小ネタ | ナノ







2013/12/02 09:39



今、目の前にいるのは10年前のツナで、隣の部屋にはママンとビアンキとイーピンが寝ている。
オレとツナの周りには山本が隠し持ってきた日本酒と獄寺が買ってきたばかりのブランデーが転がっていた。
ついでに山本も獄寺も、了平も初めてのアルコールに撃沈して高いびきをかいて夢の中だ。
オレに向かって寝惚けて10年バズーカを撃ったアホ牛は、永遠の眠りにつかせてやろうかと思ったが今はやめておくことにする。
なにせ時間が10分しかないのだ。
軽く首裏を叩いて眠らせてから、酒に飲まれる寸前のツナへと向き直る。

「オイ、ツナ」

「は、…………あれぇ?」

どうにか中学3年へと進級できたツナたちのお祝いだといって、10年前の3月の終わりに近場の温泉に泊まりにきたことを覚えている。
この時はまだ日本に居て、絶対にマフィアになんてならないなどとオレに啖呵を切っていた最中だった筈だ。
そこにバズーカが飛んできて、こうしてオレは入れ違いでここにいた。
ぼんやりとアルコールで濁った瞳でオレを見ていたツナは首を傾げている。

「えーと、リボーンの知り合いの方ですよね?」

まだ分からねぇのかと眉をひとつ跳ねさせると、肩をビクリと震わせて後ろに飛び退ると身を縮めた。

「す、すみません!オレがちょっと眠くて目を閉じていた間にリボーンが居なくなっちゃって……その内戻ると思います!」

そうじゃねぇだろ!と言いたいところだが、今はそれどころではない。
気にしてないぞと首を振ると、やっと肩から力を抜いてオレの前に戻ってきた。

「あの……随分前の話ですが、ありがとうございました」

ペコリと頭を下げるツナにああとだけ返事をする。
ツナにとってあの戦闘は忘れられない事だったのだと知った。
オレに会って一番最初に告げる言葉がそれだったことに、思わず眦が緩む。
それを見たツナがカァと頬を染めて、それを隠すように俯いた。

「うわ……、本当にかっこいい」

ボソリと呟いた言葉は10年後のツナもよく口にしているものだ。
10年後のツナはその前後に生意気だの顔だけだのと余計な台詞も付随しているが、素直に褒め言葉だと受け止めている。
だがオレが今聞きたいのはそれではなかった。
刻一刻と時が流れていくことを目にして焦りながら、中学生らしい細い肩に手を伸ばして引き寄せた。

「ツナ」

「は、はいぃ?」

少しずつ声変わりがはじまったツナの、まだ高い声が裏返った。
細い顎も、薄い胸板も、大きな茶色い瞳も、10年後のあのツナに繋がっているのだと知らせてくれる。
10年前のオレがどうしてアホ牛なんかの弾に当たったのかといえば、理由なんて一つしかない。
そうわざと当たったのだ。
芽生えはじめていたこいつへの依存と、それをあり得ないものとしてひた隠しにしようとしていた日々を思い出して苦笑いが浮かべた。
ずっと赤子のままだと思っていたのに、それをツナが変えてくれた。
こんなオレに逃げ出さないと、自由があるのだと教えてくれたツナを意識しない訳がない。
導いてきたつもりで、隣を歩いていたツナを大切だと思い始めたのはいつだったのか。
それが変質してきたと自覚したのもこの頃だった。
だから自分にとってツナの存在意義を確かめるためにこうして入れ替わったのだ。
10年前のこのことを今のオレは覚えている。
けれどこの時期のツナの心境だけはいまだ謎のままだ。
最近ではいつもガキの癖にだの、生意気だのと拒絶するツナは、一体この時期のオレのことをどう思っていたのか。
知りたいと思って何が悪い。
ちょうどいい具合に酔いの回っているツナは、きっと今夜のことなど覚えていまい。
事実、この10年一度としてそんな素振りもなかったのだから確実だろう。
聞くなら今だと顔を近付けていくと、赤い頬を益々赤く染めてゆでダコのようになる。

「教えてくれ、ツナ。オレ……じゃねぇ、リボーンのことをどう思ってるんだ?」

「リボーン……」

オレの名前を耳にした途端ぼんやりとしていたツナの瞳が焦点を結んだ。
はだけている浴衣の合わせを気にした様子もないツナが、畳に手を付いて口を開く。

「すっっごいえらそうです!」

拳を握って力説するツナに返す言葉もなく口を噤むと、それを気にした様子もなく続けて行く。

「赤ん坊の癖にあれやれこれやれって、お前はどうなんだ!って思いませんか?」

頷くふりをして口元だけ歪めたオレに気付かず、なおもツナは訴え掛ける。

「勉強やれってうるさいし、妙な変装するし!自分の都合を押し付けるし!」

この野郎!と口に出しかけたオレを遮るように、ツナは酒の力に負けたのか畳に崩れ落ちると押し付けた手の上に顔を乗せた。

「でも、でも……居なくなるのは嫌なんです。一度目は未来に飛ばされた時に消えたことがあって。いつも傍にいるのが当たり前だと思っていたら突然消えちゃうなんて、本当に自分勝手なヤツでしょう?」

それはオレのせいじゃねぇと喉元まで出そうになった言葉を飲み込む。

「なのにさ、今度は自分だけ未来がなくてもいいなんて……オレの気持ちも知らないで!」

グズグズと鼻を啜りはじめたツナに驚いて、顔を覗き込むと何かに堪えるように目を閉じている。

「リボーンはリボーンだろ。代わりなんていないよ」

「ツナ……」

その言葉を聞けただけでここに飛ばされてきた甲斐があったと思っていれば、ツナは酒に飲まれたままでオレが居ることも忘れたように声を零す。

「ああ、もう…!なのになんで、ずっと傍に居てくれるっていうのにオレはリボーンと一緒にいるだけでドキドキするんだよ!わかんないよ!」

ツナの頬を染める酒のせいではない赤さに気付いてドキリとしていると、視界が煙に包まれていく。
見れば時計は先ほどより10分進んでいて、なるほど帰る時間かと頷いた。
消えていく10年前のツナの髪に手を伸ばすと一度だけ撫でてみる。
柔らかい猫っ毛がしっとりと湿っているのは、興奮していたせいなのだろうなと口元を緩めた。
帰ってきた10年前のオレは、この状態のツナを見て今のこの気持ちを自覚したのだ。

「またな、ツナ」

願わくば、今この時を10年後のお前が思い出してくれればと……。


おわり








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