[> Missing Emotion 3 |
「おっ、そぉぉおおぉおぉい!」 「ぐぁっ!」 目の前に星が飛び散った。 俺は俺の鼻面に飛来したものを見て驚愕する。 「殺す気かよ!」 「砥石じゃ死なないよ! って、そんなことじゃない、何で市が終わるのがお昼なのに帰ってくるのが暮れなの? ちょーーーっと心配しちゃったじゃないの!」 その発言に俺は目を丸くした。 「心配してくれたのか?」 すると日向は頷いた。 「小指の甘皮くらいは」 「ぜんっぜん心配してねぇ!」 「もう、お昼ご飯作るか作らないか迷ったんだからね。残ったら困るじゃない」 「俺への心配が甘皮程もない!」 畜生ちょっとでも感動した俺が馬鹿だった! やり切れない気持ちとともに外の切株に腰掛ける。 考えるのは彼我木輪廻の事である。 『僕は、仙人だよ。君の苦手意識がそのまま反映されるんだけど……君には僕が何に見える?』 冗談じゃない。 俺にはあいつは"男"であるとしか認識できなかった。 そして俺が男であるとしか認識していないのはただひとり。 「日向の、死んだ恋人……」 遠くでふふ鳥が鳴いた。間抜けな声だ。おまけに馬鹿みてぇな鳴き方しやがる。 何か心臓の辺りがムカムカとする。やり切れなくてやり切れなくて意味が解らない。 いや、意味は解る。 俺はその名も知らねぇ男に苦手意識を抱えてる訳だ。それがコレの正体なんだろう。――なんだろうけど、その苦手意識の意味が解らない。 別段、あの朱塗りの刀に感じるものがあった訳でもない。 ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしる。こんな気持ちは初めてだった。胸糞悪くて堪らない。解らない、解らない、なにもかもが解らない。 「おーい、四季崎」 「ん、何だよ」 「ご飯、おにぎりだけならあるけど」 「あぁ、助かる」 短く礼を言って、相も変わらず形の悪い握り飯を受け取る。 「………なぁ日向」 「はいな、」 「お前の恋人、どんなやつだったんだ?」 「…………ううん…刀作りに誇りをもってたよ。女の私が教えてって言っても嫌な顔しなかった」 少し、瞼を伏せて日向は言う。 「多分、物凄く好きだったんじゃないかな。毎日毎日スッゴく楽しくて、一緒にいるだけで楽しかったけど、死んじゃったからどうしようもない」 泣き顔なのに、どう見たって泣き顔なのに、日向は笑う。 その顔に涙はない。 筋の通った強さというものを四季崎は感じた。 ―――なあ、日向。 四季崎は聞いてはいけないと思いつつ聞く。 言葉がどうしようもなく唇から流れてしまった。 「どうして、そいつは死んだ?」 日向は移ろう花の様に笑って言った。 「私が殺したの」 そうか、としか四季崎には言えなかった。 Novel Top |