虹ツナ | ナノ

7.



昨今では警察の取り締まりが厳しいせいか、日中にこれほどの規模の暴走行為を繰り広げているところなど見たこともない。
しかし、そのバイクの先頭に立つのがあの雲雀なのだから一般市民は勿論、警察すら顔を伏せている有様だ。
情けない!弛んどる!

「先輩、声漏れてますって。」

中高と一学年下ながらも同じ学び舎で過ごしてきた山本は、俺と雲雀の因縁浅からぬ関係を知ってそう声を掛けてくる。
眉間に皺を寄せて、妙に広い車内の後部座席に居心地の悪い思いで尻をもぞもぞさせていれば、助手席の男が後ろを振り向いた。

「煩えな、てめぇの知り合いぐらい大人しくさせとけ。」

そうがなる男をよく見れば日本人というには彫りの深い顔をしている。染めたというにはムラのない銀の髪を見詰めながら、ついつい口が滑った。

「見事に毛先が跳ねてるな…フム、タコのような頭だ。」

「なにぃ!一々癇に障る野郎だぜ!!」

見た目より随分血の気が多いらしい男は身を乗り出して俺の胸倉を掴もうとする。その伸びてきた手を振り払い、タコヘッドと俺が互いの距離を測っていれば、山本はいつもの呑気な調子で割り込んできた。

「まあまあ!先輩も獄寺も落ち着けって!もうすく目的地なんだろ?」

「…ああ。目の前の煩えバイクさえいなけりゃ、もっとスピード出せるってのに邪魔な奴らだ。」

「いやー…雲雀がいるからここまで出せるんじゃね?」

このクラスの車にしてはガタガタとひどく突き上げると思っていたら、どうやらスピードメーター付近まで出していたらしい。
覗き込んだメーターの値に唸り声を上げると、興が削がれたのかタコヘッドは助手席へと身体を戻した。

「リボーンさんが先に向かってるから心配ねえと思うが…」

「誰だ、それは?」

声を顰め、眉間に皺を寄せたのタコヘッドの表情はどう見ても一般人のそれには見えない。よもやヤの付く職業なのではないかと思い至ったが、今はそれどころではないことぐらい分かる。
しかし雲雀を差し置いてまで信頼されているらしい『リボーン』なる人物が気になった。

「ツナの親代わりっすよ。あの雲雀をあしらえるような男みたいっすよ。」

「それは…本当ならすごいな。」

世界チャンプにまでのぼりつめた俺が、最後まで勝てなかった男が雲雀だった。師匠という自分より大きな目標が出来はしたが、それでもやはり信じられない。
もしそれが本当ならば、師匠レベルの男が日本に存在するということだ。
俄然、興味とやる気が湧き上がる。
手を伸ばし、運転手に顔を近付けると腕を振り回し大声を張り上げた。

「早くしんか!終わってしまうではないか!」

「煩えんだよ、この芝生頭っ!大人しく座ってやがれ!」

「誰が芝生だ!このタコヘッド!」

「てめえのことだ!この芝生頭!」

「まあまあまあ。」

またも取り成すように割って入った山本を尻目に、興奮に血が沸き腕を宙に振りかざす。ガチャンと何を壊したようだが構うものか。

「極限!会うのが楽しみだっ!!」

すっかりツナ少年の安否など忘れていた。









ところ変わって並盛の倉庫が立ち並ぶ港。大きくもない港のせいかさほどたくさんもないその倉庫のひとつに潜む影が2つ。
頭頂部に房のような髪を立てすらりとした長身を完全に闇へと同化させている男と、同じく房のような髪を持つ小柄な少女が、気配を殺したまま薄暗い倉庫の奥を眺めていた。
遠くからバイクの爆音が聞こえてくる。しかし、それがこちらに向かってくる気配は今のところ皆無だった。

「クフフフフ…計画通りです。あのやかましい連中に取り囲まれでもしたら、綱吉くんの安否が知れないじゃないですか。」

「骸さま、ずるいです。」

「ずるくて結構。お前を日本に呼び寄せていた甲斐がありました。こうして一足先に綱吉くんの元へと辿りつけたのも、クロームの尾行あってのこと。クフフフフ…クハ!」

「あ、声が大きすぎて気付かれたみたい…」

悦に入った笑い声を上げた骸の声を聞きつけた見張りが、倉庫の奥からライフルを持って建物の外へと飛び出してくる。

「しょうがありませんね。」

いかにも渋々といった調子で、手にした三叉槍を一振りして骸は歩き出し、それに倣うようにクロームも後ろについていく。
ライフルでさえ恐怖ではないといった足取りの2人は勿論すぐに飛び出してきた見張りに見つかった。

「何モンだ?!」

「手を上げろ!!」

照準を骸とクロームに合わせる男たちに気にした様子もなく脇を通り抜けようと出入り口へと近付いていく。
それに慌てたのは見張りの男たちだ。
物慣れない様子でライフルを乱射する男を、嘲笑うかのように骸はギリギリで交わしていく。それに余計血がのぼった男が血眼になって弾丸のシャワーを浴びせかけるも、骸が三叉槍をくるりと一回し地面にそれを突き立てた途端、地面からマグマが湧き上がった。

「うわぁぁあ!!」

「助けてくれ!」

突然の出来事に錯乱状態になる見張り2人は骸の行く手を阻むことも出来ないままライフルを棄てて逃げ惑う。
それを一瞥すると、クロームは幻覚に囚われた男たちに背を向けて奥へと歩いていく骸の背中を追いかけていった。





気配を完全に絶つことが出来る者などいくらこの世界とはいえ、どれぐらいいるのだろうか。
骸の手足として働くようになったクロームではあるが、最初に出逢った骸があまりにすごかったせいか、それを意識するようになったのはごく最近だった。
イタリアから日本へと渡ったきりなしのつぶての骸から、日本に来るようにと連絡があったのは1ヶ月も前ではない。
綱吉という少年を常に見張りなさい。そう告げられて気配を消しながら逐一骸へと報告をしていたクロームは、一つの気配が完全に見つからないことに気付いた。

綱吉の保護者にして骸の一番忌むべき存在の権化でもある男は気配が『ない』のだ。綱吉が傍にいる時だけ現れる気配に気付いた瞬間、クロームは生まれてはじめて恐怖した。
骸でさえ、動揺していたり気を抜いていたりすれば探ることは可能だ。
けれどその男はその手がかりですら漏らすことはない。
つまり自分がつけていることを知って気配を消しているならば、それは相手が自分より上であるという証拠でもある。
クロームが綱吉に危害を加える者ではないと分かっているから泳がせているだけに過ぎないのではないか。
つまりは…
何かに気付いたクロームが前を歩く骸に声を掛けようと手を伸ばした先で、暗い倉庫の積荷がドカンと爆ぜた。

「なっ、どういうことです!僕たちより先に誰がここに辿り着いたというのか…」

綱吉に褒められたい一心での抜け駆け行為を、邪魔されたのではと血相を変えて音のした方向へと骸は走り出す。
それに続くようにクロームも地面を蹴り上げた。


まだつづくよ。




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