきらきらと輝く瞳は憧れの人に逢えた悦びに満ちていて、それを見つけたスカルと呼ばれた男はヘルメットの奥の瞳を柔らかいものへと変えていた。

「今からお仕事?」

「いや、ちょっとパシ…違う!用事だ。夕方には帰ってくる」

「そうなんだ。それじゃ、夕飯一緒に食べようね」

にっこりと綱吉に微笑まれ、ヘルメットの中の頬を赤く染めたスカルは誰にもこの顔を見られていないことにホッと胸を撫で下ろした。
人気ヒーロー俳優がショタコン疑惑だなんて、週刊誌がこぞって書きたてるだろう。
危ない、危ないと辺りに視線を走らせてから咳払いをして気持ちを落ち着けると、節分パーティーを楽しみにしていると綱吉に伝えてバイクを走らせて行った。
それを見送った綱吉は大好きなヒーローに逢えたことに顔を緩ませながらその背中に手を振り続けた。



スカルは今期の仮面なんたらシリーズのヒーローの一人を演じる青年だ。
爽やかさが売りだったり、少し影のある男がいたりする中では異色のV系ヒーローなのだが、意外や主婦に女子高生にと大人気になり注目されている若手俳優の一人だった。
それだけではなく、アクションもカースタントまで自らこなす器用さから今後の活躍も期待されている。
そんなスカルには怖い怖い先輩が2人いた。
俳優にとって先輩俳優というのは怖い存在ではあるが、そういった類の怖さではないことを理解してくれる人はいない。

今日も今日とて、愛しの綱吉に見送られて辿り着いた先は件の怖い先輩の住まう高級マンションの駐輪場で。
そして嫌がる足をしぶしぶ動かして向かったエレベータの扉の前には、もう一人の金髪の鬼が…いや先輩が降りてこないエレベーターに痺れを切らして階段に向かおうとするところだった。

「…先輩、こんなところに何の用なんだ。あんたもリボーン先輩に呼び出されたのか?」

長年の哀しい習性で見かけたら呼びかけることを叩き込まれているスカルはそうコロネロに声を掛けた。
すると金髪に長身の男が振り返る。
金髪どころか紫色の髪ですら珍しくもない世の中だが、コロネロのそれは欧州人らしい本物のブロンドに、青い碧い瞳を持っている。
お世辞にもフレンドリーとは言い難い眼光は今日もスカルに呼び止められたせいで一段と鋭いものへと変えていた。

「なんだ、パシリかコラ!どうしてオレがあいつに呼びつけられないといけねーんだ!オレはたまたま暇だったからトレーニングの途中に寄っただけだぜ」

「…そうですか」

あんた何時間トレーニングをしているんだと言い掛けて、返って来る答えなど決まっていたと気付いたスカルはすぐに口を閉ざした。
休みの日は一日中。それは嘘でも方便でもなく、真実一日中なのだ。
巻き込まれたら堪らないと視線を逸らすと、丁度いいタイミングで降りてきたエレベーターに乗り込んだスカルは同じく乗り込んできたコロネロに内心で悪態を吐きつつも顔を必死に逸らしていた。

「そういや今日は『セツブン』とかいう日だったか、コラ!」

「そうだ…が、」

決まっている。この日をどれだけ楽しみにしていたと思っているんだと口に出しかけて、もっと切実で切迫したものだったと思い出した。

「悪いがオレがいたことは他言無用で頼む!」

掴まったら最後だとコロネロに拝みこんでいたスカルだったが、勿論神様はスカルに微笑んではくれなかったのだ。

目的の階に着いたことを知らせるブザー音の後に、即座に下へ向かうボタンを押したスカルの前には黒い悪魔ことリボーンが扉の向こうでニヤリと笑っていたのだった。


2011.02.02




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