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[> 死神の花嫁さん




1.嫁入り

 疫病は、死神の呪いだと言う。
 だから花嫁を遣るのだと言う。
「贄に出されたのか」
「それ以外なんだと言うの」
「……そうだな、それもそうだ」
 その髑髏はふ、と笑った。
 ああ、この人は案外寂しがりやなのかも知れない。
私はどことなく思った。
「貴方、死神なの」
「そうらしい」
「その姿以外出来ないの」
「できる。人型をとろうか」
「その方がらしくていいわ」
「そうか」
 暗い暗い、世界の中に二人きり。
別に何をしろ、と言う訳でもない。
 ただただ側に居るだけ。
ただただ暗い世界に二人きり。
 この人となら案外、悪くないかもしれない。
 ふっとそう思った。


2.質疑応答

 お前親族は、と死神は突然言った。
いない、みんな死んだと私は答えた。
 ならば友人は、と死神は言うので、みんな私を忌むのよと答えた。
 ならばお前は独りぼっちか。
死神は言うので私は短く頷いた。
「そうか、」
 そう死神が、呟いた。
「ならばお前の帰る場所は此処しかない訳だ」
 少し喜色を帯びた声。
「私はお前を手放さなくて言い訳だ」
 死神はくつくつと喉を鳴らした。
 ――骨の癖に。
私が悪態をついても、死神は嬉しそうだった。


3.姿の話

「貴方は今、髑髏の姿だわ」
 私はふと思った。
「貴方の本当の姿ってどんなのかしら」
 すると死神は困ったような顔をする。
 訝しんでいると死神は口を開いた。
「私は大抵、どんな姿でも取れる。産まれたときから、だ。だから私は元がどんな姿だったか覚えてない」
「へぇ、じゃあその髑髏は一番お気に入りの姿なの」
「いいや違う」
「じゃあなんでその姿なの」
「お前がこのままがいいと言ったからだ」
 言って、髑髏はそっぽを向いた。
 なんて人間くさい死神だ。
姿が姿で髑髏だからちぃとも可愛くない。
「じゃあ私と出会ったときはどうして髑髏だったの」
「出会い頭、この姿を見て悲鳴を上げた贄は食い殺す事にしているんだ」
「何の為に」
「度胸のある奴じゃないと私といられないからだ。別に私を好けとは言わない、だが傍に居ろ。辛いかも知れないが私達は一応夫婦だ」
 別に、辛くはないけど。
私は思う。
 案外、嫌でもないんだけど。
 後ろを振り返るとそこに髑髏は居なかった。
 ただ、髑髏のいた場所に黒い猫がいた。
 可愛い、私が言うと猫はそれもそれで複雑だとぼやく。
 その日から死神はちょこちょこ姿を変えるようになった。


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