小ネタ | ナノ







2013/12/02 09:38



執事と主人の関係で付き合ってる二人を第三者視点から見たリボツナの、漫画または小説を書きます。
というお題から妄想した小話です。
これも移動してきました。



白、赤、黄色。ピンクに茶色と様々な色が咲き乱れている。
先代の奥様がパラをたいそう愛でていたせいか、今でもこの季節は様々な種類のバラを咲かせることが私の仕事だ。
庭師でもないのにと笑われるかもしれないが、バラと向き合う時間は今の私には何よりも大切で心満たされる気がした。
額に浮いた汗を拭いとっていると、遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえてくる。

「ポールさーん!」

そう情けない声を張り上げるのは、つい先日旦那さまの執事を務めることになった少年――名を沢田綱吉という――だ。

「なんですか。執事たるもの大声を上げてはなりませんぞ」

そう窘(たしな)めれば、沢田は大きな瞳を泣きそうに揺らしながら頭を下げた。

「すっ、すみません!!オレ、どうしていいのか分からなくて……」

私の前に駆けつけてきた沢田は、小柄な体を益々小さく縮めて項垂れた。
そんなに愁傷な態度に出られると、それ以上は叱れなくなる。
まだ屋敷に来て1ヶ月と経っていないのだからとため息を飲み込むと、説明を求めるために顔を上げるように声を掛けた。

「あ、それでですね!」

今時の若い者とはいえ、嘆かわしい言葉遣いだと眉が寄りそうになる。
旦那さまはこういった無礼者や無教養な者には興味がなかった筈なのだがと、内心で首を傾げているとも知らず沢田は話を続けた。

「突然、旦那さまが今日のお仕事をお休みになると……」

どうしていいのか分からないといった様子で沢田は肩を落とした。

「それは旦那さまがお決めになったことだ。執事が口出しすべきことではあるまい?」

この沢田が旦那さまのバトラー(執事)となり、私がスチュワード(家令)となる前からの決まり事とも言える。
主の命令には背かないというのは、仕える身としは当然の約束事なのだ。
先代が家督を退き、10年前から先代の長男である今の旦那さまに仕えてきたのだが、最近の旦那さまは少し様子が異なるようにも見える。
その一番の要因がこの沢田だとするならば、私が口出しすべきことではない。
私の言葉で狼狽えたように肩を揺らした沢田は、顔を真っ赤に染めて手袋を嵌めた手をモジモジと腿の前で擦った。

「っ、オレが……したらお仕事に向かわれると」

「?聞き取れませんでしたぞ。よく分かりませんが、高価な物を要求されたり、大切なものを差し出せと言われたと?」

「いえ!違っ、そうじゃなくて……オレが……そのぅ……」

一向にらちの明かない弁明に私の堪忍袋の緒が切れた。

「言い訳は結構!旦那さまを気持ちよくお仕事に向かわせるのも執事の役目。グズグズする前にさっさと役目を果たしてきなさい!」

「はいぃ!!」

私の一喝に飛び跳ねた沢田は、慌てた様子で屋敷へと逃げ戻る。
その細い背中に一抹の不安と、言いようのない脱力感に見舞われて眩暈がした。

「仕方ない、少し様子を見てきましょう」

今日の分の手入れを終らせておいてよかったと、そうため息が漏れた。




私が庭師もどきの格好からスチュワードの服装へと着替えを済ませると、ちょうど旦那さまがお仕事へ向かわれるところだった。
先ほどの一件があったので、沢田がきちんと役目を果たしたのだとホッとして辺りを見回すも姿が見えない。
なんたる失態だと憤慨しつつ旦那さまに視線を向ければ、旦那さまはいつもの黒いスーツを既にお召しになりながらも私へと声を掛けてきた。

「いいんだぞ、ポール。ツナはオレの命令に従っているだけだ。くれぐれもいじめるなよ」

「何を仰いますか。そのようなことを、私が……」

言葉を続ける私に、旦那さまは何かを伝えるように薄い笑みを浮かべていた。
小さい頃から旦那さまのお世話をしていた私には笑みの意味が分かってしまう。
諦めとも驚きともつかない感情を隠すように頭を下げ、他の使用人と揃ってお見送りを済ませると、旦那さまのお部屋へと足を向ける。
コツコツと足音を立てる旦那さまの歩き方を真似れば、旦那さまのお部屋の中から沢田の声が聞こえてきた。

「なっ、なに?!」

私を旦那さまと勘違いしているであろうことは想像に難くない。
その上で一言言わねばと扉に手を掛けると、拒むようにドアノブが押さえられた。

「まだ支度してないから!帰ってきてからって言っただろ!」

主人のお見送りを放棄しておきながら、まだそのようなことを言うのかと頭痛がしてきた。
旦那さまには止められていたが、ここはスチュワードとして心得を諭さねばならない。
力任せにドアノブを押すと、中で何かが崩れ落ちた。
ストンと床に尻もちをついたのは、何故かメイドの格好をした沢田だ。
私の顔を見てあっと声を上げた途端、沢田は俯いて手を床に付いた。

「すみません!これはその……旦那さまがどうしてもと」

しどろもどろの説明と、額を床に押し付けんばかりの勢いで小さくなる沢田を見て、年のせいではなくよろりとよろけそうになる。

「それから、この服を着ている時には部屋の外に出ないようにと言い付かりまして……出来ませんと言うと、仕事に行かないと言われ……」

旦那さま…!と心の中で叫んでみても、クルリとカールした揉み上げを弄びながらニヤリと笑う顔しか思い浮かばない。
ああ、私の育て方が間違っていたのか。
ついつい昔を思い出して遠くを見詰めていれば、叱られる恐怖と、従わなければならない使命とに沢田は困惑し震えていた。
その小さな肩に申し訳ないと思いつつも声を掛けた。

「沢田、お前は旦那さまに雇われている執事です。旦那さまの命令に従うことも、その旦那さまのお支度を手伝うのもお前の仕事です」

「ええっ、と」

私の言葉をどう捉えようかと考える沢田の肩に手を掛けると、私はもう一度言った。

「つまり、その格好でもいいので旦那さまの執事としての仕事をするのです」

「ええぇ!!?」

大きな瞳を見開いている沢田を立たせると、スカートの裾を一払いして部屋の外へと押し出した。

「いや、オレ外出るなって!」

慌てて抵抗する沢田に首を振ると言い切る。

「私から旦那さまに伝えます。お前はまだ執事としては半人前なのですから早く仕事を覚えるように」

執事がメイドでもいい。それが旦那さまの命令ならば使用人は従おう。
だから誰も沢田がメイド服を着ていたとて後ろ指など差さないと言えば、沢田はがっくりと肩を落として頷いた。
妙に似合うメイド服の執事の後ろ姿を見送ると、楽しそうに仕事に向かった旦那さまに呟いた。

「これでお気に召しますでしょか?リボーンさま」

わざと言い付けを破らせたことに、旦那さまは喜んでくれるだろうと思いながら。


おわりん






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