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2013/12/02 09:41



あいつが国宝級に鈍いことなんざ嫌でも知っていた。
このスーパーイケメンであるオレの秋波を受けてもぼんやりと流してしまえるほどなのだ。
鈍いというよりオツムの中身が心配になるバカさ加減だが、それを補ってあまりある魅力があるのだから仕方ない。
……そういえばこいつの魅力ってなんだ。
バカなところと鈍いことは確かだが、そこも含めて可愛いと思えてしまったオレの錯覚だったりするのだろうか。
しかし押し倒したいだの服をひん剥いて泣かせてやりたいと思えるのはこいつだけだ。
欲望に従うことが自らの意思だとすれば、やはりオレはこのボンクラに惚れていると言わざるを得ない。
そんなことを埒もなく思いつつ、こうしてスマホを握り締めているオレがいた。
そもそもオレの辞書に諦めるなんて文字は載っていないのだから、日々こいつをハメる……いや落とすための罠や策に余念はない。
今日も今日とてこうして眠る前のお休みコールを掛けてオレを意識させようとしているのだ。

「つーかな。何でまだ21時だっつうのに寝てるんだ?」

寝る子は育つという諺が日本にはあるらしいが、こいつには適応されていない。
残念ながらいまだに成長期というヤツは訪れてはいないちんまりとした姿を脳裏に思い浮かべてみるも、出会った当初からオレの肩より育ったためしがない。
喰い意地も張っていて、寝てばかりいる癖にである。
可哀想なヤツだなと心の中だけで憐れんでいると、その気配を察知したのか受話器の向こうから不機嫌な声が聞こえてきた。

『なんだよ、いいじゃないか。どうせお前と違って彼女も友だちもいませんよーだ』

可愛くない答えに無言で受話器を見詰めていると、ツナは焦ったように声を上げた。

『お前、何でそこで無言になるんだよ!友だちだろ、オレたち!』

ふざけるなとは言わないが、頷ける筈もない。
オレはお前の友だちになりたいんじゃない。恋人になりたいんだとここで言ってもこのバカには通じやしないのだから今は黙る。
フンと鼻で笑ってやれば、ツナは電話先でキーキーとサルのように喚いていた。
そこに一石を投じてやる。

「月が綺麗ですね」

勿論このダメダメツナが分かろう筈もない。
そもそも訳す前のI LOVE YOUすら意味が分からないことは想像に難くない。
さてここからが勝負だとツナの返事を待てば、突然奇声が聞こえてきた。

「うああぁぁあああ!そうだよ、そうだった!明日までだよレポート!ありがとう、すごいありがとう!」

勢いのまま叫び続けたツナは、オレの返事も待たずに電話を切った。
耳に当てていたスマホを覗いても通話の切れた画面が見えるだけだ。
思わずオイと情けない声が漏れる。



¶ ¶ ¶


「ということがあってな」

ツナのことをつけ狙う不逞な輩に報告する義務などないが、朝一でオレに向かって笑顔の大盤振る舞いをしていたツナを見たコロネロとスカ……パシリが事情を知りもしないで憐れむような目で見詰めるから説明してやったのだ。
説明をしたらしたでもっと憐れまれたなんて屈辱過ぎて腹が立ったオレはツナの机に腕を掛けていたパシリを薙ぎ払った。
そこに丁度よくレポートを置いてきたツナが自分の席に戻ってくる。

「ちょ、何でオレの席にリボーンが座ってるんだよ。お前のクラスは隣だろ」

「うるせぇ。お前の物はオレの物だ」

「ジャイアンかっつーの!!」

ツナの机の下で蹲っているパシリの向こうから手を叩いて大声を張り上げている。
この鈍サルがと内心でぼやいていれば、ツナの隣の席から笑い声が割り込んできた。

「うちのクラスは夏目漱石の本を読んで、時代背景を調べながら何を記したかったのかをレポートを出せと言われてたからな。丁度よかったな、ツナ」

「うん、本当だよ。リボーンが教えてくれなかったら提出できなかった。って、言っても提出できただけだけどさ」

押して知るべしというレベルなのは言うまでもない。
再提出させられるんじゃねぇかと言ってやれば、出しただけマシだとツナは胸を張る。

「それにしてもどうしてあの台詞を知ってた?」

オレも文学が得意な国語教諭に言い寄られたときに知ったのだ。
あんな情緒的な言葉で迫られるとは思わなかった。
これはツナに手取り足取り教えてやれなくとも、少しは意識させるネタになると期待していたのにこれだ。
余計なことを教えた犯人と、レポートを出した教師をしめてやらねばなどと物騒なことを考えていれば、パシリが顔を上げてツナへと問い掛けた。

「お前、4日前の授業寝てたんじゃなかったのか?」

「へ?ああ、うん……寝てたけど」

だったら何故だ。
するとツナはオレの顔を見て言い難そうに呟いた。

「だってさ、斜め前の席の女子がリボーンにそうメールしたらごめんって返ってきたって泣いてたからさ」

女の子泣かしちゃダメだろと言われて思い出す。
そういえば4日前にそんなメールがいくつも届いたことがあったと。
つまりはオレが原因だったらしい。
因果応報とはこのことか。


おわり








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