書いてる本人が一番楽しい小説 | ナノ


[> 死神の花嫁さん




4.夫婦喧嘩

 私は死んでいるらしい。
 それは最近知った話だ。
 そして私と死神はまだ正式な夫婦ではないことも。
 何故と少年の姿をした死神に問えばお前の為だと死神は言う。
「お前と私が夫婦の契りを交わせばお前は私と生き、私と共に消滅しなければならなくなる」
 ―――消滅、
私は繰り返した。
 すると死神はああそうだと頷く。
「そこまでお前を縛る権利を私は持っていない。たかが契りの話だ、しなければならないことも今はないだろう」
「でも、」
「それに、契りを交わしてしまえばお前は生まれ変わりが出来なくなる」
「別にそんなもの興味ない」
「未来はどうか解らないだろう。好きでもない、しかも死神なんかと一緒に死ぬなどごめんだと思うように、いずれなる筈だ」
 決め付けるような物言いに、私は少しむっとした。
「一人で決めちゃうのね。でも私の気持ちまで貴方に決められないわ」
 刺すような、自分でも驚くくらい冷たい声だった。
 私って怒れるんだ、と他人事のように頭の隅で思った。
今まで一人だったからちぃとも知らなかった。
「それに、一緒になりたくないのは貴方じゃないの。それこそ、こんなただの生贄なんかと」
 嘘つき、本当のこと言ったらどうなの。言い放ってやると少年の姿の死神は目を見開く。
 死神の癖に、私より人間くさい顔をするのだ。
「私は―――」
 ぽつ、と死神は呟いた。
 でも結局、そのとき私がその続きを聞く事はなかった。


5.困惑

 死神が口を聞かなくなった。
 少し離れたところから時折、こちらに視線を送って来るのが非常に鬱陶しい。
 言いたい事があるなら言えば言いのに。
 今は金髪に厳つい面立ちの青年の姿で、死神は押し黙っている。
 そういや、最近死神はよく人の姿をとる。
 疑問に思ったが今は質問することもできやしない。
 私は人と接して来なかったせいで全然そういう事が解らないのだ。
 ――しまったなぁ、
 私は思った。
 そうして呟く。
「困ったなぁ」

 どうやったら仲直りできるんだろう。


6.仲直り

 口を聞かなくなって随分経ったような気がする。
 死んでから時間や日付が気にならなくなっている事に今更気付いた。
 死神はと言うと、短い茶と金の中間色の髪を弄りながら今日もだんまりを決め込んでいる。
 優しい面立ちが、死神と言うものの概念に全くそぐわなかった。
「ねぇ、」
 そっぽを向いたまま独り言のように呟く。
 向かう先は勿論死神だ。
「貴方はなんで死神と呼ばれているの」
 言うと死神は無言のままこちらを向く。
「……お前達人間が勝手にそう呼んでいるんだ」
「じゃあどうしてそう呼ばれるようになったの」
「知らん」
 そこで会話が途切れた。
 頑張って話題を探してみるものの、全く見つからない。
 私が途方に暮れていると、死神が傍に来て私の顔を覗き込んだ。
「お前は、私の事が嫌いか?」
「……」
「別に殺したりなどしない。だが正直に言え。――お前は、私の事が嫌いか?」
 海色の、真っ直ぐな瞳。
 その瞳が私の瞳を見据える。
「嫌いじゃ、ない」
 正直に言うと、死神は僅かだが安堵したらしい。強張った表情を和らげた。
 寧ろ好きな方――とは、私は言わなかった。
「貴方は、最近なんで人の姿をとるの」
 聞くと死神は目を見開き、見開いてから
「お前が寂しくないように」
と言った。
 今度は私が目を見開く番だった。
「……別に、寂しくなんて」
 言いかけて口を噤む。
 ――寂しくなんてないのに。
暗い世界にただただ二人きり。
二人居れば一人だった私には十分だ。
「私には、貴方が居ればそれで」
 目を見て言う。
 真っ直ぐに、ちゃんと解ってもらえるように。
「私は――」
 死神は言った。
 何かに動揺しながら言った。
「私は、私だって、お前が居れば、それでいい。たとえどんなに冷たくされようとも、どんなに相手にされなかろうとも」
 それでも、
「それでもお前に嫌われるのは駄目だ。お前がどこかに行くくらい駄目だ」
 そこまで言って死神は頭をうなだれる。
「自分勝手ですまない、私は強欲だ。だがお前に求めるのはこれきりにする。だから私から離れるな、私を嫌わないでくれ――私は、私はお前を慕って……いるのだ」
 死神の掌は温かい。
 そういえば誰かに必要とされるのは始めてだ。
 死神の頭に腕を回してやると、死神は肩を僅かに震わせた。
 誰かに必要とされるのも始めてだけど、私もこんなに必要とするのは始めてだった。

「どこにもいかないから、どこにもいかないで」
 言うと死神は浅く頷いた。
 心が通じ合った様な、そんな錯覚がした。


7.告白と

 死神が、姿を変えなくなった。
 短い髪の、優しい顔をした男の姿のまま、今まで以上に構ってくる。
「新しい服はいらないか」
とか、
「この世界に不満はないか」
とか、
「お前は私の事をどう思っている」
だとか。
 非常に鬱陶しかったので正直に言った。
すると今度は沈み込んでしまった。
 非常に面倒臭い。
「私はお前に沢山を求めた」
 死神は言う。
「だからお前も私に何か求めてくれ」
 そんなことをあまりにも真剣に死神は言うので、私は少し笑ってしまった。
「何でもいいの」
「ああ」
 死神は深く頷く。
「じゃあ目を閉じて」
「これでいいのか」
 死神は素直に目を閉じた。
 眉を潜めながらも言う通りにするその仕種に、笑いが込み上げる。
 私は少し迷ってから、そのおでこに唇を寄せた。
 死神が肩を跳ねさせる。
「ねぇ死神」
「なっ、なんだ」
「私の事をどう思う?」
「この間、言っただろう……私は、お前が……」
 そこまで言って死神は言い淀む。
 そして目を開いて私を見た。
 海色の、綺麗な瞳。
「お前が、好きだ」
 他の人の事など解らない。
 だけど思う、私はこの人が好きなのだ。
 きっと、会った時から。
「ねぇ死神」
 に、と笑う。

「私、貴方が好きよ」

 次の瞬間キスされた。
 私からしてやるつもりだったのに、全くもって愛おしい死神だ!

ゲロ甘になりました
捻くれた女の子とヘタレ過ぎる死神にするつもりだったのに……
残念過ぎる私に乾杯\(^o^)/

H23.07.27
迅明


Novel Top





- ナノ -