小ネタ | ナノ







2013/12/02 09:43



先ほどまで聞こえていた生徒たちの声が今は聞こえることもなく、痛いほどの沈黙が降りている。
ただでさえ人の寄りつかない保健室にはオレと彼と2人しかいない。
ここの主である保険医は目の前の黒い笑顔を見せる男と結託していたのか、オレたちの姿を見るなりそそくさと消えていった。
肝心な時に使えない保険医というあだ名は伊達じゃない。
そんな愚痴を内心で零していれば、男……こと学年主任のリボーン先生がクリンとした自身の揉み上げを指で弄びながら口を開いた。

「どうしてお前が怪我をしてるんだ?」

お前と言われてついムカッとくるが、今はそこに喰いついている場合じゃない。
グッと言葉を飲み込んでから2度目となる説明を口にした。

「……だからですね。2年の山本武くんが怪我で試合に出られないことに気弱になり、屋上から飛び降りようとしたところを止めに入ったんです。その際に足を滑らせて捻挫をしました。山本くんは無事です」

担任として当然だったと毅然とした態度でリボーン先生を睨めば、彼は白けたように長いため息を吐くとオレが腰掛けているベッドのシーツに手をついた。

「ああ、それはもう聞いた。オレが訊きたいのはどうしてお前が怪我をしたんだってことだぞ」

意味が分からない。
だから理由は2度も言ったじゃないかと、それ以外の理由って何のことだと眉間に皺が寄った。

「このダメツナが。お前は1週間前のことも忘れてんのか。オレと約束しただろうが」

約束という言葉にハッとした。言いがかりのようなそれを思い出したからだ。
その日は学年主任であるリボーン先生とオレ以外は研修に出掛けていて2人しか職員室にいなかった。
他にも教員以外はいたのだが、たまたまその時は出払っていたからだ。
雨の降る外からは生徒たちが慌ただしく帰っていく声が聞こえている。時間も18時を過ぎていて少し早目に切り上げているようだ。
部活の顧問もしていない新米教師のオレはそんな声を聞きながら明日の授業の準備をしていた。

「沢田先生」

「はい?」

リボーン先生とは受け持ちの学年は同じとはいえ、それほど普段から親しくしていた訳でもなく、話しかけられるとは思っていなかった。
何の用だろうと何気なく顔を上げて驚いた。思った以上にリボーン先生が近付いていたからだ。
生徒たちが格好いいだのイケメンだのと騒ぐのも当然といった顔が近くてドキッとする。
顔が赤くならないように気を付けながら視線を合わせると、リボーン先生はオレの机に手を着いて覆いかぶさるように身体ごと寄ってきた。

「あの……」

これはどういう状況なのかと目を白黒させていると、リボーン先生はオレの顎に手を掛ける。

「いくら新米とはいえこれじゃどっちが生徒だか分かりゃしねぇ」

「なっ!」

いくらなんでも失礼すぎる。
確かにいまだ街を歩けば補導される側に回されてしまいそうになるが、運転免許証を見せれば分かって貰えるのだ。
キッとリボーン先生を睨むと、それを見ていた先生はふっと口元を緩めて笑い声を洩らす。

「くくくっ……その顔はなかなかそそられるぞ。うちの理事長の親戚だから知らねぇが、噂通り愛人契約でも結んで教職をゲットした訳でもなさそうだ」

「はあ!?」

縁故で教職に就けたのは否定できないが、愛人なんて誰が考えた話だ。
そもそも今の理事長はオレの従兄で、年も10離れている男なのに。
いうまでもなくオレも男だ。
信じられない噂を流されていると知って驚きで目を瞠っていると、リボーン先生は冗談だと肩を竦めた。
冗談にしても性質が悪い。従兄と同い年ぐらいなのに、とんだ根性悪だ。
腹の虫が治まらないオレは、リボーン先生を睨んだままで顎に掛かった手を払い除ける。

「悪かったな。こんな可愛い顔で思春期の中学生を相手に出来るのか少し心配だったんでな」

「失礼でしょう?!」

何度オレを侮辱するつもりだといきり立つ勢いで立ち上がれば、リボーン先生は微動だにしないで言葉を続けた。

「あのな……お前をバカにしてる訳じゃねぇんだ」

突然お前と言われたことに驚いたり、バカにしていないという言葉に身構えたりして動きが止まる。

「最初は誰でも分からねぇことや間違えることはある。だが自分の中のブレない芯は持ってねぇと怪我をしたり、巻き込まれたりするんだぞ」

リボーン先生の口調が変わったことに気付いたが、それより聞き捨てならない台詞に噛み付いた。

「怪我なんて怖くないです。オレ学生時代はよく殴られたりしたけど、だからって暴力に屈して生徒を見捨てたりはしないです!」

大丈夫だと言い返したオレに、リボーン先生は眉を顰めて睨みつけてきた。
正直そんじょそこらの不良より怖い。どころかヤクザも逃げ出すほど強面の従兄より怖くてチビりそうになる。

「バカが、自分の言ってる意味も分からねぇのが致命的だな。お前が巻き込まれてどうすんだ。大人の視点から諫めたりいい方向へと持っていってやるのがお前の務めだ。一歩引くことも覚えろっつってんだぞ」

正論すぎてぐうの音も出ない。
思わず子どもの視点に立ってしまうオレは冷静じゃないのだろう。大人と子ども、どちらの視点も持ち合わせてやることが理想なのか。
眼光の鋭さに委縮した訳ではなく言われた言葉に打ちひしがれていると、リボーン先生はオレの頭を片手で掴んで引っ張り上げた。

「リボーン、先生……」

殺されるかもと思った。
今は丁度というかタイミング悪く人はいないし。
オレがバカすぎて衝動的に……なんて悪い方へと考えて震えていれば、リボーン先生はスッと顔色を失くした。
綺麗な顔の人が表情を消すと、本当に人形のようで何を考えているのか見えないから怖い。
この後オレはどうなってしまうのかとドキドキしていれば、リボーン先生はオレの後頭部へそのまま手を伸ばしていくと顔を落とした。
視界いっぱいに広がるリボーン先生の顔と、押し付けられる柔らかい感触にぼんやりとしていれば、柔らかいそれが荒々しく息を奪っていく。
何が起こっているのか理解出来ずにいれば、口の中を散々暴れ回ったそれがようやく出て行った。
はぁ……と零れた自分の息を聞いて何をされたのかようやく理解できた。

「せっ、先生??!」

どうしてこうなったのかと狼狽えて飛び上がるように机の上に逃げれば、それを追ってリボーン先生がオレの手の上に手を重ねてくる。
殺されると思っていれば、オレの想像を飛び越えていく言動に言葉も出ない。
視線も逸らすことが出来ずに見詰めていると、またも唇が触れそうなほど近付いてきた。

「ひとつ間違えるごとにペナルティな。お前がきちんとしてりゃ、怪我なんてしないだろ?」

勿論だと首を縦に振ると、リボーン先生はフッと柔らかく笑ってオレから離れていった。




そんな一週間前の一件を思い出したオレは、今の今まで忘れていた自分の鶏頭に眩暈を覚える。
今更遅いが捻挫をした足を後ろに隠して立ち上がろうとした。
その瞬間リボーン先生はオレの肩に手を掛けると押し倒すようにベッドに身体を押し付けた。
これはさすがにヤバいと分かる。
一週間前のアレといい、この体勢といい怪しいというよりそうなのだろうか。
いやいや、あれだけ女子生徒や女性教諭、食堂のおばちゃん、ついでに保護者からも追い掛けられるほどモテているのだ。
オレみたいなダメツナを相手にする訳がない。
違う筈だと自分に言い聞かせてみるも、オレの上にいるリボーン先生は退いてくれる気配もない。
怖いながらも声を掛けてみる。

「先生?何をする気ですか……?」

そう問いかけたオレにリボーン先生は無言で答えてくれた。
器用にベッドから抜き取ったシーツをオレの腕に巻き付け、庇うように横にずらしていた足をグッと掴まれる。
声にならない叫びを上げてのたうちまわっていれば、リボーン先生はそんなオレを見詰めたままフムと考え込んだ。

「意外と面白くねぇな。この格好なら別の方法で啼かせるか」

捻挫した足を身動き取れない状態で掴まれたオレは、痛みと何をされるのか分からない恐怖とで涙が浮かぶ。

「ごめんなさい、以後気を付けます…!」

だから許してと泣き言を零せど、鼻唄混じりのリボーン先生は聞き入れてくれない。
着ていたジャケットをはだけさせられ、シャツのボタンを一つひとつ外されていく。

「な、何をする気なんですか?」

ブルブルと震えながらリボーン先生に声を掛けると、ピタリと手を止めてオレの上に伸し掛かってきた。
ギシリと軋んだ音を立てるベッドに何故かドキリとする。逃げ出そうとするもオレの腕を縛っているシーツが余計に喰い込んで痛い。
夕日も沈んだ外からは、生徒たちの声さえ途切れて不安になる。
オレの勘違いだと言い聞かせてみても、この状況はヤバくはないか。
答えを待っていたオレに、リボーン先生はフッと目元を緩めるとスラックスの前に手を伸ばしてきた。

「想像通りだぞ。最初は痛いがその内気持ちよくなるだろ……多分な」

「多分ってなんですか!って、ひぇ!そこ触っちゃダメだって!!」



おわりました






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