自分だって男なのだから、可愛い女の子や綺麗な女性に想いを寄せられることを嬉しいと思っていた。 目の前の長いが手入れの行き届いた髪が風に靡いている。 しかしオレの返事を待って俯く小さい肩をじっと見詰めているオレは無情にも鬱陶しいとさえ感じていた。 理由なんて一つしかない。 「今日はどんな子だったの?」 興味津々といった顔で後ろにあるオレの席を振り返って身を乗り出すツナにガックリと肩が落ちた。 昨日の今日でこれだ。 昼休みに呼び出される=告白という分かりやすい法則が成り立っているのもよろしくない。 動揺なんて微塵も感じないツナの表情にため息を吐くとツナの隣からもため息が漏れていた。 同じ洗礼をコロネロ先輩も受けたらしい。 「何だよ、どうしたんだよ2人とも。」 先輩2人を出し抜いて一歩先んじたと思っていたのにこれだ。 一晩経ったら忘れましたと云わんばかりのツナの態度にため息を吐き出していたオレとコロネロ先輩は頭を振って机に顔を埋めた。 「調子悪いのかよ?」 大丈夫?と小首を傾げて覗き込む顔すら可愛いと思う自分はお終いかもしれない。自分と同じ性別の男をこんな風に思うなんて。 報われなさに嫌気でも差せばいいのに、そんなことで諦められるぐらいなら男なんか好きになるかとつい自分にツッコミを入れてしまって余計に落ち込んだ。 「ツナは好きなヤツ以外から告られたらどう思う?」 「え…、」 言われて初めて気付いたのか、覗き込んでいた顔を上げてパチパチと瞬きを繰り返す。そんなツナの表情を頬を机に押し付けながら見上げた。 「えっと、困るかな。」 「だろう?」 眉根を寄せて考え込んだツナにそう返せば、何を思い付いたのか今度はオレの顔に顔を寄せてコソっと耳打ちしてきた。 「ってことは、スカル好きな子いるんだ?」 「…」 さも今知りましたといった表情で大きな瞳をなお大きく見開いて湧き上がる興味を押さえ切れないといった様子のツナに顔が引き攣る。 嫌いじゃない、なんて言葉では鈍いツナに気付いて貰えないことなど当の昔に分かっていて、だから好きだと何度も伝えているのにこれだ。 まあ昨日のコロネロ先輩ほど悲惨でもないからマシかと思いかけてイヤイヤイヤ!とまたも自分にツッコミを入れて訊ね返す。 「本当に分からないのか?」 「あっ、それってオレも知ってる子ってこと?!」 誰だろうと辺りを見回すツナの背後から足音も立てずに黒い人影が現れた。暗殺者にでもなれそうなぐらい見事な気配の消しっぷりだ。 ツナに声を掛けてやろうとすれば、黒い悪魔は片眉だけピクリと跳ねさせてオレを黙らせるとツナの顎を掬い取る。 「何の話だ?」 「ひぃぃぃい!!?」 恐怖に見開いた瞳と口から漏れる悲鳴を上げるツナにため息が漏れる。そんなイイリアクションを取るからリボーン先輩に目を付けられるんだと言ってやりたい。 椅子から飛び上がったツナを後ろからぐいっと顔ごと引き寄せた先輩はニヤリと黒い笑みを浮かべながら顔を近づけていった。 「うわわわっ!待てっ、バカやめろよ!」 躊躇いなく唇を寄せていく先輩にオレは慌てて手を伸ばし、ギリギリで押し戻すことに成功した。そんなオレをチラリと眺めた先輩の鼻で笑った表情が憎らしい。 しかしすぐにリボーン先輩の視線はツナへと向けられる。 「どうしてだ?挨拶なんだろう?」 「だからって毎回されて堪るかっ!」 ぜぇぜぇと肩で息を繰り返すツナの顎を離さないまま覗き込む先輩は、昨日のことを逆手に取っているようだ。ポジテブ過ぎる。 「まったく、リボーンのせいでスカルの好きな子知りそびれちゃっただろ!」 「パシリのことなんざどうでもいいじゃねぇか。」 そうだろうとも。そして例えここでお前だとツナに伝えたとしても、結果は目に見えている。 あの手この手でツナに秋波を送り続けて早3年。それでも一向に気付く気配は、ない。 どうしたものかと目の前にある顔を見詰めていれば、オレの視線に気付いたのか顎は先輩に取られたままながらもこちらに目を向けた。 「ん、どうかした?」 「いや…よく考えたらどうして好きになったんだろうなと。」 自分でも不思議でならない。 少なくとも上からオレを睥睨する黒い悪魔や、横からツナに見えないように足を蹴り上げてくる金髪の鬼と同じ人を好きになることだけはないと思っていたのに。 オレの好みは自分より小さくてほわほわした雰囲気の可愛らしい子がタイプだった筈だ。 「…髪だけはほわほわしてるか。」 「何の話?」 綿毛のような纏まりのない茶色い髪を見詰めていると、ツナの顎を掴んでいたリボーン先輩がその手を髪の毛の中に押し込めた。 「ほわほわっつうか、ぐしゃぐしゃじゃねぇのか?」 「って、これでも梳かしてきてるんだよ!それ以上動かすなって!」 てっきり寝癖のままだと思っていた。オレのように毎朝セットしているのかと驚いていると、ツナは思い当たったように視線を逸らして情けない笑い声を上げる。 「…でも梳かしてるだけだけどね。」 「だろうな。」 それだけでここまで髪が立っているのだからある意味すごい。 それにしても自分の好みとは大きくかけ離れている想い人を見詰めていれば、今度は横からコロネロ先輩がツナの制服のネクタイに手を掛けた。 「オレはもっときっちりはっきりしたキツイ感じがタイプだったぜ、コラ!」 「…ああ、ラル姐さんか。」 「なっ、違うぜ!」 コロネロ先輩の従姉弟だというラルという女の人を思い浮かべて納得していれば、ツナに誤解されまいと慌ててツナの肩に手を掛けて否定しはじめる。 細いツナの肩をコロネロ先輩の手加減なしの力でグラグラ揺さぶっているせいで目を回しかけていたツナをリボーン先輩が押し止めてやることでどうにか事なきを得た。 「うううっ…コロネロ、酷いよ。」 肩を揺らされたせいで酔ったのか視点が定まらない様子のツナを支えていたリボーン先輩は、悟りでも啓いた表情でツナの髪の先を眺めていた。 「鈍感で間抜けで本当にどうしようもねぇヤツだが、こればっかりはどうにもならねぇからな。」 「同感です。」 「オ、オレはそういうところも悪くないと思ってるぜ!」 3人揃ってツナを見詰めて呟けば、やっぱり意味を理解していないツナはオレたちを見回すと肩を竦めて笑いだした。 「なんだよ、お前ら一緒の子好きなのかよ?相手の子、大変だな…同情するよ。」 「「「お前にだけは言われたくないっ!!」」」 もうしばらくは…いや、まだまだ全然気付いて貰えそうになかった。 おわり お題をfisikaさまよりお借りしています |