小ネタ | ナノ







2013/12/02 09:40



「うへ……ぇ、びしょ濡れ」

いつもは重力に逆らっているオレの髪が雨に負けて頬に張り付いている。
滴る雨粒を手で拭っても次から次へと落ちていくからムダだろう。
ほんのついさっきまで青空が広がっていたのに、買い忘れていた本を暇つぶしがてらに買いに出掛けたら雨に降られるなんて間が悪い。
本はシャツの中に抱えているから濡れてはいないだろうが、それを守っているオレはご覧の有様だ。
傘なんて持ってきていなかったし、ハンカチも忘れてきた。
つまりはこの雨の中を突っ切るか、はたまた雨が止むまで待つかの2択しかない。
9月の雨は冷たくて、雨に濡れた服が肌に纏わりついて体温を奪っていく。
ぶるりと肩を震わせていると、ズボンのポケットから電話の着信音が聞こえてきた。
この音は先生だ。
つい先日閉店した店の軒先で、自分の身体を抱えていた腕を解いてポケットに手を突っ込む。
あまりに慌てたせいで本が落ちそうになって、そちらに気を取られてしまうと携帯電話が疎かになった。
鳴り続ける着信音に急かされるように携帯をポケットから取り出せば、通話ボタンに触る前に音が途切れた。
思わず出た落胆の声は誰も通らない寂れた商店街に響く。
足元に振り込む雨粒も今は気にならない。
すぐに折り返そうと着信履歴に指を伸ばすも動きが止まった。
この時間はまだ塾に居る頃だろう。
少しだけ時間が空いたのか、今日は帰りが遅くなるという連絡かもしれない。
後者の方だろうなとあたりをつけてため息が漏れた。
今日は雨に降られるし、先生の電話にも出られないしで碌な事がない。
たかがそれぐらいだけど、へこむには十分だろう。
雨は止まないし、身体は寒いし。
帰っても先生はいないし、楽しみがない。
つまらない一日だなと俯いていれば、道路の向こうから車道を走る車の音が聞こえてきた。
今、水たまりの水を被ったら泣ける。
本だけは守ろうと道路から背を向けていれば、車は速度を落としてオレの前で止まった。

「何オレの電話にも出ないで、こんなところで小さくなってんだ?」

先生の声だった。
先生の車だった。
キツネにつままれたような気分で目を見開いていると、先生は車から降りて傘を向けた。

「帰るぞ」

「って、あれ?仕事は?電話出てないのに、何でオレの居場所が分かったんだよ?」

予想外の出来事に戸惑っていると、先生は濡れたオレの腕を引いて先生の差す傘の中へと押し込めた。
先生まで濡れてしまうかもと思うと申し訳ない。少し距離を置こうとして逆に肩を掴まれる。

「先生!?」

すぐに車へと押し込められそうになるから声を上げた。車が濡れてしまいそうなほど、びしょ濡れなのだ。
そんなオレに構うことなく後部座席のドアを開くと押し込める。
転がるように乗車したオレは、旅行用の鞄が2つ並んでいることに気付いた。

「これ……」

「ぼやぼやしてるんじゃねぇぞ。着替えはその中から適当に出すんだ」

「いや、っていうかさ」

どう見ても今から旅行に出るといった様子に首を傾げた。

「やっぱり覚えてなかったか。昨日電話しただろ、突然休みが取れたから午後から旅行に行くぞってな」

運転席からそう答えた先生は、オレが着替えはじめたことを確認すると車を発進させる。
肌に張り付くシャツを肩から落とせば、先生はチラリと後ろを振り返ると裸の背中に指を走らせた。

「ひぇ!」

無防備に背中を向けていたからぞわりと何かが総毛立つ。
慌てて着替えをはおれば、先生はクツクツと笑い声を漏らす。

「向こうに着いたら服なんて着替える暇もなくしてやる」

「っっ!すけべ!」

最近とみにオヤジ臭いと言ってやれば、リボーンは惚けた口調で続けた。

「内風呂が2つあるってだけだぞ。源泉掛け流しのヒノキ風呂と炭酸泉らしい。服着る暇なんてねぇだろ?」

「……」

これではオレが期待していたみたいじゃないか。
スケベなのかオレなのかと顔を赤くして俯いていたが、ふと思い出したことがある。

「先生……オレ獄寺くんに聞いたんだけど、携帯で今どこにいるのか分かるサービスがあるんだって」

そしてオレの携帯にはその機能がついているとも言っていた。
だからオレの居場所が分かったんだろうなと一つ謎が解けたことに顔を上げる。
先生はといえばあくまで無言だ。
無言は肯定と同じだと誰から聞いただろう。
濡れていたズボンまで着替えたオレは、赤信号で停車したところで助手席に移った。

「雨の日っていいもんだね!」

フロントガラスを流れる雨が、へこんでいた気分を洗い流してくれたようだった。


おわり






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